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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第三章『紅夜の修学旅行』
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第四十六話『死に場所が呼んでいる』

『見えざる手』を返り討ちにした不死。

 しかし戦闘によって疲弊したため、しばらくビルの中で休息をとっていた。

 休憩が終わると、ビルの中を歩き回る。念のため、まだ『見えざる手』が隠れていないか確認するつもりだ。


「そういえばこのビル、少々薬くさいな。元々は製薬会社だったのか」


 ビルには薬のにおいがわずかに漂っている。

 しかしそのビルには薬品が置かれている様子もなく、また家具などのレイアウトもない。

 全てが片付けられたような何もないビル。


「隠し扉でもありそうな雰囲気だな」


 不死はビルを散策し、何か隠されているものがないか探して回る。

 壁をペタペタと触っていると、くぼみを見つける。その側には砂粒ほどの破片が落ちている。


「弾丸のにおい。ボクが来る前に戦闘があったか。やはり有栖川が死んだ場所はここらしい」


 破片を指に置き匂いを嗅いだ後、すりすりと感触を確認する。


「そこで何をしているのかな」


 穏やかな声が発せられる。声が発せられるまで気配を感じなかった。

 不死は生存本能が身体を咄嗟に動かし、振り返り様に後方に距離をとる。


「あなたか」


 背後に居たのは十三期Cクラス担任古木新。

 彼は殺意を全く見せずに優しく微笑む。


「諜報員がいたので始末しただけです」


「見ていたよ。敵の包囲を受けた時の回避はさすがだね。まさか三階から飛び降りるなんて面白い手段だ。しかしそれで平然と歩けるなんて君は何者なのかな」


「…………」


 不死は答えず、真っ直ぐに古木を見る。


「後処理はしておこう。君はすぐにクラスメートのもとへ帰るといい」


 意思は変わらないと分かったのか、すんなりと諦める。

 不死は調べたいことがあったものの、振り返らずにビルを後にする。


 ビルを出てすぐのところに鳴海は立っている。


「へえ、ボクのこと心配してくれたの」


「拐われたら暗殺者の情報が露呈する。そういう意味では心配していた」


「君は意地悪だね」


 不死は下目遣いで鳴海を見やる。

 鳴海は不死には視線を向けず、背後のビルを眺めている。


「先ほど古木先生が向かったが、まさか回収班を先生が担ってくれているのか。てっきり六死刑対策のために旅館で待機していると思ったが」


「ボクもよく分からない。古木先生の行動はちょっぴり不審だけど、今は見逃すしかないね」


「了解。じゃあ一旦拠点に戻るぞ」





 不死が去ったのを確認すると、古木はまず六人の遺体をアタッシュケースに詰める。

 アタッシュケースは壁際に置き、ビルを徘徊する。

 壁や床、いたるところを神経を研ぎ澄まして観察する。虫の死骸一つ取りこぼさないように。


「もし必要以上のものを見ていれば消すか。どのみちこの試練の先に待つのは……」


 古木は気配を感じ、立ち止まる。

 まさか不死が戻ってきたのかと思ったが、足音は一つではない。


「三人……、少し数が多いな」


 足音は素人に近く、全く音を消せていない。何も警戒していない。

 諜報員だと推察し、即座に刃を取り出す。


「あれは……」


 だが足音の正体は諜報員のものではなく、暗殺学園の生徒だった。

 幽仄、風霧翼、海原落。

 三人の前に顔を出さず、目的を確認できるまでは息を潜めるつもりだ。


「風霧、有栖川さんの遺産は回収されているかもな」


「それを言えばキリがないよね。ひとまず探す努力をしよう。話はそこからだよ」


 マイナスな考えから入る海原を風霧はポジティブ理論で反論する。

 幽は言葉を発することなく、二人の後ろにトコトコとついていく。


「なんか爆薬のにおいしない?」


「確かに。ついさっきに爆薬が使われた……となると、ここで諜報員と暗殺者の戦闘が行われている可能性があるな」


 風霧の疑念に海原は答える。


「他に有栖川さんの遺産を狙う人物がいる可能性がある」


「そうだな。では戦闘準備だ」


 風霧と海原はそれぞれ武器を手に取る。

 幽は二人の影に隠れ、武器を取り出す様子はない。


「古木先生である可能性は?」


 幽がボソッと呟く。


「教師陣は六死刑の出現に備えて旅館に待機している。この場にはいないはずだ」


「そうだな。有栖川の仇である古木先生は必ず殺さなければいけない」


 三人は事前に入手した幾つもの情報から、有栖川を殺したのは古木であると結論づけた。

 最も可能性が高いのは彼である。


 だがその古木は一つ上の階で息を潜めている。


「仕方ない。処分だ」


 古木は右足を踏み出し、短剣を強く握り直す。

 古木が三人を仕留めようとした刹那、背後より迫る人陰が音もなく背後から古木の喉に刃をかざす。


「古木先生、少しお待ちいただいてもよろしいですか」


「お前は……っ!?」


 古木は自分に向けられる圧倒的な殺意に指先一本も動かせず沈黙する。

 背後にいる正体の顔は見えず、変声術によって声を変えているが、殺気で正体に勘づいている。


「彼女らが遺産を見つけるまでは待ちましょう。それまでは一歩も動かないでくださいね」


(これが……暗殺学園歴代最高成績を取った究極──鳳凛香)



 ♤



 速水、宮園、赤羽はそれぞれ散り散りになり、幽を探していた。

 全力を出した速水は宮園と赤羽の前から一瞬で姿を消した。

 宮園と赤羽はそれぞれ探す場所を割り振ってから動き出す。本来は速水とも情報を共有したかったが、速水は脇目もふらず先走った。


「碧、私もあなたの力になってみせるから」


 宮園は意気揚々と雪降る街に駆け出す。


「待って」


 ──が、その第一歩、そこで彼女に制止の合図が掛けられる。

 聞き覚えのある声だった。思わず宮園は足を止め、声の主へ視線を向ける。


「あなたは……」


 第Ⅵクラス委員長恋沼。

 第Ⅴクラスとの対抗戦が行われるとなった際、速水にヘイトを集めた首謀者だ。


「何の用?」


「あなた、速水碧と仲が良いわよね。速水の居場所を教えてくれない」

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