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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
家出JKと家出幼女
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家出JKと家出幼女 その一

 肌を刺す寒さが坂本葉美さかもとようみは嫌いだった。すぐ暗くなるし空気は乾燥している。そのくせ周りはクリスマスやら年末やらのイベントで盛り上がっている。笑って歩く人たちは、葉美に目もくれず去っていく。まったく孤独でまた苛立ちが登ってくる。


 学校も嫌いだった。最初叱っていた教師はピアスも髪染めも怒らなくなった。授業も一応席には座っているが一秒も聴いたりなんてしていない。時々授業を抜け出して街で遊んで補導されたりもした。よく友人の麻友の家に泊まり夜の間友人の話題や恋話で騒いで苦情を言われたりもした。


 そして今日、ついに切れた父親が勝手に葉美の部屋に入って説教を始めた。怒鳴るその一言が葉美をただ逆撫でるだけだった。勉強しろ、何時だと思ってるんだ、どこに泊まっているんだ……。


 あまりにうざくて葉美は家を飛び出した。親は本当に何一つわかっていないのだ。別に今の生活が好きであるわけじゃない。だけど全部嫌いだからこんな生活をしているのだ。


 麻友だって同じだ。何もかも嫌いで、だから楽しそうに騒いで反抗している、普通のか弱くて傷つきやすい女の子なのだ。その一つ一つ誰も理解しようとしない。


 人通りが無くなると暗いトンネルにつく。この先に進んで暫くすれば麻友のマンションだ。もうメールで親と喧嘩したことを話していた。今日は麻友の家に泊めてもらう。それから明日は学校をサボって、昼に制服と鞄を取りに帰って、しばらくは麻友のお世話になる予定だ。


 だがオレンジ色のライトに照らされた短いトンネルの壁に何か見慣れない影があった。


 長い髪の少女である。ぼさぼさの髪で眼には隈があるのが分かる。小学生だろうか。黒いコートを着ている。そんな少女が虚空を眺めるようにぼーっと体育座りをしていた。クリスマスの雰囲気とはまったく似つかわしくは無い、まったく不気味な少女だ。


 最初に見たとき葉美はぞっとしてすぐ少女から離れようと思い脚を早めて通り過ぎた。しかしトンネルの出口付近へとついたとき、気になって振り返った。少女はまったく動く気配を見せない。トンネルの中に風はないが心なしか寒い。こんな不気味な餓鬼など無視すればいい。そう思っても放っていてよいものなのか。


 ついに振り返ると、葉美は少女の横に立って、言った。


「お前、ここで何やってんの」


 少女は葉美を見上げた。まったく暗い瞳だ。世界を呪い絶望しているようなというチープな表現がぴったりな瞳だった。


「貴様には関係が無い。放っておくがいい」


 そう言って少女はまた同じ姿勢に戻った。


 せっかく声をかけてやったのにと葉美は腹が立ち、少女を放って麻友のところへ行こうかとも思い、少女に背を向けて歩き出そうとした。


「……ったく、しょうがねえなあ」


 だがその一歩が踏み出せない。少女の方を再び向くと葉美は染めて痛んでいる髪を掻いた。


「お前、どうしたんだ。こんな場所に座って」

「貴様には関係ないって言っているだろ」

「おい、年上を貴様呼ばわりはねえだろうが」

「何が年上だ。私は18歳以上で貴様よりも年上だ」

「はいはい、そういうのはいいから。それで、お前何やってんだよ。もう遅いだろうが」

「大したことではない」

「内容聞かないとわかんねえだろ。さっさと言えよ。こっちだって寒いんだよ」


 しつこかったのか少女はあからさまに不快そうに舌打ちをした。


「……誓いを果たすのを躊躇っているだけだ」

「……約束か?」

「誓いだ。確かに果たさなければならないが……しかし、どうも今回は果たしたくないのだ。笑いたければ笑うがいい。だが、それでも嫌なのだ」

「ああ……親との約束とか、そんなのかよ」

「糞ったれな脳筋幼女との誓いだ……くそが……絶対に私様に果たさせる為に小人なりを送っているはずだ……いや、この場所もばれているのだろうな……」


 ブツブツと少女は独り言に走っていた。なるほど、きっと姉妹との約束を守りたくなくていじけているのだろう。


「場所がわかってんなら、さっさと帰れよ。きっと親とか心配してんぞ」

「親などおらぬわ。心配もされぬ」

「そういうのいいから。ったく……家出なんてやめとけっての……」


 そう口にして、葉美も口ごもった。ああ、何説教してるんだ。自分だって、家出をしているくせに、と。


「お前、名前何て言うんだ?」

「貴様には関係ないだろうが」

「はいはい、私は坂本葉美。お前は?」

「……ロキとでも呼んでおけ」

「代わった名前だな。流行のキラキラネームか。まあ、嫌いじゃねえよ」

「わかったら、もういいだろう。さっさとどこかに行かねば、私様も黙ってはおらぬぞ」

「それで、ロキ、お前腹減っていたりしないのか」

「……………………」

「減ってんだな」

「へ、減ってなどいない! 別に食べなくとも、私様は死んだりはせぬ!」

「けど減ってんだろ?」


 何やってんだろと葉美は思った。こんな餓鬼など放っておけばいいのに。それでも一度言い出したら、やっぱやめるというのも格好が悪い。

 ここで初めて葉美は少女に背を向けて歩き出す。そして二歩歩くと一度立ち止まり、見上げる少女へ言った。


「ついて来いよ。食いもの買ってやる」

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