第六十八話『悪魔堂々』
海洋都市に停泊する西国の船十隻。
そこへ暗殺者が向かっていた。
不死が誘う第Ⅱクラス。
神凪が導く第Ⅲクラス。
それだけでなく、宮園潮の体を手に入れた有栖川麗が第Ⅰクラスを率いて進んでいた。
「有栖川さん、私たちも西国の船へ向かうんですか」
「最終決戦。あの場が混沌の境目となる。まあ、あなたが戦いたいと願った速水が来るかは分かりませんが」
建ち並ぶ家屋の屋上を疾走し、先陣を切る有栖川に背後から鳳が問う。
有栖川は速水を知っているように語る。
有栖川麗は知っている。
速水碧のポーカーフェイスの内側を。
「速水は宮園潮が死んでいると分かった以上、沈黙を選ぶでしょう。それは自分の命を使った沈黙かもしれません」
「あなたはなぜそれほど速水を知っているのですか。いえ、知った気になっている」
鳳は有栖川に強気な発言をする。
「彼女を産んだのは私だからだよ」
「────」
「彼女は私のDNAをもとに産み出した人工生命体。私が暗殺者に染まる前の性格を参考にすれば速水の一挙手一投足に至るまで理解できる」
有栖川は速水の正体を鳳に告げた。
鳳は沈黙のまま、有栖川の発言を咀嚼する。
「だから……来ないと?」
「来ないさ。あの頃の私であれば、暗殺者などという道からは一目散に逃げる」
「あなたもそういう経験があるのでしょう。ではなぜあなたは今も尚、暗殺者なのですか」
鳳は有栖川の発言に疑問符を突き立てる。
「あなたは乗り越えた。では、速水もそれを乗り越えるのではないですか」
「────」
鳳が言葉を発してから数秒、有栖川は長い沈黙とともに風を切る。
音が二人の世界に響いたのは十三秒後だった。
有栖川は背後にいる鳳に目を向けず、拳銃を向けた。鳳が気付いた頃には引き金は引かれていた。
その間、わずかコンマ一秒にも満たない。
軌道は完全に鳳に当たる位置だ。だが弾丸は鳳が振るったナイフに弾かれる。
鳳にとってはその行為は基本的な技術。偶然ではなく、必然の現象だった。
「君、敵に回したら面倒くさいね」
「大丈夫ですよ。速水を殺そうとしない限り、私はあなたの敵にはなりませんから」
「鳳、やはりお前は殺しておくべきか」
有栖川はピタッと足を止め、鳳と向かい合う。
鳳も足を止め、それに呼応して第Ⅰクラスのメンバーも次々と足を止める。
王子、不和、一色、白上の四人。
「五対一、いくらあなたでも厳しいのではないですか」
「精鋭の暗殺者ならともかく、ガキが五人。私が手こずるとでも思ったか」
「私は鳳凛香ですよ」
有栖川は自分が敗北するなどとは微塵も思っていない。それは鳳も同じで、同様の威勢で返す。
「仕方ない。鳳、お前はここで終わりだ」
「格上の暗殺者。だからこそ私は強くなれる」
有栖川が鳳に突撃を仕掛ける。
鳳は怯まず、先陣を切って有栖川を迎え撃つ。
人々が行き交う街の頭上を、六人の暗殺者が殺し合う。
♤
西国を囲むように、第Ⅱクラス、第Ⅲクラスの暗殺者が日の昇った空を背景に立っていた。
不死が誘う第Ⅱクラス。
特待Aクラス第二席不死朧。
Aクラス第三席鳴海。
Bクラス第三席三浦、第四席猫又。
Cクラス第三席裏桐、第四席西宮。
神凪が先陣切る第Ⅲクラス。
特待Aクラス第三席神凪巫女。
Aクラス第四席黒井。
Bクラス第五席不知火、第六席乾。
Cクラス第五席神宮、第六席東。
騒然とする西国の船。
西国が迎撃準備を整えるのを待つことなく、暗殺者は仕掛ける。
船が三隻爆発した。
「ねえ、全部爆破できなかったの」
「それほどの数の爆弾は用意できないよ」
爆破した船が三隻だけだったことに不満を漏らす神凪に、不死は言い訳をこぼす。
「まあ直接手を下した方が確実性はあるよね。不死、私が国王をやるからあんたはそれ以外をよろしくね」
「いいけど、国王には六死刑の火刑がついてる。殺せるの」
「大丈夫。私は神凪だ」
神凪は威風堂々と言い放つ。
その瞳は勝利だけを映し、それを確信している。
不死は曖昧な目つきで神凪をチラ見し、西国の船に視線を移した。
「鳴海、僕らは国王以外を殲滅する。あとの指揮は任せた」
「第Ⅱクラス、中央以外の船に暗殺を仕掛ける。怖じけずに突撃しろ」
不死は指揮官としての役目を鳴海に任せた。鳴海は気前よく指揮官としての立場を全うし、西国の兵士が集う戦艦に迷いなく先陣を切る。
その背を追いかけるように、不死や第Ⅱクラスの暗殺者が暗殺道具を振るう。
不死は次々と西国の兵士を暗殺していく。
西国の船に血が乱れ、悲鳴が船中に響き渡る。
そんな中、マスカレードのもとにも暗殺者が迫っていた。
マスカレードの前に現れたのは鬼灯だ。
「鬼灯、今までどこにいた」
鬼灯はしばらくマスカレードを見て硬直した後、ゆっくりと歩み寄る。
「マスカレードさん、図書館はどこ?」
「…………は?」
鬼灯の質問にマスカレードは表情を歪ませる。
「なぜ図書館のもとへ行く?」
「確かに最重要危険人物だが、あの人が持つ知識は重要だ。だから危険を冒してでも救う価値がある」
「…………」
いつになく熱血な鬼灯を見て、マスカレードは焦点を鬼灯に集中させていた。
マスカレードはあまりにも長い凝視を続ける。
「お前、誰だ」
「────」
マスカレードは鬼灯がいつもの彼女ではないと思っていた。
だが鬼灯はマスカレードの言葉が理解できず、しばらく硬直していた。
「マスカレードさん、何を言っているんですか。私は鬼灯ですよ」
「そうか。本物はどうした」
マスカレードは躊躇いなく銃口を向けた。
その目は怒りに満ち、握る拳銃には重みが込められている。
「まあそうですね。あなたが言う通り、私は鬼灯ではない」
「本物の鬼灯はどうした」
偽鬼灯は口もとを三日月のように込み上げる。
「殺したよ」
マスカレードの目蓋は大きく開き、表情を一秒一秒変化させた。
悲しみの表情、怒りの表情、絶望の表情、そして殺意の表情。
「殺してやる。お前だけは絶ッ! 対!」
殺意の銃弾が船に弾ける。




