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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
最終章『黄昏の土曜日』
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第六十九話『暗殺学園の闇・急/だって私は暗殺者だから』

 暗殺学園は何のために存在するのか。

 ──全て私のためだ。


 あの日、真紅に敗北してから。

 初めての敗北は死ではなかった。

 彼女は異常な用意周到さで私の用意したあらゆる策を崩壊させた。

 これまでどんな暗殺者も対処できなかったトラップをいとも容易く回避し、どんな暗殺者も敵わない暗殺術を見せつけたが正面から攻略された。


 圧倒的な格上。

 それが私にとっての真紅だった。


 だから私も用意周到に計画した。

 真紅を打つために、これまで以上の策略を積み上げて。

 書類にすれば会社中のデスクが埋まるほどの膨大な作戦だ。どう考えても不必要なものから、最低限重要なものまで、数えればきりがない。


 勝てばいい。

 今度こそ勝利を掴みたい。

 あの暗殺者に今度こそ勝ちたい。


 自分が最強の暗殺者だと自負していたのに、その思いを真っ向から叩きのめされた。

 これほどまでに屈辱的な羞恥を受けたのは初めてだ。


 そして二度目の敗北をする日まで、私は世界中で暗躍し続けた。

 あらゆる人物に偽装し、あらゆる情報をインプットし、自分でも気付かない間にあらゆる分野に精通するほどの知識量を手にした頃。

 とうとう私は手を出した。

 心臓をもとに所有者の記憶を引き出す研究に。


 たとえ死んでも真紅に勝ちたい。


 私は徐々に研究を成功へ導き、いつの間にか研究は成功していた。

 心臓の主が肉体を支配するにはいくつかの条件があるが、それは優秀な暗殺者にとって容易く突破できる程度だった。


 だが問題は心臓を移植した先の肉体だった。

 たとえ別の肉体に心臓を移植し、その肉体を支配できたとしても、肉体自体が戦闘能力を持っていなければ意味がない。

 完璧な戦闘能力、それを持っていることが大前提だ。


 そのための暗殺学園。

 最初は南国の大王を暗殺し、南国に暗殺者育成機関を創設していた。

 既に優秀な暗殺者は協力者に拘束させ、いつでも心臓移植の準備は整っていた。


 下準備が整い、私は真紅に戦いを挑んだ。

 だが私は負けた。

 死んだ。


 幸いにも心臓には一切の傷がなかった。ただ頭部が切り離されただけ。

 協力者が私の遺体を回収し、心臓移植を始めた。

 私は自分のDNAから生成していた肉体──速水碧に心臓を移した。

 速水の肉体はまだ幼かったため、白草冬華の母親に世話をしてもらっていた。


 私の心臓が目覚めるまで、白草冬華とその母親が面倒を見ていた。


 再度真紅に戦いを挑める準備が整う前に、真紅はこれまでの全ての責任をとって死んでいた。


「十三日の金曜日、お前の命をもって終焉を告げたってことか」


 もう戦えない。

 だが戦う方法はある。


 私が甦ったように、真紅を甦らせればいい。

 だが拘束していた暗殺者は死亡しており、真紅の心臓を移す先が見当たらなかった。

 では暗殺者を育成し、その肉体に移植すればいい、

 だが既に暗殺の禁止という条約が結ばれていたため、南国で育成をするのは危険と判断した。


 白草は東国に小規模の暗殺学園を創設した。

 南国にいた優秀な暗殺者を暗殺学園の教師として赴任させる。


 その間に真紅のDNAから生成していた肉体──有栖川麗を完成させていた。

 成長速度は速く、すぐに真紅の心臓を移植させた。


 心臓の記憶が目覚めるまで、私は速水として、真紅は有栖川として暗殺学園で過ごした。

 だが有栖川は私がまだ覚醒する前に心臓を目覚めさせており、暗殺学園の転覆を目論んでいた。

 これ以上は危険と判断した白草は古木、鴻巣と協力し、有栖川を拘束して心臓を取り出した。


 そして第Ⅵクラスと第Ⅴクラスの戦いによって宮園が死んだ日。

 古木の思惑と氷夜の思惑がぶつかり合い、心臓は所在は二転三転した。


 結果、真紅の心臓は速水へ。私の心臓は宮園へ移った。


 そして今、お互いに心臓を覚醒させた。


 真紅、今度こそ私はあなたに勝利する。

 これまでの敗北はそのための余興にすぎない。


 さあ、互いの火花を散らし合おう。




 ♤




 マスカレードは真っ赤に染まる。

 全身に熱を帯びた彼女は、薄い目を開けて足音が遠ざかっていく方向を見る。

 宮園潮。

 彼女は次の獲物を探していた。


「国王はどこかしら。王を殺せばとうとう東西に亀裂が走る。そうなれば世界は再び混沌に落ちるというのに」




 国王は六死刑の一人、火刑に護られていた。

 彼の鉄壁の護りに神凪と不死は真っ向から深傷を負った。


「私たちの暗殺術が及ばないなんて……」


 神凪は大きな傷口のついた左腕を押さえ、死神の心音を鳴らして歩み寄る火刑になす術もなく身体を差し出す。

 王子が眠り姫にキスをするようなロマンチックさはなく、眠り姫にさらに深い眠りを提供するだけ。


 火刑は燃え盛る剣を神凪に振るう動作に入った瞬間、全身を氷漬けにされたように動きを停止した。

 直後、全身がプラモデルを粉々にする爽快感とともに弾け散る。


「火刑……」


 火刑が飛び散るとともに背後に立った人物が露になる。


「宮園……?」


 不死と神凪は目を疑った。

 お互いに顔を見合わせ、何度も目の前に立つ人物を見ては、まばたきをし、現実か否かをいぶかしむ。


「お前、宮園か」


 自分より遥かに格下の宮園が、特待Aクラス二人でも苦戦した火刑を瞬殺した。

 夢でも見ているかのような気分だ。


 宮園は呆然とする二人を無視し、逃げていた国王を追いかける。


「あなたを殺して混沌を」


 宮園の足の速さに国王は距離を一気に詰められる。

 既に刃は首筋まで迫る。

 刃が国王を貫く直前、弾丸が空気を裂いて二人の間に割り込んだ。


 宮園は弾丸の大きさに動揺し、国王を仕留めきる直前で後ろに飛んで回避した。


「これほどの弾丸を圧倒的精度で、しかも壁越しに……」


 宮園は目の前に落ちた弾丸に目を落とし、騒然としていた。

 これほどの芸当をできるのを宮園はたった一人しか知らない。


「今頃どこかで耳に髪をかけてるだろ」


 逃げていく標的を見つめながら、惜しい気持ちを抱える。追いかけることはなく、来るであろう彼女を待つ。


 壁がいくつも爆破されていく。

 次々と爆破され、最後の壁を破壊し、その人物は宮園の前に現れた。


 爆発は花束のように。

 送る相手は目の前の彼女。


「潮、お前を取り戻しに来た」


 殺意の結晶を胸に抱き締めて、海のように深い瞳で宮園を直視し、赤子を抱き締めるような愛おしさで彼女の前に立つ。


「ようやく来たか。速水、いや、真紅か」


 宮園は真紅が現れたことに興奮し、瞳に手をかざして大きく笑う。


「生憎、私は速水だ」


「は……っ?」


 真紅を期待する宮園の前に現れたのじゃ速水だった。

 速水だと告げたことに対し、宮園は疑いの目を向けつつ、怒りの感情を増幅させていた。


「なあ悪魔、私の潮を返してもらうぞ」


「できるならやってみろよ」


「悪魔に終焉を」


 両者の殺意がナイフを通してぶつかり合う。ナイフに鬼神が宿っているかのような気迫で衝突し、炎上するほどの火花を散らして、


「──幕引きだ」


 最後の戦いを。


次、幕引

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