死後の世界に安息を! その八
その日もアースガルズは綺麗に晴れ、空は黄金のように輝いていた。
ヴァルハラの裁判は短時間に終わる。そして選別されなかった魂はアースガルズを下りニヴル・ヘルに降りなければならない。
神殿の巨大な門から一人の老人が姿を現し、長い旅路に立とうとしていた。しかしその顔を見て神々の誰がニヴル・ヘルに落ちるのだと想像しようか。判決の際も今も老人の表情は晴れやかなのだ。
だが老人は出口の正面に一人の少女がいるのに気がついた。腕を組みまっすぐと自分を見ている。老人は少女に見覚えがある。そして今では背中のミョルニルもよく見える。
「なるほど……アルフォズルが少女であるときには驚きましたが……貴方が、ミズガルズの尊い守護者でしたか」
「母上を万物の神と呼び俺を守護者と讃えた者は久しぶりだ。どうだ、岡田幸三郎よ、貴様が敬って来た神がこんな少女で幻滅したのだろう」
「いえ、決して変わりません。貴方様こそ、お目にかけて頂いたのに幻滅されたのでしょう」
「そんなことはない。ミズガルズでの俺の最後の言葉、覚えておらぬかもしれんが真実だ。貴様は十分に果たしたのだ」
「覚えておりますとも。ミズガルズの大蛇との決戦の日が訪れぬこと、もう二度とこの亡者と出会わぬことをかの地より願っております」
「たわけが。いずれ黄昏はこの地を覆うのだ……その日まで貴様の魂をニヴル・ヘルに落とした我々でも恨んでおけ」
「もう行きます。罰を受ける魂が素晴らしい地を穢すのは耐えられないもので」
一度老人はミズガルズの東洋式のお辞儀をすると、ヴァルキリーに付き添われて歩き出した。アースガルズを離れた魂は幾つもの国を下り、ギョッル川に掛かる橋で女王ヘルに迎えられることだろう。
トールは病死した穢れた魂が視界から消えるまでその背中を見送った。
次回多分ギャグ回




