幕引『約束の弾丸/目覚めた悪魔』
午後六時。
風霧と赤羽は、密かに不和の動向を追っていた。
修学旅行初日から奇妙な動きをしていたことを赤羽は確認している。
不和が入っていったのは冬待の街外れにある小規模の飛行場だ。
飛行場には人の気配がなく、不和は堂々と入っていく。
風霧と赤羽は不和に気付かれないよう、息を潜めて追いかける。
飛行場には幾つか飛行機やヘリがある。
不和は滑走路にある飛行機に躊躇なく乗り込んだ。
まるで飛行機に誰がいてもお構いなしの行動。
赤羽はずっと違和感を感じていた。
なぜ飛行場に誰もいないのか。
なぜ不和は堂々と侵入しているのか。
最初から仕組まれているのではないか、そんな気さえしていた。
「風霧、お前はどう思う」
「いくらなんでも怪しすぎる。ここは昨日も発着記録が残ってるし、今は使われなくなった飛行場ってわけじゃない。どう考えても罠だ」
風霧は冷静に周囲を分析しつつ、結論を出した。
飛行機に乗り込むには危険が伴いすぎている。
「風霧、お前は幽がいる持ち場まで下がれ。ここから先は危険すぎる」
赤羽は単騎で飛行機に乗り込もうとしていた。
その肩を掴み、風霧は制止する。
「私も行く。もしかしたらあの中に有栖川さんの遺産が眠っているかもしれないんだから」
風霧は恐怖に怯まず、宣言する。
「なら俺の後ろをついてこい」
「はい」
赤羽は危険な先頭を引き受ける。
風霧は赤羽の後ろにつき、背後を警戒しつつ後を追う。
飛行機の入り口周辺を覗き、人の気配がないことを確認する。
風霧に合図を出すと同時に飛行機に乗り込み、機内を捜索する。
客席には怪しいものはない。
奥に繋がる扉のドアノブが動いた。
すぐに客席に身を隠し、扉を開けた人物を確認する。
不和だ。
赤羽と風霧の侵入には気付いていない様子だ。
不和が、自分たちが隠れていた客席を通りすぎるやいなや、風霧とともに不和が出てきた扉に忍び込む。
不和は気配を感じ、振り返ったが、既に扉は閉まっている。
気のせいだと思い、止めていた足を動かす。
赤羽と風霧が入った場所は倉庫だ。
多くの物品が積まれている。
「ここを調べたらすぐに引き上げる。片っ端から探すぞ」
赤羽と風霧は倉庫内をくまなく探す。だが目ぼしい物は見当たらない。
そもそも倉庫内にある全ての物を調べるとなると時間がかかりすぎる。
たとえここに有栖川の遺産やそれに関係する物が隠されていても、見つけ出すことは難しい。
険しい表情で探す二人。
突如震動が二人を襲い、体勢を崩す。
背筋が凍りつくような寒気に襲われ、恐る恐る窓を見る。
飛行機は滑走路を走り、空を飛んだ。
「どうしよう。これじゃあ……」
「不和と交渉するしかない」
壁に体を倒した赤羽は考える。
視線を右往左往させていると、壁にある窪みが目に映る。
「これは……」
なぜか赤羽は窪みを懐かしく思う。
「赤羽、同じ第Ⅰクラスだ。私が不和と交渉をしに行く」
「待て。少しだけ、試したいことがある」
覚悟を決めた風霧を止め、赤羽は大事そうにある物を取り出した。
それは傷だらけの弾丸だ。
赤羽は有栖川と弾丸キャッチボールをした日々を回想していた。
大切な人との懐かしい記憶。
その時の熱を感じながら、弾丸を指に挟み、弾丸の先端を窪みに向ける。
「何をする気?」
「確かめるだけだ。有栖川に抱いていた心が本物かどうか」
確証はない。
偶然できた窪みかもしれない。
だがもしあの日々がこの窪みの原因なのだとすれば。
(有栖川さん、俺は──)
弾丸を指から放つ。
その威力は拳銃から放たれる威力にも劣らない程で、窪みに命中した。
次の瞬間、轟くほどの爆音を響かせ、飛行機は爆発した。
炎上し、翼は焼け落ちた。
機体は海へ落ちる。沈む。
♤
飛行場。
鳳と王子はヘリの前に立っていた。
二人のもとに戦闘機が向かう。徐々に減速し、二人の前でドリフトを決め、着地した。
「作戦は遂行しました」
戦闘機からは不和が降りてくる。
二人は不和の無事を見届ける。
そこへ、全身を血のドレスで彩る人物が歩いてきた。
「お前、この飛行場の連中を全員殺したろ。おかげで俺らは面倒な片付けをする羽目になったんだぞ」
王子はその人物へ愚痴を吐く。
吐かれた人物は気にすることなく、大人の微笑みを返すだけ。
「鳳さん、赤羽クロウは死にましたか」
「はい。あなたの仰った通り、我々が手を下すことなく飛行機は爆発しました」
「素晴らしいですね。彼は私に心酔していましたから」
赤羽と関係のある口振り。
だが情はなく、むしろそれを利用し、成功したことに対して喜びを覚えている。
不和と赤羽は目の前に立つ彼女に恐怖を覚えた。
「さすがは悪魔ですね。──有栖川麗」
鳳は容赦なくその人物の名を告げた。
彼女は風に揺れる金髪をなぞり、微笑む。
「いえ、今は違いますよ。今の私はあくまでも──宮園潮です」
鳳の前に立っているのは、金髪を揺らす宮園潮だ。
彼女は圧倒的な狂喜を持って、現れた。
第四章完結
次、最終章




