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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
四章--死の大行進《デス・マーチング》--
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第二十七夜:交錯する想い

投稿遅れました!申し訳ありません!!

軍議が終わり、部屋の中は急速に活気を失っていった。

兵士や指揮官たちは、決定した作戦に従い、それぞれの持ち場へ向かう。

その場に残ったのは、ミルベーナ、フォスター、ジーク、そしてリージュの四人だけだった。


「……いよいよだな」

フォスターが低く呟く。

ジークが小さく笑い、肩をすくめる。


「やるしかない、でしょ?」


互いに拳を軽くぶつけ、短くうなずき合う。

言葉は少なくとも、それぞれの決意は伝わっていた。


だが――

その輪の中で、リージュだけがうつむき、ぎゅっと拳を握りしめていた。


「リージュ?」


ミルベーナが気づき、声をかけた瞬間――


「……そんなに、私って足手まとい?」


リージュが顔を上げる。

その瞳には悔しさが滲み、抑えきれない怒りが込められていた。


「戦場に出るのが危険だってことくらい分かってるよ!

でも……だったらもっと早く言ってくれたらよかったのに!」


「リージュ、それは――」


ミルベーナが言葉を探す間もなく、彼女は続けた。


「私だって戦える!なのに、なんで私だけ街に残らなきゃいけないの!?

どうせ、足手まといだからでしょ!?」


声が震えている。

涙が滲んでいるのに、それでも彼女は必死に怒りを抑えようとしていた。


ミルベーナは、痛む胸を押さえるような気持ちでリージュを見つめた。


確かに、彼女の戦闘経験は一度だけだ。

黒涙湖に来てからも、彼女の力は安定せず、暴走の兆候すらあった。

そんな状態で戦場に出るのは危険すぎる。


きっと、フォスターやジークも同じ判断をしていた。


でも――リージュにとっては、そんなこと関係なかった。

彼女はただ、『仲間と共に戦えない』という現実が悔しくてたまらないのだ。


「リージュ……」


ミルベーナが手を伸ばそうとした、その瞬間――


「もういい!!!」


リージュは叫び、そのまま部屋を飛び出していった。


「リージュ!」


ミルベーナがすぐに追おうとする。

だが、その時だった。


「フォスター、ミルベーナ」


軍議室の入り口に立つカエラが、冷静な声で呼び止めた。


「お前たちはワルツハイム方面へ向かう。すぐに出発しろ。

馬車はすでに待機している」


「……!」


ミルベーナは歯を食いしばる。


リージュを追いかけたい――

誤解を解きたい――


でも、それよりも先にやるべきことがある。

それが戦場に立つ者の責務だと、理解しているから。


そんな時、ジークが一歩前に出て、ミルベーナの肩を軽く叩いた。


「大丈夫、ミルベーナ」


ミルベーナが顔を上げると、ジークは優しく微笑んだ。


「リージュには、僕からちゃんと説明しておくよ」


「ジーク……」


「リージュにしか守れないものがある。だから、この街に残ってもらうんだよね?」


その通りだ。

リージュは戦場に立つことはできなくても、

もし最悪の事態が起これば、彼女にしかできないことがある。

それを理解してもらうためには、もっと言葉を尽くすべきだった。


ミルベーナは小さく息を吐き、ジークに向き直る。


「……ごめんなさい、私の代わりに……ちゃんと伝えてもらえるか」


「もちろんだよ」


ジークは力強く頷いた。


ミルベーナとフォスターは、馬車へ向かう。

振り返ることなく、ただ前へ。


――リージュが守る街を、彼女の思いを、必ず守るために。




――もう、嫌だ。


あたしは軍議室を飛び出し、無我夢中で駆けた。

どこに行くでもなく、ただ、あの場にいたくなかった。


喉が焼けるように熱い。

胸の奥が締めつけられるように痛い。

目に映るものがにじみ、頬を伝う熱い雫に気づく余裕もない。


「……なんでよ……」


誰にともなく呟いた。


なんで、あたしだけ戦えないの?

なんで、みんなと一緒にいちゃいけないの?

なんで……


悔しくて、悔しくて、足元の石を力任せに蹴り飛ばした。

石は乾いた音を立てて転がり、何の抵抗もなく消えていく。


あたしの力なんて、その程度なんだろうか。

みんなの前に立ったって、結局足を引っ張るだけ?

だったら、あたしは……


「――本当に、何もできないの?」


呟く声が震える。


それでも、どこかで期待していた。

「そんなことはない」って、誰かが言ってくれることを。


でも、誰も言ってくれなかった。

それが、一番悔しかった。


「はぁ……っ、はぁ……っ」


呼吸を整えながら、広場の片隅にある石段に腰を下ろす。

風が頬を撫で、少しだけ冷静になった。


「あたし……」

ボーッとしていた。

あたし、泣いてたんだ……。

涙を拭ってると、声をかけられた。


「ここにいたんだね」


振り向くと、ジークが立っていた。


「……何しに来たの?」


ぶっきらぼうに言ったつもりだったのに、喉が詰まり、かすれた声になった。


ジークはゆっくりとあたしの隣に座る。

「ミルベーナが、君に伝えたいことがあるって」


「……ミナが?」


「うん」

彼は柔らかく微笑むと、夜の帳が下りる街並みを眺めながら、ゆっくりと話し始めた。


「リージュ、君は弱いからここに残るんじゃない」


――また、それ。

そんなの、もう聞きたくない。


そう思って顔を背けようとした時、ジークが続けた。


「君には、君にしかできないことがある」


「……っ」


「この街を、もし最悪の事態になっても、守れるのは君しかいない。

それは、ミルベーナも、フォスターも、僕も、みんなわかってる」


「そんなの……っ!」


言いかけて、飲み込む。

分かってる。


あたしは、みんなみたいに戦えない。

でも――


「……それなら、あたしにだって、戦わせてよ」


ようやく出せた声は、情けないくらい震えていた。


「あたしは……みんなと一緒に戦いたいのに……」


「戦うよ、リージュ」


ジークは静かに言った。


「君がこの街を守ることも、立派な”戦い”だから」


あたしは、その言葉の意味を考える。


「……でも、みんなは戦場に行くのに……あたしはここで、ただ待ってるだけ?」


「待ってるだけ、じゃないよ」


ジークはあたしの手を軽く持ち上げた。


「戦場は、そこだけじゃない。

ここが落ちれば、みんなの帰る場所がなくなる。

だから、君にはこの街を託す」


「……あたしに?」


「そう。君にしか、できないことだから」


あたしは、ジークの瞳をじっと見つめる。

彼の目には、迷いがなかった。


あたしがここに残ることに、何の疑いも持っていない。


「……本当に?」


「本当に」


「あたしに……できる?」


「君だから、できる」


その言葉に、胸の奥で何かが少しだけ溶けるような気がした。


「……わかった」

あたしは小さく頷いた。


「じゃあ……あたしは、ここで戦う」


「うん」


ジークが微笑んで、拳を差し出す。

あたしは、その拳にそっと自分の拳を重ねた。


「ちゃんと、帰ってきてね」


「もちろんだよ」


そう言ってジークが立ち上がる。

あたしは一度、大きく息を吸い込んで目を閉じた。

気持ちは、もう整理がついた。


その時、あたしの膝の上に、ふわりとした小さな影が飛び乗ってきた。


「フェリオ……?」


ふわふわの毛並みをした小さな相棒は、

あたしの顔を覗き込むようにしながら、小さく鳴いた。


「きゅるっ」

まるで「お疲れさま」と言うみたいに、あたしの頬にふんわりと鼻を押し付ける。


「……心配してくれてたの?」


「きゅーきゅ」


あたしはフェリオの背中をそっと撫でる。

あたたかい体温が、じんわりと手のひらに伝わってきた。


「……ありがと。あたし、もう大丈夫だから」


するとフェリオは満足そうに尻尾を振り、あたしの腕の中にすっぽり収まった。


「なんか、励まされた気がする……」

あたしは苦笑しながら、フェリオの頭をなでた。


「うん。あたし、ちゃんとやるよ」


小さな相棒が、私の言葉を聞いているかのように、優しく瞬きをした。


あたしは――

戦う。

ここで、あたしにできる”戦い”をするために。




夜の帳が街を包み込む中、ジークとリージュはギルド本部へと向かっていた。

静かになりつつある街並みの中で、人々の慌ただしい気配だけが残っている。


戦場へ向かう者。

家族を守るために逃げる者。

この街の運命が、刻一刻と変わっていくのを感じる。


その時、背後から声をかけられた。


「おい、そこの坊主と嬢ちゃん」


振り向くと、ガルドアが腕を組んで立っていた。

隣にはリディアとプルワもいる。


「ガルドアさん!みんなもここにいたんだね!?」


ジークが驚いて問いかけると、ガルドアは肩をすくめた。


「ああ、俺たちは先に街へ入ってたが……まさかこんな大事になるとはな」


彼の言葉には、戸惑いが滲んでいた。


それも無理はない。

万に近い数のゾンビが迫っているという未曾有の事態。

兵士であれ傭兵であれ、心穏やかでいられる者などいない。


……ただ、一人を除いて。


ジークは視線を横にずらし、リディアの顔を見た。


(……なんでだろ、リディアさん、そんなに楽しそうなんだ?)


まるで祭りの前夜のように、彼女は目を輝かせていた。

唇の端には微かな笑みすら浮かべている。


「……リディアさん?」


「ふふっ、どうしたの〜ジーク君?」


無邪気な笑みを浮かべながら、彼女は首をかしげる。


「いえ……その、……怖くないんですか?」


「え? なんで?」


ジークは一瞬、言葉を詰まらせた。

この状況で「なんで?」という反応が出ること自体が、理解の範疇を超えていた。


ガルドアもリディアの表情をちらりと見て、ため息をつく。


「こいつは昔からこうだ。 まぁ、少しぐらい怖がるくらいがちょうどいいんだがな……」


「でも、ゾンビの大群が押し寄せてくるのよ?」

リディアは、心底楽しそうに言う。

「どれだけの魔法が試せると思う?」


ジークはその言葉に、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(……やっぱり、リディアさんはどこかズレてる)


この状況を、“試せる機会”だと考えること自体が異常だ。


けれど――

そんな異常な考えを持つ彼女が、戦場においては頼れる存在であることも事実だった。


「……まぁ、命だけは大事にしてくださいね」


「はーい」


ひらひらと手を振るリディアに、ジークは苦笑しながらも警戒を解かなかった。


その後、各々の配置について話が進んだ。


ガルドアはジークと同じ歩兵部隊。

明日の夜明けには前線へ配置されるため、この後仮眠を取り、明け方に進軍する予定だった。


リディアは外壁魔法部隊。

死の大行進(デス・マーチング)が外壁まで迫れば、魔法兵たちと共に迎撃を担当する。


プルワは先ほどまで混乱の中で逃げ惑う市民たちを、

少しでも安全な場所へ誘導する役目を担っていた。


「俺たちもそろそろ行くぜ」


ガルドアが腕を回し、首を鳴らす。


ジークも、その場を離れる前に、

リージュの腕の中でくつろぐフェリオに視線を向けた。


「ちゃんとリージュを守ってね、フェリオ」


「きゅきゅっきゅっ!」


フェリオは丸い瞳を瞬かせ、小さな前足をちょこんと挙げた。


「へっ、頼もしい相棒ってわけか」

ガルドアは苦笑しながら、リディア、ジークと共に持ち場へ向かっていった。


そして、最後に残ったプルワが、胸を張ってリージュの前に立つ。

「よーし、おねーちゃんはオイラも守ってやるよ!」


「え?」


リージュが驚いて目を瞬かせると、プルワはふんぞり返りながら続けた。

「このちっこいのより、オイラの方が役に立ってやる!」


「きゅるるる!!!」

フェリオが一気に膨れ上がり、プルワの足元をぴょんぴょんと跳ね回る。


「なんだよ、やるか!? おい、そっちから仕掛けてくんなって!」

「きゅるるるるっ!!!」


小さな獣と小さな完獣ベスティアの小競り合いが始まり、

リージュは思わず笑ってしまう。


「……もう、二人とも。ありがとね」


プルワは「ふふん!」と鼻を鳴らし、フェリオは小さく尻尾を振る。


「さ、ギルド本部に戻るぞ!」


そう言いながら、プルワは先に駆けていく。

リージュはフェリオを抱え直し、その背中を追いかけながら、そっと呟いた。


「……あたしも、守るよ」


小さな相棒の体温が、じんわりと手のひらに伝わる。

戦いの時は、もうすぐそこまで来ていた――。




―― 街道、馬車の二人


夜の街道を、馬車は静かに進んでいた。


外には兵士たちが点々と配置されているが、夜になれば”野良”が出る可能性もある。

行軍は慎重に、警戒しながら進められていた。


馬車の中、オレはぼんやりと天井を眺めながら、ふと隣のミルベーナを横目で見る。


彼女はじっと前を見つめたまま、無言だった。

膝の上に置かれた手がわずかに強張っている。


――リージュのことを考えてんだろうな。


あの二人は、ずっと姉妹みたいだった。

つい数時間前まで、あんな風に険悪になるなんて、想像もしてなかっただろうに。


……いや、たぶん今回が初めてのケンカなんだろう。


「……なぁ」

フォスターは腕を組み、軽くため息をついた。


「今は集中しようぜ。ジークがちゃんと姫に伝えてるって」


ミルベーナは、小さく息を吐く。

「……わかってるわ。でも、あの子……きっとすごく悔しがってると思う」


「そりゃそうだろうなぁ」

フォスターは苦笑しながら、馬車の壁にもたれる。


「でもよ、だからってお前までそんな顔してたら、リージュは余計気にすんぜ?」


ミルベーナはその言葉に、僅かに目を伏せた。

「……そう、ね」


そう言ったものの、彼女の表情はまだ固いままだった。


フォスターは少し考えてから、何気なく言葉を継ぐ。

「ま、俺としては珍しいもん見たって感じだけどな」


「珍しい……?」


「お前があんな風に感情的になるの」


ミルベーナは一瞬きょとんとして、それから苦笑した。

「……自覚はあるわよ。でも何故かしら、あの子のことになると、ついね」


「……姫が大事なんだな」

フォスターが呟くと、ミルベーナは微かに笑みを浮かべた。


「……ええ、大事よ。……妹がいたら、こんな感じなのかしら」


「妹、ねぇ……」

フォスターは小さく鼻を鳴らす。


「なによ」


ミルベーナが怪訝そうに見つめてくる。


「いや、ただ……」

フォスターは少しだけ視線を逸らした。


「なんか意外だったから」


「何が?」


「お前、もっとこう……冷静で、なんでもそつなくこなすタイプだと思ってた」


ミルベーナはわずかに驚いた表情を浮かべ、それから肩をすくめた。


「まぁ、普段はそうしてるつもりよ。

でも、リージュのことになると、つい保護者みたいになるのよね」


「……そっか」


フォスターは目を細め、何気なくミルベーナの横顔を眺めた。

馬車の小さな窓から入り込む月明かりが、彼女の横顔を柔らかく照らしている。


(……こうして見ると、意外と……)


そんな考えが一瞬よぎったが、フォスターはすぐにそれを振り払った。

何を考えてるんだよ、オレ!


「……なによ?」


じっと見られていることに気づいたのか、ミルベーナが怪訝そうに顔を向ける。

フォスターはそっぽを向き、軽く咳払いした。


「なんでもねぇよ」


「ふぅん?」


ミルベーナは怪しむようにオレを見た気がするけど、それ以上は追及しなかった。


馬車の中は、静かな揺れと共に沈黙に包まれる。

でも、さっきよりも、ほんの少しだけ空気が柔らかくなった気がした。

夜の冷たい風が、窓の隙間から静かに流れ込んでくる。


戦場は、もうすぐそこまで迫っていた――。

今後は日、火、木曜日の11時更新となります。

「日曜日は二話更新」となります。

こちらも新たな試験投稿になりますので、宜しくお願いします。

(3/23〜)


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