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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
真夏の狂犬注意報!
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真夏の狂犬注意報! その一

今回は壮大に何も起こらない話

 ミズガルズの土曜日の朝。

 季節は夏で、燦々とした陽射しが人々を襲っていた。

 だがエリンヘリアルのような闘志に満ちた者達は、まるでオーロラを彩るヴァルキリーの行進が如く秋葉原の空の下に綺麗に並ぶ。その列の一番後方にはエリンヘリアルとは似ても似つかない暗い瞳の少女が立っている。

 黒いぼさぼさの髪と淀んだ瞳の少女は、キャラクターの描かれたキャップを被り、同じキャラの描かれた白地のシャツと、青色のジーンズを履いていた。


「ついに来た……この日が……《北欧プリンセス~アース&ガールズ~セカンドシーズン~恋愛ラグナロク~》の発売日が……! 一作目のキャラをそのままに新たな少女達の物語が始まってしまう……やはり最初はロキか? いや、オーディンもありか? スルトなんかもかわいいんだよな……しかし北欧神話の女体化など、そこまで受けるものではあるまい……」


 そう呟きながらもロキの脳内では前作のテュールのグッドエンドやトールとの共闘などが脳内をよぎっていた。しかし発売日だからと並んでいるが、列はそこまで長いわけではない。十分に買うことができるだろう。ロキの帽子や服に描かれている北欧プレンセスのキャラのフェンリルに再び会うことができるのだ。


「ああ、早くするのだ! もう3D〇の準備は出来ているのだ! 買ったらすぐ起動して廃プレイしようではないか! くそ、落ち着かぬ! 本当に落ち着かぬ!」


 パタパタと靴を鳴らしながら必死に逸る感情をロキは抑える。だが時間を規則通り待たないわけにはいかない。ミズガルズで規則を破れば、刑務所で死刑になってしまうからだ。

 

「はやく、はやく、はやく!」


 小さな声で呟いていたが、後ろに誰かが並んだのでロキは黙った。それからも妙にニヤケた顔で前に並ぶ者の背中を眺める。

 

「ん、ふふん、ん、ふふーん……ん?」


 しかし、突然ロキは自分が何か冷たいような視線で見られていることに気がついた。確かにロキは自分が恨まれるようなことは幾らも心当たりがある。ならば、ロキを知るものだろうか。それにしても後頭部を酷く見られているような気がした……


 なんともなくロキは、後ろの並ぶ者を見上げた。


「…………あ」


 そこにいたのは、ミズガルズの人間では二十歳前の女性であるように見える。黒いショートロングの髪。そして眼鏡が夏日を反射している。だがその下からは、狂気的な形相が覗いている。これは、まるで恐ろしいヨトゥン・ヘイムの巨人のような冷たく鋭い狂犬の瞳……


「ひ、ひあ……………!」


 だがその正体に気がつくと、ロキは前を向き、静かに失禁した。気を失う寸前になりながらも、もうロキは汗か失禁かわからなくらいに全身を酷く濡らしていた。


 その少女は、岩場の小屋に軟禁されているはずの、フェンリルだったのだ。

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