†ブラギ~漆黒の完全なる終焉《ラグナロク》を謳いし吟遊詩人《ポエマー》~†
一ヶ月が経ち再びブラギがロキの小屋へと姿を見せたとき、そこには悪神の姿も彼女の持ち物も消えていた。
そのぽっかりとした部屋の中央には一人の女性が正座をしている。
ロキの忠実な妻、シギュンは頭に深く紅いキャップを被り、座っていた。服装はブラギと同じ古代ローマのような布の服装である。
「あのぉ、ロキはどこにぉ?」
ブラギが尋ねると同時に、そのままシギュンは頭を大きく下げた。
「確かに誓いは果たした。14日間貴様の詩が皆に読まれるような指導をして、うけるようにする策略を立ててやった。うけたんだからいいだろう。といい伝いました」
「ああぁ……ここにはいないんですねぇ」
「どうか、偉大なるオーディンの娘、ブラギ様。ロキのことを許してください。罰ならば私が受けますから……」
確かにロキは誓いを果たしていた。大賞に選らばれたのはバルトルの『アース神族の国』だったが、ブラギのゲームも話題になった。というのは最も酷いゲームに送られる『ニヴル・ヘル賞』を受賞したのである。プレイした数々の神々を深遠のニヴル・ヘルに送ったのだから最も相応しいショーだともいえるのかもしれない。
「だからぁ怒っているってことですかぁ? その復讐に訪れたとでもぉ?」
「どうか許してください。変わり罰を受ける以外に私にはできることがございません」
「今日はですねぇ、これを渡しに来たんですよぉ」
とさりという音と共に落とされたのは、何か太いミズガルドの東洋式茶封筒だった。開いた中からは褐色の紙束が覗いていた。
「ミズガルズのお金でぇ300万円っていうのらしいですよぉ。これで壊したのを買いなおしてくださいねぇ。あとぉ、修理も小人に頼んでおきましたからぁ」
「……許していただけるのですね」
「だからですねぇ、怒っていませんからぁ」
そう言うとブラギは頭を床に着けたままのシギュンに近づいて頭を上げさせた。そして微笑みながら言った。
「あの後からですねぇ、トール様とかですねぇ、私の詩を聞いてくれるようになったんですよぉ。サブカルチャーじゃないですけどぉ、それでも元の方がいいからとですねぇ」
「許していただけるのですか?」
「むしろ誓いを果たしに来たんですよぉ。確かに弁償しましたからねぇ。それだけ伝えておいてくださいねぇ」
言い終わるとブラギは目の前の哀れな彼女を立たせてから、この陰険な家を離れた。その間もシギュンはロキの許しを乞うように頭を下げ続けていた。
後日、ロキの小屋は元通りになった。更に後には弁償の余りらしい札束がヴァルハラの床に散らばっていた。




