表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANgelic of the Dead  作者: 書庫
四章--死の大行進《デス・マーチング》--
44/186

第三十七夜:千百二十六人

死の大行進(デス・マーチング)――それは確かに終わりを迎えようとしていた。


クラウゼンブルク内部に入り込んでいたゾンビは、リージュの浄化によって一掃され、外壁付近に残っていた死者たちも、彼女の放った白き光によって塵と消えた。


外壁の上、アイシスは冷静に戦況を見つめていた。

彼女の指示で外壁上の兵たちは残党の動きを注意深く見守りつつ、弓と魔法で応戦を続けていた。だが、もうそこに押し寄せる黒い影はない。


かつて森から次々と姿を現したゾンビの群れは、今やほとんどが消え去り、あとは僅かな残党が森の奥に消えていくのみだった。


「……夜までには出られるな」


アイシスは静かに呟いた。

動ける者たちで討って出る準備は進められていた。

残るわずかな影を討ち果たすために。


一方、コーネリアは澄んだ空に目を向けながら、ゆっくりと浮遊していた。

浄化の光に包まれた彼女の姿は神々しささえ帯びている。


周囲にはもはやゾンビの姿はなかった。

彼女の結界に近づくものなど、もう一匹たりともいない。


「ようやく終わったか?」


ぽつりと呟かれたその声は、どこか寂しげだった。


「流石に今回で、あたしも引退かね……」


それが冗談か本音かはわからなかった。

だが、長きにわたりこの地を守り続けてきた彼女の胸には、確かな達成感と同時に、どこかに置いてきた青春の名残のような感情があった。


そして、もう一人。


ミルベーナは、骸の群れの中に静かに立っていた。

彼女の大剣は血に染まり、既に幾千の命を刈り取ってきた証を刻んでいた。

残るは最後の一匹。ぼろぼろのゾンビを、大剣で縦に真っ二つに断つ。


倒れる死体。

これで、すべて終わった。


「……終わり、か」


その声は自分に言い聞かせるようだった。


周囲を見渡す。もうどこにも、動く影はなかった。

僅かに残るのは、自分が倒した骸の山。

静まり返った世界に、吹き抜ける風の音だけが響く。


ミルベーナは無言で大剣を背負い、ゆっくりと街の方へ歩き出した。


彼女は責務を果たした。

自身の力で、目の前に迫った脅威を退けたのだ。


だが、疲労は限界に達していた。

全身の痛みと、張り詰めた魔力の消耗に耐えながら、彼女はゆっくりと歩き続ける。


けれど、その歩みに迷いはない。


「……帰ろう」


誰に告げるでもなく、そう呟いて。


ミルベーナは、クラウゼンブルクへと帰還した。




クラウゼンブルク――人口約五千の街は、死の大行進(デス・マーチング)の終焉を迎えた。

だが、残されたのは勝利の実感ではなく、静かな喪失感だった。


今回の襲撃で、ワルツハイムは奇跡的に大きな被害を免れた。

街を守るコーネリアの力、そして備えによって、人命においては無傷だったと言ってもいい。


だが、クラウゼンブルクは違った。


記録された死者は千三十九人。

負傷者は二千九十四人。

依然として行方が知れない者は二百八十六人。

そして、ナグリスに噛まれ、感染死を待つ者が八十七人。


実質の死者は千百二十六人に達した。


犠牲の多くは、第一陣から第三陣の兵士たち、そしてゾンビが街に侵入してからの一般市民だった。外壁が崩れた一瞬の隙を突かれ、逃げ遅れた人々が次々と犠牲になった。助けに入った者も巻き込まれた。誰もが力尽きるまで戦い、そして倒れた。


焼け焦げた森は、黒く死んだ木々が無残に立ち尽くしていた。

実りを期待していた果実の木々も、炎に呑まれ、しばらくは再生の兆しさえ見えないだろう。焼け跡には、焦げた地面と白い灰だけが残っていた。


だが、それでも――。


この地ではこれが”日常”だった。

豊穣と安定を享受する季節が訪れ、やがて何の前触れもなく災厄が牙を剥く。

失われる命と、また生まれ変わる命。

その繰り返しで人々は生きてきた。


過去には町ごと滅び、誰もいなくなった土地も少なくはない。

それでも、人はこの地に根を張り、守ろうとする。


自らが生まれ育った故郷である限り、最後の一人になるまで、戦い続ける。

それが、この地の”誇り”だった。


ファルムス帝国は、この戦の報告を受け、手厚い支援を行うだろう。


少なくとも、これほどの犠牲を払った街を見捨てることはしないはずだ。

だが、それは先の話だった。


静かな街を見下ろし、セワスは記録帳を開いた。

新たに書き記される死の大行進(デス・マーチング)の歴史。

決して誇れるものではない。

ただ、これもまた”現実”だった。


「……また、増えてしまったな」


死の記録が、また一つ重く刻まれていく。

セワスは目を閉じ、数秒だけ天を仰いだ。

この世界の残酷さを、改めて痛感しながら。

今後は日、火、木曜日の11時更新となります。

「日曜日は二話更新」となります。


【2025年3月31日、第一夜〜第三夜 改稿リライト】リライト企画進行中(牛歩)

現在第一夜〜第三夜の文章と構成を全面的にリライトしました。

以前のバージョンを読んでくださった方も、改めて楽しんでいただけたら嬉しいです。


Xアカウント

https://x.com/r5mswm?s=21&t=YDHDT292BvtoU2Xhs0cHWQ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ