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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
二次元の嫁暗殺計画
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二次元の嫁暗殺計画 その七

 アースガルズの神々がその人物にメールを送った日の翌日にその返信は届いた。アースの神々は会議室のノートパソコンの画面に釘つけになっている。ヤフーメールの送り主の欄には、しっかりとあの禍々しい名が書かれている。


「まさかぁ、本当に送られて来ましたけどぉ……大丈夫ですかぁ?」


 ついに復活したブラギは言った。


「まさか、あの呪われた者に我々が助けを求めねばならぬとは…しかし、大丈夫か。ある意味では一番ラグナロクを求めている者ではないか」


 確かにテュールの言葉に偽りはない。ラグナロクを恐れぬばかりかそこに利益を見いだすであろう者だからだ。


「だがこれ以上に死に詳しい者はいないのだろう。そうではないのか。そして誰よりも中立な者には違いない」


 マウスを握るトールは言った。誰からも反論は無い。確かに他に思いあたる人物など存在していない。


「ともかく、もう送ってしまったのだ。見よう…ヘルのメールを)」


 フレイの言葉に皆は息を飲んだ。


 おお、なんということだ! アースの神々が助けを求めたのは、ニヴル・ヘルの女王、ロキの禍々しい三女のヘルではないか! 彼女はオーデォンに砲丸投げをされて以来間違いなくアースの神々を滅ぼしたいと願うほどに恨んでいるに違いない! だが彼女ほど中立な者は何処にいるというのだ! そして死に詳しい者など何処にいるというのだ!


 全員が凝視するなかでトールは恐る恐るメールを開く。そしてその恐怖と呪いと禍々しい災厄を予見させる文書が神々の前に姿を現した。




 拝啓、アースガルズの親愛なる方々へ

 アースガルズの危機に関する文書ならびに他の事項に関してもお伺い致しました。


 まず最初に確認しなければならないのは、決してアースガルズより追い出されたことを怒ってなどいないということです。現在の役職にも満足しております。なので原稿用紙100枚に及ぶ反省文を贈られる必要もありませんし、贈り物も結構です。死を司る者として皆様とは運命の日まで友好的であることを望んでおります。


 さて我々は現在最高神オーディン陛下を受け入れる支度をしております。つまりはご存知の通り、ここままでは陛下は衰弱により亡くなられます。その日も遠くはありません。万が一にも不幸のあった際の皆様の冥福は約束されているのです。ニヴル・ヘルは皆様の考えているような場所ではありません。


 しかし理由がわたくしの母となっては皆様のニヴル・ヘルの印象は良くないものとなるでしょう。なので今回の件に関しましてアースガルズの皆様の手助けをしたく思います。


 ですがニヴル・ヘルを統治するものとして直接的な援護をすることはできません。なので皆様のご希望通り、事態を解決する方法に関しましてのご提案をお送りさせていただきます。どの案でも結構ですし、改変等もご自由になさってください。


*もしも提案に満足した場合に、ニヴル・ヘルチャンネルへのマイリストをお願いします。

*ニヴル・ヘルチャンネルへ入会された方には、ニヴル・ヘルへお越しになった際に素敵なプレゼントの抽選券をお渡し致します。はずれ無しです。


PS:前に頂いたおもちは皆で食べました。おいしかったです。




 おお! なんと恐ろしい!

 神々は死の女王への恐怖で文章の半分も理解することもできない!


「……やはり、怒っているのだ……やはり、謝罪文100枚では足りなかったようだ……!」


 汗ばむ手でトールは最後の『おいしかったです』を見る。後には時々出るニヴル・ヘルの文字ばかりが脳裏に残る。


「どこだ! 解決法はどこに書いてある!」


 必死にフレイは文章を見渡す。しかしそのようなものはどこにも書かれていない。


「ああ……ニヴル・ヘルの歌ですかぁ……針の山とかぁ、血の海とかぁ歌わないとだめなんですかねぇ……」


 遠い目をしながらブラギは呟いた。もはやニヴル・ヘルに招待されたような気分なのかもしれない。


「……待て、添付ファイルがついているぞ」


 テュールの言葉に全員がそれに注目する。ファイル名は『二次元の嫁暗殺計画』だ。そのファイルをトールは開けて見る。


 そこにはチャート形式で凄まじい量の選択肢が書かれていて、期待できる効果や成功する確率などが細かく記載されていた。そして続いていくチャートの一本に赤線が引いてあり、そこからくるくると細い黒線が一本伸び、デフォルメされたヘルの噴出しに『女王ヘルのお勧めルート』とある。


 神々はそのルートの先にある結末を見て、我が目を疑った。


 驚くべきことに、誰一人死ぬことなく……もえちゃんですら死なずに解決する結末なのだ!


「……これが、本当にヘルのお勧めなのか」


 トールは呟く。あの死の女王のルートにしては不自然だ。何かの罠である可能性もある。


「罠である可能性が高くはないか。もしや、これこそが一番の災厄を撒くルートであるのかもしれぬ」


 テュールの頬を汗が一筋流れた。


「とにかくぅ……小人に解析させませんかぁ? でしたらぁ責任もぉ小人のものになりますしぃ」


 ブラギの言葉にトールは頷いた。


「時間も無い。早速小人に情報を漏らさぬよう誓いを立てさせ召集しようではないか……」

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