第十九話『赤羽クロウは思い出す/暗殺学園の闇・序』
それは赤羽クロウがCクラスの第二席だった頃の話。赤羽クロウは憧れている人がいた。
Cクラス主席ーー有栖川麗。
彼女はCクラスだが、Bクラスへの昇級もすぐに叶うだろうという実力を持っていた。先生からも評価は高く、Cクラスの中では好成績を叩き出していた。
「有栖川。なぜBクラスへの昇級を断る?」
旧校舎の地下にある職員室に落ちる二つの影。
一つは有栖川。
「私は上には上がりたくないんですよ。このクラスに思い出がありますから」
「そうか」
もう一つはCクラス担任、古木新。
彼は有栖川の生き方に失望した。
「有栖川。君は優秀な暗殺者になれると思っていた。だが違ったようだ」
古木新は否定する。有栖川の生き方を。
だが有栖川は自分の生き方を変えるつもりはなかった。
「私は優秀な暗殺者ではありませんよ。しかし赤羽クロウは私とは違い、残虐性も持ち合わせています」
「あからさまな推薦だな。あいつをBクラスに昇級させたいようにしか聞こえないぞ」
「いえ。ただ実力に合った人物が上がるのが相応しいと思っているだけです」
「気に入っているのか」
「さあ、どうでしょうか」
有栖川は答えを明確にしなかった。
しかし古木は、有栖川が赤羽を気に入っていることは察した。彼は有栖川の目的が赤羽の推薦だと思った。
有栖川は特に気にすることはない。この会話の結果、何がどう進もうともどうでもよかった。
彼女は足を止めることなく、Cクラスの教室へ向かった。
そこでは一人の生徒が椅子に座っていた。音もなく背後から忍び寄り、その生徒の肩に手を置いた。
「わぁっ!?」
その生徒は椅子から飛び上がり、背後にいる有栖川と対峙した。
「あなたでしたか。有栖川先輩」
「だから先輩呼びはやめろと言っただろ。私と君は同じ年齢で同じクラスだ」
「でもオレと先輩とじゃ能力に差がある。オレは先輩みたいになりたいんすよ」
赤羽の本心が吐き出される。有栖川もその言葉に嘘偽りはないと分かっている。
彼は常に有栖川を見ている。訓練時も、そうじゃない時も。
彼は憧れというが、それ以上の何かを赤羽は有栖川に抱いているのかもしれない。
「赤羽クロウ。君は、Bクラスに上がってみたいと思わないか?」
「そうっすね。オレは……上がってみたいっすよ。既にCクラスから二人もBクラスに昇級している。オレも上に上がりたい」
赤羽は焦っていた。
自分の力が暗殺者として世間に出た時、通用するのか。
クラスごとに待遇のさ、訓練の質に違いがあることは全生徒に告げられている。上位クラスに行けば自分の実力を向上させることができる。
だからこそ、赤羽は不思議に思っていることがあった。
「先輩はどうしてBクラスに昇級しないんですか。既に昇級の資格があるんですよね」
「もちろんあるとも。だが、私には興味ないんだよ」
「強さにですか?」
「そうだ。私は強さよりも欲しいものがある。それはきっとここにいる者のほとんどが理解できないものだろう」
有栖川は赤羽の反応を窺う。
赤羽は有栖川と目が合うと、一瞬視線を逸らした。またすぐに目を合わせるが、思わず逸らしてしまう。
有栖川は企んだ笑みを浮かべる。
「これから新校舎の図書室にでも行こう」
「急にですか!?」
「人生はいつだって急展開の連続さ。君も今からの急展開を楽しもう」
「そう、ですね」
戸惑いを連れて、有栖川と一緒に図書室に向かうーーはずだった。だが有栖川が進む先は図書室ではなく、屋上だった。
「なぜ屋上に?」
当然目的が分からない。そもそも図書室に行く理由が思い当たらない。
困惑していると、有栖川は一言告げた。
「これから君には暗殺学園の闇を教えよう」
「ーーーーはぁ!?」