第四十七話『死に場所でさようなら』
闇夜の中、第Ⅲクラスは動き出す。
特待Aクラス第三位神凪巫女。
彼女は特待Aクラス第四位氷夜がアジトにしている森の屋敷へ向かった。
屋敷の扉を開けた氷夜は神凪と対面する。
「おはよう。氷夜冴」
神凪は一人だった。
神凪が通ってきただろう道には足跡は一人分しかない。
「目的は何だ?」
氷夜は警戒心を露にしている。
対して神凪は落ち着いた様子で彼と対峙している。
氷織は扉一枚を挟んで待機し、いつでも戦闘ができるようじ準備している。
「察しはついているはずさ。お互い暗殺学園の生徒だからね」
それが何を意味するのか、当然氷夜は知っている。
隠れている氷織は拳銃を握り直す。
「俺を殺しに来たのか」
「暗殺学園の目的は強い暗殺者を育てること。その際に必要となるのは強者同士の殺し合い。相手が強ければ強いほど、それを乗り越えた際のレベルアップは計り知れない」
神凪は腕を両手を天に掲げる。手を中心に目映い光が放たれ、思わず氷夜は目を閉じる。
咄嗟に後ろに距離をとるが、神凪は微動だにしない。
光が止んでから神凪を見ると、彼女の手には槍が握られていた。
「結論、殺し合いましょう」
その声とともに、屋敷の方から爆発音が轟く。
屋敷からは煙が上がり、たちまち火が姿を現す。
火の奥からは第Ⅲクラスが姿を現し、第Ⅳクラスと交戦を開始しようとしていた。
「本気か」
「さあ始めよっか。私とあなたの殺し合いを」
♤
霊長ビルにて。
古木は鳳の指示通り屋上に息を潜める。その間、常に首もとに刃を突きつけられる。
鳳は髪を耳にかけ、霊長ビル内を徘徊する三人の動向を確認する。
「そろそろ見つける頃ですね」
幽、風霧、海原の三人はビルの誰もいないことを確認すると、バラバラになってビルを捜索する。
三階は海原が、二階は風霧、一階は幽が担当する。
海原と風霧が必死に遺産を探す熱よりも、幽は熱心に有栖川の遺産を探していた。
目を凝らし、一階を探し回る。
その末に幽は壁にくぼみがあるのを見つける。その下には砂粒程度のわずかな破片が落ちている。
「アリス……」
幽はわずかな期待とともにくぼみに人差し指を押し当てる。
──直後、幽がしゃがみこむ足下には穴が空き、そこから下へ落下する。すぐに穴は塞がる。
その様子を音で聞いていた鳳は疑問に思った。
(おかしいですね。壁を押した瞬間に幽の存在が消えましたか)
鳳は状況が分からず、しばらく考えていた。
その間に海原と風霧は二階と三階を探し終え、幽がいるはずの一階へ戻る。だが一階のどこにも幽はいなかった。
「なあ海原、幽を見たか?」
「見てないな。逃げたんじゃないか」
「あいつは有栖川さんを溺愛している。そんな奴が有栖川さんの遺産を前に逃げるはずがない」
「じゃあ……」
「このビルに遺産はある。そこに繋がる隠し扉を見つけた可能性がある」
風霧は幽が消えた事情を冷静に分析する。
海原はそれに対して頷くだけで、推理が合っているのかも間違っているのかも考えてはいない。
「隠し扉のスイッチがどこかにあるはずだよ。探すよ」
「ああ」
二人は一階を念入りに捜索する。
だが幽が見つけたくぼみには気付かず、壁や床をさっと見るだけ。
そこへ一人の足音が近づく。
二人が足音に気付いた時、既に足音の主は二人の存在を目で認識できるほど近づいていた。
「こんなところで何をしているのですか。風霧翼さん、海原落さん」
鳳は鉄筋コンクリートの床をあえて音を立てて歩き、二人のもとまで近づいた。
二人は鳳の存在に全身から汗を溢れさせる。
「どうしてあなたが……」
「偶然ですよ。諜報員の存在を確認したので対処していましたが、あなた方を今さっき見かけまして、諜報員を目撃していないか聞きに来ました」
二人は一瞬目を見合せる。
鳳が自分達の目的を知っている可能性があったが、そうではない可能性が高い。
海原はわずかに緩みを見せる。
「海原さん、漏れていますよ」
「──ッ!?」
海原は何のことか分からず、自分の全身へくまなく目を走らせる。
あわてふためく様子を楽しみ、鳳は頬を上げる。
「冗談です。それで、あなた方が何をしていたのかお聞かせください。今は暇ですし、協力しますよ」
「気持ちだけありがたいのですが、協力は必要ないので大丈夫です。お気遣い感謝します」
風霧は何とかこの場をやり過ごそうとしていた。
心の中では今すぐに鳳に去ってほしいと叫んでいた。
「そうですか。必要ないですか」
呟きの後に訪れる余韻。
沈黙が場を埋めつくし、不穏な空気が流れる。
海原と風霧は場の空気に耐えられず、今にも嗚咽を漏らしそうなほど圧迫されていた。
「…………」
「…………」
「もう必要ありませんね。あなた方からは何も聞き出せそうにありません」
鳳が手に持っていたのは狙撃銃。
日も落ち始めていたために、彼女がそれを所持していたことに今まで気付かなかった。
狙撃銃を海原に向けてから発砲するまでに一秒もかからない。刹那に過ぎない一瞬が残酷に死をもたらす。
海原の心臓は弾丸によって貫かれた。
血が噴き出し、海原は全身から意識を引き剥がされたように転がった。
「次、」
風霧は咄嗟に後ろに飛ぶが、鳳が構える速度には及ばない。
「死になさい」
銃口は既に向けられている。




