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ANgelic of the Dead  作者: 書庫
三章--ヴァルストーク砦攻略戦--
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第十六夜:一時の安息 後編

「リージュさーん、ミルベーナさーん!」

下から元気な声が響く。ジークが手を振っていた。


「行きましょう、彼らとも話がしたいわ」

ミルベーナが軽く頷くと、リージュも「うん」と返事をして階段を降りていく。


広場に降り立つと、フォスターが気さくに話しかけてきた。

「よう、お姫様、調子はどうだ?」


「お姫様……? あたしのこと?」


首を傾げるリージュに、ミルベーナが微笑む。

「自分じゃ見えないものね。リージュ、白いドレス姿で可愛かったわよ」


「え……そ、そんな格好だったんだ……?」

少しだけ覚えている気もするが、改めて言われると何とも気恥ずかしい。


「きゅー!」


突然、フェリオがリージュに飛びついた。

「きゃっ!」


「きゅー、きゅー」


フェリオはリージュの肩に乗ったまま、前後に小さく跳ねるように動き回る。


「あはは、くすぐったいよ!」


「ごめんね、リージュさん」

ジークが苦笑いしながら言う。


「フェリオの癖なんだ。心配してるって言ってるよ」


「ははっ、そうなの? 大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」

リージュはフェリオの小さな頭を優しく撫でた。


「……」


横でミルベーナがじーっと見ている。

その視線は、羨望そのものだった。


そっと手を伸ばし、フェリオに触れようとした――その瞬間、


「きゅっ!」


フェリオはジークの肩へとぴょんっと飛び移った。


「あ……」


ミルベーナの表情が、一瞬にしてしょんぼりとしたものに変わる。

それはもう、わかりやすいくらいに。


「ん? ミナ、どうしたの?」


不思議そうにリージュが問いかけるが、ミルベーナは一瞬ハッとしてそっぽを向いた。


「……えっ!? い、いや、なんでもない、なんでもないわ!」


「……?」


なんとなく腑に落ちないまま、リージュは首を傾げた。


「そういやさっきフォルスティンが戻ってきたんだけどよ」


フォスターが顎で指し示したのは、広場の端にある建物だった。

その前に、手をひらひらと振るフォルスティンの姿が見える。


「あそこの建物に来いって言われたんだ」


「もう戻ってきていたのか」

ミルベーナは少し驚きつつ、フォルスティンのいる方向へ視線を向ける。


「報告に行くときも、あそこは自分が戻ってから説明するから入らないように、って言われてたんだよね」

ジークが不思議そうに呟いた。


「……何かありそうな気配ね」

ミルベーナが建物をじっと見つめる。


その時、中年の女性が歩み寄ってきた。


「天使様方」


「町長さん」

ジークが顔を上げて声をかける。


「……あそこは、白コートの主教がよく出入りしておりました」


町長は厳しい目を建物へ向ける。

「私たちも入れず、まだ不気味で仕方ないのです」


「……僕らが中を見てきます。少しここを離れても大丈夫ですか?」


「はい、是非ご確認をよろしくお願いいたします」

町長は深々と頭を下げる。


「行ってみようぜ」

フォスターに促され、一行はフォルスティンの待つ建物へと向かった――。


建物の入口まで来ると、フォルスティンが一歩前に出た。


「ご足労おかけします」


そう言って、無駄に一回転し、執事のように優雅なお辞儀をする。


「お前は喋る時になんかしないと気が済まないのか?」

フォスターが呆れたように肩をすくめる。


「やだなぁ、マジシャンは皆様を喜ばせるのも心情の一つですよ?」


フォルスティンはスタスタとリージュの前まで歩き、指を鳴らした。


「……え?」


ポンッ!


突然、彼の手の中から一輪の花が現れる。


「私も可愛らしい天使様に会えて光栄です」

優雅な仕草で、彼はリージュに花を差し出した。


「わぁ、ありがとう!」


リージュは素直に受け取り、嬉しそうに花を眺める。


「リージュ、知らない人から物を貰ってはいけないわよ」

ミルベーナが淡々と釘を刺した。


「ひどっ! 傷付きますねぇ」

フォルスティンは胸に手を当て、わざとらしく嘆くような仕草をする。


「……なぁ、それよりここには何があんだ? 危ねぇとこか?」

フォスターが面倒臭そうに問いかける。


「危なく……はないですかねぇ」

フォルスティンはわざとらしく溜息をつき、にっこり笑う。


「まぁ、気分のいいものでもないですけど」

そう言いながら、彼はドアの取っ手を回し、ゆっくりと扉を開けた。


ギィ……


重々しい音と共に開かれた先――。


その室内は、異様な光景だった。


広い室内には、見たこともないような怪しげな装置が並び、

壁際には瓶詰めの奇怪な液体がズラリと並んでいる。

そこかしこに腐臭が漂い、あちこちに転がるのは、乾涸びた死骸……。


「……うわ、何これ……」

ジークが思わず訝しむ。


「これは……何かを研究でもしていたのか?」

ミルベーナも周囲を警戒しながら辺りを見回す。


フォルスティンは室内の一角に置かれた日誌のようなものを手に取り、

軽くページをめくった。


「彼らは研究熱心だったのでしょうねぇ」

彼の口元には、薄く皮肉めいた笑みが浮かんでいる。


「恐らく、六命復活の儀式をここで研究していたのでしょう……」

彼はわざと感心するような口調で言ったが、その声音には明らかに嘲りが混じっていた。


「研究って……こんな気持ち悪いもんばかり集めて何になるんだ?」

フォスターが顔をしかめる。


ミルベーナは室内に積まれている本の山の中から一冊を取り出し、中身を確かめた。


「……これは、黒魔術関連の本ね」


パラパラとページをめくりながら、低く呟く。


「黒魔術って……悪魔召喚とかに使われるものだよね?」

ジークが問いかける。


ミルベーナはさらに何冊か手に取り、軽く目を通した後、答えた。


「一般的には、その認識で間違いないわ。けど……ここにあるものは……」


「それだけじゃないんですよねぇ」


ミルベーナの言葉に続けるように、フォルスティンがクスリと笑う。

彼の目は、どこか愉悦に満ちていた。


「黒魔術は召喚以外にも、相手を呪ったり、

逆に治療に使える薬を作ることも含まれるんです」


フォルスティンが書物を指で弾きながら、軽い口調で語る。


「詳しいのね」

ミルベーナは一瞥しながら、鋭い目を向ける。


「魔道を心掛ける者は、必ず耳にするでしょう。使うかどうかは別として」

フォルスティンは笑顔を崩さないまま、ページを軽くめくる。


「ここ……凄く嫌な気配でいっぱい……」

リージュが微かに震えながら口を開いた。


「私も魔の気配は感じるけど、今はこの近くにはないわよ」

ミルベーナが落ち着いた口調で答える。


「違うの、なんか、こう、身体を上から押さえつけられるような……嫌な感覚」

リージュの顔が青ざめている。


「僕もうっすら感じるよ……もしかしたら、人を使った実験とか……してるかも」

ジークの声も重い。


ジークとリージュはどこか共通した力を持っている。

それが、他の者より感覚を鋭くしているのかもしれない。


「人体実験か……いい趣味とは言えないな」

ミルベーナは書物の山を漁りながら、眉をひそめる。


「人体実験……なぁ、薬って言ってたけどよ、ホントに治療用なのか?」

フォスターが問いかける。


ミルベーナは一冊の本を閉じ、真剣な表情で答えた。


「全てがそうではないわ。治療薬を作るのはかなり難しいし、時間もかかる。

大抵は、人に害を及ぼす代物が多いはずよ」


フォスターは珍しく神妙な面持ちで考え込む。


「? 何か心当たりでもあるんですか?」

フォルスティンが興味深げに尋ねる。


「あぁ……地下水路でジークたちと合流する前に、変なのと会ったんだよ」


「変なのって?」

ジークが問い返す。


「最初はゾンビだと思ったんだよ、顔も溶けてたから。でも、言葉を喋ったんだ……」


「……言葉を?」


「あぁ……うっすらと、助けて、って聞こえた」


場が一瞬、凍りつく。


「言葉を話すゾンビ? 聞いたことありませんねぇ……」

フォルスティンはわざとらしく顎に手を当て、考え込む。


「それで、そのゾンビ? 人? はどうしたの?」

ジークが訊く。


「いや……あん時は暗かったのもあったし、急いでたからよぅ……」

フォスターの言葉が歯切れ悪くなる。


「そのままにしてきたとか?」


リージュの問いに、ミルベーナが溜息をつくのが聞こえた。


「放置してきたのか……後で確認しに行くぞ」


「わ、わりぃ……でも、今すぐじゃなくていいのか?」

確かに、ゾンビかもしれないのだ。


ミルベーナは無造作に積まれた黒魔術書を手に取ると、眉をひそめながらめくった。


「ここにある書物、まるでかき集めたかのように、紛い物も混ざってるわ」

ゆっくりとページをめくる手が止まる。


「……恐らく、人体実験もしていたでしょうね。失敗作は……」


彼女の目線が、室内の隅にある開閉式の排水溝へと向かう。


「地下に捨てていたというところかしら」


場の空気がさらに重くなる。


「色々溶けた跡もある。開閉式なのも、人が通れるサイズね」


「えっ、じゃあここから……」

リージュが口元を手で覆い、驚愕する。


「……あくまでも推測よ」

ミルベーナは淡々とした口調で言うものの、その表情には確信があった。


「まあ、十中八九合ってるとは思うけど……」


フォスターが難しい顔で排水溝を見つめる。


「……先にここにある書物は燃やす。液体物は、人が来ない場所の土の上に捨てること」


彼女は冷静に指示を出し始める。


「間違っても、水場に入れないように。死人が出るわよ」


「は、はいっ!」


ジーク、リージュ、フォスターが緊張した面持ちで頷く。


「了解です!」


フォルスティンも遅れて、わざとらしく敬礼した。


「……お前はもうちょっと真面目にやれ」

フォスターがジト目で睨む。


「いやぁ、ついねぇ」

フォルスティンは肩をすくめ、口元を緩める。


一行はまず、研究室に残された異様な遺物の処理を開始した。

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