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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
名状し難き冒涜的なアースガルズの神様
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名状し難き冒涜的なアースガルズの神様 その一

今回まったりホラー回

 アースガルズの神々は今一つの議題に頭を悩ませていた。ヴァルハラの人員の増加率が非常に低いのである。一方で戦争技術は向上し、ヨトゥン・ヘイムにも戦車やICBMが配備されているらしい。エリンヘリアルの増加は非常に急務であった。


「しかし、どうするのだ。神々の黄昏にまで余裕が無いわけではない。しかし改善されるわけでもあるまい」


 テュールは会議室で唸る。皆も同じようにいい案など浮かばないのだろう。


 このくだらない割に時間だけが食う会議でロキは出されたお菓子を食べ切ると、お茶ばかり飲んでいた。こいつらは唸っているばかりで別に何も考えていないに違いない。ふと思いつく瞬間が悩めば早まるとでも思っているのだろう。


「しかし……原因が原因ではどうしようもあるまい」


 この悲痛なフレイの呟きは皆の耳に重い。


「アースガルズの出来事は改変され消され、オーディン信仰は過去の物となってしまった。誰もがヴァルハラを創作のネタくらいにしか思っていないのだろう。他の進行も新たな宗教に奪われてしまった」


 このトールの嘆きも散々聞いている。何回目なのだろうか。とにかく何かのせいにしないといけないのだろう。救世主だって散々創作のネタにされてんだろとロキは心の中で皮肉った。


「すぐ問題になることではないのだ。随分長い時間になる。一度解散して各自で考えるのが良いのではないか」


 飽き飽きしたようにオーディンが言った。皆には見えないかもしれないが、飽き飽きしたようにさっきから素足をぶらぶらと動かしている。


「しかし母上。そう言って前回から特に対策も無く終わっております。対策を立てなければ、来るべき日を思う我々がどう安心できましょうか」


 何も思いついてないトールが反論をする。真面目なだけで特に何も提案しないだけの委員長タイプに違いないとロキは適当に分析する。


 そしてまた、唸りが続く。


「ああ……うっぜ……くそうぜえ……私様は帰ってスチー〇の洋ゲーで遊びたいのだ……」


 誰にも聴こえないような声でロキは呟いた。まったく、死にゲーであるので時間がかかるのだというのに抜けるわけにもいかない。


「しかしなあ、信仰というものは利益を保証する行為に等しい。我々は勇敢に戦う者にヴァルハラへと送る保障を与え、弱き戦士はニヴル・ヘルへ送るという決まりを創った。しかし、今ではヴァルハラに行く戦争どころか、決して勇猛に戦わずとも信仰だけで天国を約束する信仰ばかりではないか。それかまったく死後など気にしない無神論者も増えておる。我々の信仰は時代遅れなのかもしれぬ」

「ならば、もう一度信仰を広めてはどうでしょうか。何……ただただ強大な力を見せつけたならば、必ずやミズガルズの人間はひれ伏すことでしょう」

「トールよ。そういう時代は終わったのだ。たとえ巨大な雷を落とそうと、凄まじい地震を起こそうと、既に自然現象という括りなのだ。我らの力としては扱われぬ。そして我らの力などよりも科学技術の方が強いのだ。炎の魔法など、今では火炎放射器でもっと早くできてしまう。不死のリンゴの力でさえいずれ凌駕されることだろう……」


 久々にロキはオーディンに加勢したい気分だった。当然オーディンのことは何よりも嫌いだ。しかしこの時間の無駄を解決するのなら乗ってやらないわけでもない。だが一時しのぎだ。また数日後には同じような会議がある。来るべき怠惰は一種の恐怖に他ならない……


「……恐怖の与え方が問題なのだ」


 ロキの一言にトールははっとしたように見た。


「説明しろ、悪神」

「簡単な話だ。たとえ我々は魔法を使ったところで科学技術の前には劣ってしまう。また同じようなことが科学でも出来るので、奇跡でさえ手品扱いとなるのだろう。しかしそれは大衆に広めようとするからそうなるのだ。ならば簡単だ。もっと少人数の者達に恐怖を与え、信じさせればいいのではないか」

「なるほど……ならば、小さな村の者達に雷を見せればいいわけだな」

「いや、ただそれだけではだめだ。インターネットにより情報は世界を駆け巡り、すぐ我々はペテン師のレッテルを張られることになるだろう。故に隔離した場所で奇跡を見せねばならぬ。そして恐怖は、間接的なものでなくてはならない」

「間接的だと?」

「貴様は何でも鎚で解決しようとするから脳筋幼女なのだ。そのご自慢のハンマーを振り下ろすのが直接的恐怖であるなら、見せ付けるのが間接的恐怖だ。要は恐れを想像させるのだよ」

「しかし、そんなことが我々にできるのだろうか」

「簡単な話だ。我々のオーディン信仰も現代風にアレンジすればいいのだ」


 全員が何かを言いたそうな顔をした。まさにこれまで培って来た伝統を打ち壊される恐怖を抱いた少女達の表情に違いない。伝統とは足場のようなものだ。足場から飛ぼうとすれば、怖い。


「さてオーディンよ。私様に任せてもらえるのなら、信仰を取り戻す努力をしようではないか。当然誓いはせぬ。実際に得られるかはわかったものではないのでな」

「現状を打開せぬことには変わらぬ。我が『義理の』妹よ。好きにするがいい。援助は惜しまぬ。必要であるならば神々も自由に使うが良い」

「寛大なご配慮ありがとうございます。姉上の……いや、アースガルズの期待に沿えるように致しましょう」

「では解散だ」


 オーディンの一言によりこの鬱蒼としたグダグダ会議はロキが信仰における問題の解決をするということに決まったのだった。


 だが皆はそのグダグダさにより忘れていたのだろう。

 ロキがオーディンの施しを受けるのは、最高神を泣かせるときだけだということを……

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