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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章『VS第Ⅴクラス』
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第二十一話『前夜①』

 第Ⅴクラスが第Ⅵクラスへ宣戦布告をした夜。

 歪に欠けた月が空に凛々と輝いていた。

 すべての者の上に平等に輝く空を見上げ、彼らは何を思うのか。



 ーー月明かりに照らされた旧校舎三階の窓に映る二つのシルエット、速水と宮園ーー


「速水、明日の決闘どうする?」


 宮園は速水に決闘について問う。

 速水は放課後に言われた決闘の内容を思い出していた。


「決闘は第Ⅴクラスと第Ⅵクラスの生徒全員が参加できる。参加するかしないかは個人の選択に委ねられる。つまり二人だけで参加することも可能」


 速水は宮園に視線を向ける。


「うん。もちろん私も協力する。たとえ二対三十になろうとも」


「正直、心強いよ」


 速水は宮園に信頼を寄せる。

 宮園はそれが嬉しくて、微笑んだ。


「問題は決闘の内容だ。この世界で暗殺が禁止という条約が結ばれていながら、今回の決闘は暗殺を参考にしている」


「暗殺学園側は止めると思いましたが、なぜ放置しているんですかね」


「あくまでも今回の決闘は暗殺を基にしているだけであって、この決闘の意義はなぜ暗殺が禁止なのか、を学ばせることにある」


 八神はそう説明していた。


「だからこそ、この決闘の敗北条件は自分たちのリーダーが暗殺されること。あくまでも水鉄砲を使った模擬暗殺だが」


 今回の決闘は水鉄砲を使った暗殺。

 勝敗は簡単で、水に濡れれば死亡扱いで脱落となる。


「だから暗殺学園側も止めにくい。もしくは止める必要がないと思っている」


 速水は今回の決闘についていくつもの考察を積み重ねている。その瞳は確信を捉えているのかもしれない。


「今回の肝は遠距離射撃ができないこと。水鉄砲じゃ射程には限りがある」


「速水の遠距離射撃を警戒しているんですかね」


「それは十分あり得る。だがその他の可能性を踏まえると、違和感は生じる」


 速水は今日にいたるまで、多くの情報を集めていた。

 例えばどのような事態が起きてもいいように、情報の収集だけは怠らなかった。


「模擬暗殺と言っている割には、水鉄砲じゃどう考えても暗殺と言えるほどのことは制限されている。その一つに、遠距離からの射撃」


「はい」


「赤羽は射撃だけならAクラスに匹敵する実力を持っている。あくまでもCクラス時代の話。Bクラスになってからは実力を隠している可能性が高い」


「特待Aクラスに匹敵するかもしれませんね。ですがそのような勝負内容を入れなかったということは、遠距離射撃の精度はさほど変わっていないんじゃないですか」


「その可能性も考えられる」


 速水は否定しない。

 何が事実であろうと、全ての可能性に対する警戒を怠らない。

 宮園も速水のその点を評価しているため、結論を出そうとしないことに苦言は言わない。


「八神はどうですか」


 特待Aクラス第五席である八神隷。

 卒業試験時に速水を過小評価していた人物。


「彼は私の脅威にはなり得ない」


 宮園はハッと顔を速水に向けた。

 速水の発言を不思議に思った。これまで通り、速水は慎重に慎重を重ねた発言をすると思っていた。


「そう……ですか?」


「そもそもの話、今回の決闘を始めたのは八神でも赤羽でもない。二人のバックにいる黒幕、警戒すべきはその存在」


「なるほど」


 宮園の疑問は一瞬で掻き消された。


「当然二人は警戒する。だが、敵が第Ⅴクラスと赤羽だけではないということは確実だ。最悪の場合、黒幕がこの戦いに介入してくる」


「ルール違反では?」


「今回の決闘の審判は特待Aクラス主席、鳳凛香。彼女の目的の一つに私の暗殺が含まれている、だろう」


「黒幕が鳳だとすれば、ルールは意味を持たない。私たちを制限する足枷になる」


 今回の決闘に設けられたルール。

 一つ、参加できるのは自クラスの生徒のみ。

 一つ、水鉄砲以外の武器の使用は禁止。バケツなどを使って水に濡らす行為は反則。

 一つ、リーダーを途中で変更することは禁止。リーダーはGPSを所持していなければいけない。

 一つ、水に濡れたら即退場。水に当たった人物が相手を濡らしても無効とする。


「私たちは守らなければ失格を受ける。相手は不正し放題。完全な劣勢。逆転する方法は少ないな」


「あるんですね」


「その全てを実行する。これから付き合ってもらうが構わないな」


「はい。是非」


 月明かりの下で、二人は勝利する未来を見据える。

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