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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
正義の味方はホームレス
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正義の味方はホームレス その四

 地震による混乱である交差点の中央で乗用車がトラックに追突した。直後に辺りに居た人達は救助へと向かった。事故があったとはいえゆっくりと車は行き交って二次災害の可能性も低くはないだろう。危険な状況だ。


 しかし救助に向かった人達は、自分達ではどうしようもないことにすぐ気がついた。

 乗用車の運転席の男性は怪我をしているようだが無事であるようだ。だが運転席で圧迫され身動きが取れない。脚も挟まっているのかもしれない。幾らかの人が壊れたドアを開けようとしたが開かない。ガラスは割れているので手だけは届きそうだったが、道具も無しに救助は不可能だ。

 そればかりか、有機溶媒の臭いが辺りに充満しているのに皆は気がついた。誰かが叫んだ。


「ガソリンが漏れているぞ!」


 何てことだ! 想定される最悪の事態だ!

 あまりに危険な状況に皆は離れた。そして消防車が届くまで間に合わないだろうと思った。脳裏に浮かぶのは爆発に消える哀れな運転手の姿だ。


 だがその事故車に突然ふざけた格好の男が駆け寄った。

 男はまるで悪ふざけであるかのように頭をジャンパーで覆いながら事故車に駆け寄った。この闖入者に皆は恐怖した。明らかに危ない人間だった。そのような者が何をしでかすか分からない。ガソリンの上でタバコを吸ってもおかしくないのである。


 しかし次の瞬間、男は事故車の壊れたドアの取っ手を掴むと軽々と開けた……どころか壊し外したのだ。バキリという音が響き、次の瞬間ドアは木の葉のように宙を舞い、誰もいない歩道へと落ちた。

 それから男は車自体を広げるような格好をしているのが分かった。正確に何処を押しているのかはわからないが、あの鋼鉄の塊となった乗用車は食パンを裂くかのように軽がると動いていく。運転席の空間が広がったのが分かった。なんと男はレッカー車のように、しかも運転席から車を押し戻し、車内の空間を広げたのだ!

 いや、それだけではい。

 その怪力男は怪我をした男のシートベルトを外すと、まったく苦もなさそうに怪我した男を軽々と持ちながら車から離れたのである。

 その少し後に凄まじいほどの爆音が響き、乗用車は炎に包まれた。

 皆が唖然とする中で男は安全な歩道に怪我をした男性を置くと言った。


「この中の医者か看護婦か、とにかく彼を手当てしてやってくれ……さらばだ!」


 そう男は残してどこかに走り去ってしまった。


 信じ難い話であり、もしや誰かの幻覚だと思った方が自然なのかもしれない。

 だがその男の凄まじい怪力と非常に臭ったという証言はぶれやすい目撃者の中でぴたりと一致していた。

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