正義の味方はホームレス その十二
夜の公園に人影は無い。
いや、一人の少女が暗い森に囲まれた公園、そのベンチの前にに立っている。
まるで刑事のようなコートを着込んだ少女は、ベンチに置かれたベルトを手に取った。間違いなく、それはメギンギョルズである。
そのベルトを手にしながら少女は虚空に喋る。
「黒山尚武よ。本当に正義を捨てるというのか……いや、私様は信じている。お前は再び正義の戦士として立ち上がると。これは単なる一度絶望して立ち上がるイベントに過ぎないと……だから、しばし休息を取るがいい。明日の朝一でもう一度お前にこのメギンギョルズを届けてやろう……」
すると、すっとロキの手元に小さな手が伸び、そのベルトを奪ってしまった。
「あ…………」
その先に居たのは、なんとトールではないか!
自分の腰にベルトを巻きながらトールは怒りを抑えるように言った。
「貴様がミズガルズで我がメギンギョルズを使い、何やら遊んでいることは聞いていた。なあ、悪神よ。何か申し開きはあるのか? ホームレスに一度手元に戻ったメギンギョルズを戻す正当な理由は? 俺にあんな不埒な仕打ちをした理由は?」
「あ……いや、な……お。落ち着け脳筋幼女よ! ほら、正義の味方でも一度挫折して復活とかあるではないか! それからパワーアップした方が盛りあがるだろ! だから、ほら、メギンギョルズを私様が預かっていたが、何かピンチになって、これが必要になるだろう、みたいな……」
「んなこと聴いてねえだろうがああああああああああああ!!!!!!」
何てことだ! まるで正義の味方が悪を討つような綺麗なパンチがロキの頬にめり込み、そのままロキは吹き飛んでいったではないか!
その衝撃で公園の木に羽を休めていた鳥達は一気に夜空へ飛び立ち、公園を根城にしていたホームレス達の小屋の幾らかは無残にも崩れ去った。
吹っ飛びながらロキはくるくるとドリルのように回転しながら思った。
――このダメージだ……まったく、くたばれ脳筋幼女……
結局ロキは力の無いトールのパンチも、力を取り戻したトールのパンチも、嫌だった。
次回未定




