TRPG世界に悪神が転生したらまったくゲームにならない件について その三
はい、情報通りにゴブリンの巣穴に着きました。入り口は二人ずつくらいしか通れないだろう。入り口はまあまあ頑丈だろう。辺りや入り口の上部には不安定な大きな岩が幾らも転がっているのが見える。上に登るのは危険だろう。
「ああ、岩の裂け目のような場所か」
若干違います。岩場にある洞窟を無理矢理広げたような場所です。洞窟の先は見えませんが足跡がいくらもあるのが分かります。さてどうしますか?
「当然フルプレートを装備して突入の準備をする」
「だから貴様は脳筋なのだ。まずは情報収集からと言っていただろう。そもそもゴブリンが巣の中にいるとは限らないのだ。ゴブリンは夜行性ではないな?」
昼間に行動し夜寝るタイプです。
「ならこのまま夜を待とうではないか。隠れて様子を見ることは出来るだろうな」
当然。ブッシュも多いので隠れるのにロールは要りません。
「夜まで様子を見よう。異論はないな?」
「このトートルが許可しよう」
他にないなら皆は見張りました。夕方頃に稲を片手にゴブリンが10匹戻って来ます。彼らは残らず洞窟に入って行きました。日が沈むと物音一つしなくなりました。見張りもいません。
「なるほど、これで寝首を刈るのだな」
「洞窟に近づき黒板消し落としのように小麦粉を入り口の天井に仕掛ける。30メートルのロープを引っ張れば私様の思った通りに落ちるように」
まあ、それくらいなら……40。成功。大体ロキシスが想定した範囲に想定した通りで広がるだろう。
「風はあるか?」
少しくらいならあるかもしれません。
「じゃあ小麦粉の下に燃えやすいようなもの……まあ、ゴブリンの資料を置く。石も乗せて風に飛ばされないようにする」
はい。
「離れて岩場に隠れる。30メートルならどこかにあるのだろうな」
隠れられる場所ならあります。これならゴブリンに見つからないように小麦粉を落とせるだろう。
「では小麦粉のロープを引っ張る」
……はい?
「だから小麦粉のロープを引っ張るのだ」
あ、ああ……じゃあ引っ張るとロキシスの思った通りに粉が広がった。
「じゃあ着火スキルレベル5を使用する。34、成功だな」
遠距離の対象を小さく燃やすスキルですね。ってかほぼ初期に取れる魔法のレベル全部こんなものに振ってたんですね。対象は?
「当然ゴブリンの資料だ」
ではゴブリンの資料が発火しました。白い粉で炎は見えないが確かに燃えているようだ。
「……それはおかしいのではないか?」
え?
「全てが私様の思った通りに整ったのだろう。ならば、当然想定通りの結果が起こらなければならない。少なくとも何も起こらないってことはないはずだ」
どういうことですか?
「小麦粉を一定の場所にばら撒いて、そこに種火があるのだ。ならば起こるであろう……粉塵爆発が」
あ……え? いや、だけど、そんな知識を得るような機会は無いから……
「何を言っているのだ。私様は、転生してニ〇動をマスターしているのだぞ? ならば当然粉塵爆発の動画を見ているはずだし知識はあるはずだ。だからこそ思い浮かべた品物が買えたのだ。違うか?」
でも、ほら、最初言ったじゃん、全員を白くするためって。だからゴブリンを白くするには十分な条件の……
「本当にそんなことをすると思っていたのか。大体、ルールブックにはちゃんと書いてあったぞ。『特記されていない科学現象は現実世界を参照する』と。小麦粉について何も書かれていなかった。つまり現実に起こるのだから、その通りにするべきではないのか」
……まあ、そう言われたらそうですね……
「ではいいのだな?」
分かりました。では粉塵爆発が起きます。凄まじい音が響きますが爆風は到底洞窟の奥には届きません。それどころか凄まじい音でゴブリンは目を覚ましたことでしょう。
「それだけでは無い筈だ」
まだあるんですか?
「辺りには岩があった筈だ。そして上には人が触れれば落ちるほどの岩があるはずだ。それが爆風で無事であるわけがないだろう。むしろ崩れると思った方が自然ではないのか」
いや、まあ、そうかもしれませんが……
「落ちて来るのだろう。洞窟の入り口に」
…………
「そうだ、貴様はギミックを用意していた筈だ。ゴブリンキャスターはレベル3。一人で我々を全滅させるスペックがある。故に魔法を使わせるわけにはいかない。ならばどうするか? 魔法が使えない条件を与えればいい。例えば入り口が脆いことをキャスターが知っているので躊躇ってしまう。だがやられる直前に魔法を使い入り口の岩を落とす。そして冒険者は閉じ込められるが何かしらを理由に救出される……そんなところか。だからこそ、態々入り口の岩を説明したのだろ?」
…………ファ〇ク
「さあ、ダイスを振れ! 岩が落ちて出口が塞がるのかロールしろ!」
ロールは必要ありません。岩が落ちてきて出入口が塞がりました。ゴブリンは二度と日の目を浴びることはないでしょう。
「これで依頼完了だな」
「何もしていないのに終わりましたね、トトール様」
「トートルだ、ブラーギ……まあ、帰るとしよう」
街に帰ると店主を通じて依頼主の罵声が飛んできた。どうやら洞窟の祭壇が使いたかったから依頼したらしい。だがそれでも報酬は支払われるだろう。モンスターを倒していないので経験値は入らない。これで満足か?
「まあ、仕方があるまい。戦わずして終わったのだからな」
「粉塵爆発って詩になるんですかね」
「ところで報酬はどれくらいなのだ? 勝利の剣が買えるほどなのか?」
買えません。
「まあ拙者に掛かればこの程度造作もないですぞ、デュフフーー」
「さすがはロキ様、名演技ですわ」
「黙れシギュン!」
今回のセッションはこれで終了します。てめえら、次は覚悟しておけよ。




