家出JKと家出幼女 その二
夜のコンビニには赤と白のイルミネーションが眩しく、店内にはジングルベルが流れていた。すぐレジへと向かって肉まんを一つ頼んだ。財布の中にはあまり金があるわけではない。昔やった短期のバイト代もそろそろ底をつくのかもしれない。100円だって他人にくれてやる義理も無い。なのに自分の食べない肉まんを買っている自分の人の良さに葉美は呆れてしまった。
店の外では、律儀にも少女は待っていた。黒いコートのポケットに手を入れていた少女は、葉美の持っている袋をちらりと見ると、視線を逸らした。
「ほら、これ欲しいか」
もう一度少女は肉まんの袋を見た。それからまた視線を逸らした。
「そんなに私様に食べさせたいのなら貰ってやらないわけでもない」
まったく偉そうな態度を少女は変えない。年上を嘗めきっているのだろう。
「じゃあやるよ。だがタダでってわけにもいかねえな」
「私様が貰ってやるのだ。貴様の方が何かを差し出すべきではないのか」
「はいはい。これをやるから、食べたら帰るって誓えよ」
何が誓えよ、だと葉美は思った。餓鬼をあやすのに餓鬼の言葉を態々使う意味もないというのに。
あからさまに少女は嫌そうな顔をした。そして眉の間に皺を寄せてそっぽを向いた。
「強情張るなよ。ほら、食いたくないのか」
「別に、私様でも買えるのだ。その程度のものは」
「そうか。じゃあ自分で買うのかよ。誓うだけでタダなんだぜ?」
「……ちっ。ならば、貴様も誓ってもらおう」
「何だよ」
「帰るのは私様が今一番やりたくないことだ。ならば貴様も誓え。今一番やりたくないことをやると」
……ああ、まったく、糞餓鬼が
大きなため息を葉美は吐いた。まったく、だから餓鬼は嫌いなのだ。『一番やりたくないことをやる』とは、幾らでも嘘をつけるじゃないか。
「わかったよ。誓ってやるから、お前も誓えよ」
「貴様がそこまで言うのなら、誓ってやる」
根負けしたように少女も大きなため息を吐いた。そして葉美の差し出す肉まんを手に取ると、すぐに食べきってしまった。
家まで送ってやるという申し出を断り少女は葉美と別れてしまった。不思議なことに、少し目を離したうちに音も無く少女は消えてしまった。後に残ったのは、明るい街頭と前を通る車の列ばかりだった。
葉美は肩をすくめた。まったく、何が家に帰れ、だ。何が一番やりたくないことをやれ、だ。
時間を食ってしまったが、麻友のマンションまで遠くはない場所だ。随分手足も冷たくなっている。さっさと戻ってしまおう。
……まったく、何が『やりたくないことをやれ』、だよ。人の気も知らない餓鬼の癖に。
冷たい手で葉美はスマートフォンを手に取る。そして麻友の番号を選択すると耳に当てた。
「ああ、麻友? ごめん、やっぱ家帰るわ。んん、そんなんじゃないって。大丈夫……」
あの餓鬼が何をそんなに嫌がっていたのか、葉美は知らない。
だけど、まあみんなそんなものなのだ。葉美の親だって、葉美が何をそんなにうざいと思っているのか知らないだろう。
……しょうがねえ、今回だけは許してやるよ
スマートフォンを切ると葉美は来た道を戻り始めた。まったく、約束通り一番やりたくないことをやるなんてな、と自分にため息を吐きながら。
次回未定




