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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
放送主達の黄昏
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放送主達の黄昏 その六

 放送主達の黄昏


 この動画は残酷である。何編かに分かれてアップロードされたこれには、コルポルやピーコッコマンを初めとした数々の生放送主の最期のタイムシフトが録画され『放送主達の黄昏』における生放送界の黙示録的な動画となっている。


 その動画の最後には、あの禍々しいSDKえすでぃーけいJSの無残な引退の光景がしっかりと映っている。いや、これも生放送ではよくある光景だ。だからこそ、これが『ラグナロクの四天王』と呼ばれた少女の最後だと最初に信じる者は少ない。



 動画の始まりは、暗い瞳の彼女のアップとクリック音から始まり、コメントが流れる。

『わこつ』『わこ』『アクシン今日も小学校休みかよ』『わこ呪いの生放送』

「うるせえよ、お前ら。もう少しまともなコメ打てないのかよ」


『お前よりマシだわ、小学生』『打てないからもっと叱ってください』『で、今日は何やんの』

「何やるか……ああ、『はーまーじょんの直結騒ぎ』からもうなんか張り合いなくなったんだよなあ。まあ、ゲームでもやっか」


『張り合い無いなんていつものことじゃん』『それよりここ凸ってよ』


 あるコミュニティのIDが張られているのがわかる。


「ここ……なんだこれ。格闘技放送って、しかもJSて、マジでこれ需要あんの? しかもほとんど人居ないし、ひでえ過疎だなおい」


『煽ってやんなよwwwwww』『ネット界のロキことアクシンたんと寝技で戦いたい』『人生相談もしているらしいからチャンスだぜ』

「わかったわかった。配信名はたんぐみょる。ひっでえな、本当にひでえわ。相手になんのこれ、相手小学生だろ。また泣かせんのかよ、小学生を」


『てめえも小学生だろwwwwww』『小学生vs小学生』『チンパンの縄張り争いになりそうだ』

「だから小学生じゃねえって言ってるだろうが!」


 ここでスカ〇プの送信音が聞こえる。


《もしもし?》

「もしもし? 人生相談いいですか」

《ああ、相談か。何でも言ってみろ》

「まったく誰も見てない格闘放送があるらしいんですが、それって放送する意味あるんですか」

《は?》

「いや、だから放送する意味があるのかって相談してんの」

《てめえ、喧嘩売ってんのか》

「喧嘩とかいいから、教えて。ねえ、楽しいの? 楽しいの?」

《別に人に見られるとか、そういう為に放送してんじゃねえから。俺が楽しけりゃそれでいいんだよ》

「じゃあ放送しないで一人で遊んでりゃいいじゃん。マジでさ、ねえ、どうなんだよ。是非私様に教えてください、なあなあ?」

《私様……お前、アクジンだな?》

「そうだよ、私様はアクシンだよ。知ってんだな? じゃあ分かるよな?」

《ネット配信をしているとは聴いていたが……まだ俺の放送に文句があるのか》

「あるから言ってんだろうが。リスナーゼロの放送がよお、貴様なんてうん〇以下だなうん〇以下」

《……今からお前の所に行って、その下らない言葉を垂れ流すパソコン、ぶっ壊してやる》


 ここでスカ〇プが切れる音が聞こえる。


「ぷ……ぶはははははははははははは! 今の聴いたか! どうやらこの雑魚生主は私様のところへ来てパソコンを壊しに来るつもりらしぞ!」


『wwwwwwwww』『小学生らしい切れ方wwwwwww』『住所不定無職のアクシンのところにどうやっていくの?』『怖い! 女子小学生が襲ってくるぞ!』

「マジで受けるじゃねえか! ってか、配信も終わってるし、マジで来るつもりなんじゃね! 近所でも金属バット持ちながらチャイム鳴らして『アクシンいますか』って聴きまくるつもりなのかよ!」


『ひっでえwwwwwww』『そこまで行動力あったら尊敬するわwwwwwww』



~~~~それからそんな馬鹿話が10分ほど続き、飽きたアクシンがネットゲームを始める~~~~



 カチカチというマウスの音が響く。また少女のアップ。


「あーあー! 来るな! 馬鹿、こっち来るんじゃねえ!」


 普段と変わらない光景だ。しかし段々と聴きなれない音が近づくのにリスナーは気がついた。


『なんかエンジン音しねえ?』

「この音は脳筋幼女のか? ん……待て、さっきの声……ちょっとまて、あいつ、私様をアクジンと言って、配信をしているとはと……ちょ、ちょっとまて、おい、どういうことだ、え? マジ? ちょ、嘘だろ!」


 おお、何てことだ! いきなり画面の少女は狼狽し始めたではないか! あの『ラグナロクの四天王』と呼ばれたアクシンが!


 凄まじいバイクの音はエンジンをつけたまま家の前に止まったのがわかった。それから乱暴にドアが開けられる音が響く。


「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 振り向いたアクシンは突然凄まじい悲鳴をあげて、奥のドアから現れた少女を見ていた。その少女は、両手にハンマーの握り手を持ち、そしてドシドシとカメラの方に近づいて来たのが見える。


 そこに立ち上がって逃げるアクシンのジーンズがアップで映る。暗がりでも分かるくらいにジーンズはしっかりと黒く濡れているのがわかる。


 パソコンからばっと離れて逃げたアクシンが最後に確認された姿である。


 そして『たんぐみょる』らしいJSがまるでミョルニルのようなハンマーを、まるで北欧神話のトールのように振り下ろす姿で動画は終わっている。




 全ては過去のものだ。『ラグナロクの四天王』も一人を残して全員がその姿を消した。『放送主達の黄昏』に彼等のファンもどれだけニヴル・ヘルに落とされたことだろうか。


 この事件により生放送界は大打撃を受けた。幾らものニート生主が引退し、普通のニートへと変わっていった。もはやこの悲劇を繰り返さないように、生放送は無くなってしまうのか?


 いや、新しいコミュがまた立ち上がる。


 また一つ、新しい名前の新しい名の者達が顔出しで画面に現れる。


 おお……まるで春風の息吹のように、『放送主達の黄昏』の屍を肥料にするように、新たな放送が始まるではないか。


 そしてまたスカ〇プで罵声が飛び合う。


 そしてまた四天王が生まれる。


 なんてことだ、彼らはまったく昔のことを反省するつもりがない。


 だが彼らは過ちを過ちと認識しながら進んでいく。自らと、リスナーが面白い放送をする為に。

次回未定

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