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うざいくらい慎重すぎる暗殺者  作者: 総督琉
第二章『VS第Ⅴクラス』
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第十七話『決着』

 速水は考えている。

 赤羽は自分の右足の負傷を知っている。それを利用し、近接戦で圧せば右足が限界を迎え、じきに赤羽が勝利する。

 そのため警戒すべきは赤羽本体だと。


 と、赤羽は想定していた。


 実際に速水が何を考えているか分からないし、何を警戒しているかも分からない。

 これまで速水は常に赤羽の策を上回り、圧倒的な慎重さで暗殺を回避した。


 赤羽は分かっている。自分の策が通用しないことを。

 だから仕掛けた。

 速水の慎重さで回避しきれないほどの策を。無数に積み上げた。


「赤羽、お前じゃ私は殺せない」


 速水は自分の勝利を確信している。

 それほどに彼女は対策を積み上げている。だからこそ彼女の想定している外側からの攻撃であれば通用する。


 赤羽は自分が恐怖で動けないと、そう印象づけることが目的だった。

 一見、赤羽は戦意喪失しているように思えた。

 だからこそ仕掛けられる一撃があった。


 赤羽はナイフを落とし、千鳥足で走る。速度は落ち、後続で最も速い宮園が追いつきそうなほど。

 落ちているナイフを拾い上げ、背後から迫る宮園。


「殺してもいいか」


 速水の殺気が向けられる。

 赤羽の速度はよりいっそう遅くなり、速水と広く差ができた。

 ふらつく赤羽。だが視線は一貫して速水の足元へ向けられる。


「落ちろ」


 速水の足が地に触れた。まるで地面が地面じゃないかのように崩れる。


「布か」


 地面と同化させていた布で落とし穴を覆っていた。落とし穴の先には幾つもの剣が刺さっている。

 と、速水は直感した。


「だがフェイクだ」


 落とし穴だと思ってしまうほどのなんでもない場所。一センチ程度の段差を作り、布を敷いた。慎重である彼女は常に最悪を想定するはず。

 盲目的に、なにもないという考えは思考の隅に追いやられる。

 生まれた刹那の隙。落とし穴に落ちないよう、まだ落とし穴に接していない足で前方に大きく跳んだ。


 赤羽はこの一瞬に全てをかけた。


 隣接する旧校舎に設置しておいたスナイパーライフル。それは赤羽がポケットに隠し持っているスイッチを押せば、弾丸が発射するというもの。

 スイッチが押される。弾丸は音もなく、そっと速水に向けて放たれた。


 もし予期していなければ、速水は死んでいる。

 スイッチを押してからのコンマ数秒。だがその時間は異様に長く、無限にも感じられた。

 弾丸が届くまでの刹那、緊張が全身を硬直させる。


(当たれ。当たれ。当たれ)


 思いは通じた。

 速水が頭を殴られたように仰け反った。


「ははっ。オレの勝ちだ」


 満面の笑みの赤羽は倒れる速水を凝視する。

 すぐに笑みは消えた。


「いやっ……」


 速水の頭に銃弾は当たっていた。しかし速水は生きていた。血を流すことさえせず。


「ヘルメット!?」


 赤羽は仰天する。

 それを旧校舎から見ていた女子生徒は呟く。


「また見れるなんて。やはり速水は面白いですね」


 眼帯戦で使った時のように、頭に受けた弾丸はヘルメットに阻まれた。

 当然そのことを知らない赤羽には予想外だった。


「バランスを崩せば私に隙が生じる。罠じゃない罠を仕掛ければ私に隙が生じる。赤羽、全てが間違いだ」


 赤羽の決死の策が通用しなかった。

 敵はまだ、遥か格上。


「くそっ」


 赤羽はまだ抗い続ける。

 赤羽はスイッチを複数所持していた。それは旧校舎に仕掛けてある合計七つのスナイパーライフル。


「速水、オレはまだ負けていない」


「いいや。負けだよ」


 赤羽が隠し持っていたはずの七つのスイッチ。その内の六つが速水のポケットから出てきた。


「既に詰みだ」


 ゴールまであとわずか。

 これから仕掛けようとしていた暗殺は全て封じられる形となった。

 赤羽は最後の力を振り絞り、全力で走り出した。隠し持っていたもう一本の折り畳みナイフで襲いかかる。


 周りの生徒には視認できない角度、速さで攻撃を浴びせ合う。互いの刃がぶつかり合う度、金属音とともに火花が散る。時折刃が欠け、飛び散る。

 激しい攻防は、周囲から見れば持久走で一位を争う二人にしか見えない。だが本当は命の奪い合いをしている。


「お前は私を殺して自分の強さを証明したいみたいだけどさ、それは無理だ」


「まだ負けてない。オレの刃はお前に届く」


「届かない。君の刃はもう、折れている」


 赤羽が握っていたナイフは全てグラウンドの砂のように、粉々に砕かれていた。


「これで君の持つ武器は全て喪失した。今のお前じゃ私は殺せない」


 速水は加速し、赤羽との距離を一気に引き離した。

 圧倒的力の差を目の当たりにした赤羽は、自然と速度を緩め、ゴール直前で足を止めた。


「…………」


 結果、赤羽クロウは持久走の記録なしで体力測定を終えた。

 全てを終えた先で赤羽に残されたのは、途方もない敗北感だった。

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