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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
最終章『黄昏の土曜日』
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幕引『ありがとうを言わせて』

 前世で出逢っていたように感じる。

 一挙手一投足、刃の一振一振、視線の一つをとってしても全てが息が合い、絡み合う。


「先ほどから鳳は一切仕掛けてこないが、さっきの一発でもう体力切れか」


「あなたにしては仕留め損なったようですね」


 この戦いが始まってから既に五分、鳳の弾丸はまだ発射されない。

 拳ほどはある特大の弾丸。直撃すれば確実に死ぬと確信できる切り札。


 実は宮園がここへ到着する前、第Ⅰクラスと行動を共にしていた。その筆頭である鳳凛香も当然一緒だった。

 だが宮園は鳳と戦闘を開始し、長い死闘を超えて宮園が勝利を掴んだ。

 宮園は鳳によって致命傷を受けたはずだが、壁越しの狙撃を可能にした。まさか速水ができるはずもない。

 鳳の特殊能力がなければ不可能なことは確かだ。


「鳳は生きている。その点については確かに私は不覚だった。だが長く動ける容態ではないのは事実。どのみち視野に入れる必要はなくなる」


 宮園はあえてそう言葉にする。

 速水はその発言に表情を一切歪ませることもなく、無表情で対面している。


「決戦を続けよう」


 お互い、ナイフをスマホを取り出すほど手慣れた手つきで操り、キンキンと金属音がクラクションばりに鳴り響く。

 衝突の度にナイフは過負荷を受けて亀裂が走り、幾度もの激突ですぐにナイフは砕け散る。

 砕けたナイフが万華鏡のように二人の死闘を映し出す。


 武器を失っても尚、二人は距離を詰めたままだ。お互いに素手……

 ではない。

 隠し持っていた予備のナイフを取り出し、再びぶつけ合う。


 衝突は再びナイフに亀裂を生み、蛇が喉元に食らいつくタイムリミットのようにナイフは悲鳴を上げる。

 再度の衝突、ナイフは砕け、真夜中に蛍が周囲に集まるような妖艶さに二人は包まれる。


 即座に拳銃を取り出す宮園。

 銃口は速水に向けるのではなく、周囲に飛び散るガラス片だ。弾丸はガラス片へ当たり、軌道が変化し、周囲を覆うガラス片を辿って速水の脇腹へ命中する。


「やっぱり防弾チョッキは着ているね。その慎重さ、昔はうざいと思っていたけど、今となっては教訓だ」


 速水は拳銃を懐から取り出すが、その動作の間隙に宮園は右足を起点に浮き上がり、速水の側頭部を蹴りつける。

 速水は即座に両腕で防いだが、威力を相殺しきれず、あえなくノックバック。


 固い床を石ころのように無惨な転がりで通行する。転がった勢いをつけて飛び上がり、すぐそばまで迫っていた宮園のナイフを蹴り上げる。


「残念だ」


 振り上げた足の死角を狙い、爆弾を放る宮園。速水は勘だけで爆弾が投げられたことを察し、片足で後ろに大きく飛び、隠して構えていた拳銃で爆弾を撃ち抜いた。

 爆弾は強制的に爆発し、速水と宮園を爆炎が包み込む。


「がっ……」

「くっ……」


 お互いに爆炎に小さな悲鳴を上げる。


 爆炎が晴れた。

 宮園は皮膚にわずかな火傷を負っていたが、関係なしで拳銃とナイフを交差して構えていた。

 だが爆炎が消えた先で速水を見ることはできなかった。


「逃げたか」


 丁度百メートル先の曲がり角に右腕が僅かに見えた。宮園は廊下を全力疾走し、追いかける。

 ──が、曲がり角の手前に差し掛かった瞬間、ピピピッと機械的な音が朝を告げる鶏のように響く。

 後退よりも前進を選ぶ宮園。曲がり角を曲がった直後、先ほどの地面は大爆発した。

 爆炎の直撃は免れた。だが爆風に身体を浮かび上がらせた。


 すぐに速水の居場所を目で追うが、宙に浮き、今にも壁に飛び込みそうな宮園に焦点を合わせ、バズーカを構えていた。


「何でもかんでも用意しすぎだろ」


 引き金が引かれ、砲弾が宮園を襲う。

 宮園は壁に着地した瞬間に壁をナイフで削り取って穴を開け、船の外へ逃げた。

 すぐ下は海だが、鎖鎌を船の屋外にあった突起部分に引っかけ、壁を伝って駆け上がる。


「私の遺伝子は優秀だ。だが真紅というには程遠い」


 宮園は床をナイフで削り、真下にいた速水に音も置き去るほどの速度で襲いかかる。

 速水はすぐに気付いてかわそうとするが、素早い身のこなしに翻弄され、右足にナイフが突き刺さる。


 機動力は失われた。

 状況はこの一手で宮園に大きく傾いた。

 片足だけでも対抗しようとするが、即座に十発の弾丸が左足の一点にのみ放たれる。防弾チョッキは一瞬で十発の弾丸を受けたことで破砕し、左足の機動力も削がれた。


 瓦礫に背をつけ、立てなくなった足を呆然と床に伸ばし、それでも両手にはナイフと折れ曲がった拳銃を構える。

 宮園は哀れに思い、顎を突き出す。


「真紅と変われ」

「残念。真紅の心臓はもう私の中にはない」


 心臓に手をかざし、堂々と宣言する。


「嘘をつくな。既に真紅は目覚めているはずだ」

「ヘリで言った通りだ。私は速水だ。速水碧だ」


 銃声が響く。

 速水の左腕が撃たれ、左手に持っていた拳銃が落ちる。


「もう一度言う。真紅と変われ」

「私は速水。この身体にいるのは私だけだ」


 再度銃声。

 速水の右腕が撃たれ、右手に持っていたナイフも音を立てて床に転がる。


 四肢を失い、戦う術を失った。

 宮園の拳銃が向けられる先は額。


「これで最後。頭を使ってよーく指示に従え。お前の身体に眠っている真紅と変われ」


 速水は顔を上げ、満面の笑みで答える。


「私は速水碧。潮、お前の友達だ」


 銃声が海を渡って空を飛ぶ。

 弾丸は速水の額に向けて放たれた。


 ──が、弾丸は当たらなかった。


 軌道は僅かに逸れていた。

 それは意図的か、それともただ銃口の焦点が合っていなかったのか。


 外したことに、宮園は驚いていた。

 否、驚いているのは宮園の身体を支配している悪魔だ。


「なぜ、私が外す……!?」


「分からないのか。お前は敵に回す相手を間違えたんだよ」


 死にかけの速水は嬉しそうに答える。


「潮の身体なら簡単に支配できると思ったのか。真紅が私の肉体を完全に支配できないのは、私が強い精神力を持っているからだ。だから私の精神が崩れた時、お前に身体を奪われかけた」


 VS第Ⅴクラスとの戦いで宮園が死んだ日、速水は絶望し、精神を崩壊させた。あの瞬間に速水の心臓は目覚め、肉体を支配しようとした。


「同じだ。潮は強いんだよ。お前に簡単に奪われるくらいの弱者じゃない」

「ふっざけるな。この私の支配からただの一般人が勝てるはずがない」

「その思い込みが、傲慢さが、お前に敗北をもたらす。──幕引時だ」


 叫び、暴れ、無理矢理身体を押さえつけようとする悪魔。その悪魔が支配する宮園の心臓を弾丸が通過した。


「……はっ?」


 理解できなかった。

 速水ではない。

 だが銃弾が飛んできた方向は確かに速水の方向。その弾丸によって心臓を射抜かれた。


「まさか鳳……、だがどこから……」


「ドでかい穴が空いてんだろ」


 速水の背後、そこには地雷やバズーカによって大きく風穴が空いた壁があった。

 海が見えるほど巨大な大穴。


「悪魔、お前の心臓はもう止まっている。私たちの勝利だ」


「貴様、なんだと、私がここで死ぬわけ……が、なっ──碧」


 青天の霹靂のような。

 突然、名前を呼ばれた。


 心臓が貫かれた今、肉体は宮園本人の自由だ。


「碧、私、最後まで誰かの操り人形だった」


 悪魔がいなくなった今、語られるのは宮園本人の本心。

 彼女が抱えてきた思いの丈だ。


「私はもっと自由に生きたかった。誰かと笑い合って、楽しく生きたかった。なのに……私はなれなかった」

「ごめん。私は……気付いてあげるべきだったんだ。誰よりも強くて、慎重で、だからこそあなたに寄り添うべきだった」

「碧は私にとって救いだった。だから碧には幸せに生きてほしい」


 宮園は自分の過去を振り返り、悲しみを募らせる。速水はそっと心に寄り添い、宮園と向き合う。


「碧、私は碧には会えて幸せだよ。暗殺学園に入ったことは幸せじゃないかもしれない。それでも、その中に幸せを見つけられた」


 身体から力が抜けていく。

 宮園は既に心臓を失い、後は消え行く定めにある。


「碧には私の分まで幸せになってほしい。幸せになって、あの世で働く私に時々話をしてほしいな。どんな楽しいことがあったのか、私は知りたいよ」


 身体を支える足に力を失い、速水に倒れ込んだ。


「碧、最後にこれだけは言わせて──」


 最後、消え行く声で彼女は言った。


 冷めていく手を握りながら、耳に残る宮園の言葉を頭の中で何度も思い返す。


「さよなら、潮」

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