†ブラギ~漆黒の完全なる終焉《ラグナロク》を謳いし吟遊詩人《ポエマー》~† その四
イベントを終えたトールは、ビルスキルニルの自室で頭を悩ます。最初にプレイするゲームは決まっている。しかしCDを入れる勇気がどうしても持てない。確かにブラギのことが心配である。だが、あの格好が浮かぶと、なんとも手が動かない。
「何故ここまで怖がっている? 俺が恐れているのか? 何を? だが、ゲームをしないわけにはいかない。そうだ、悪神は嘘を吐くが、ブラギが嘘を吐くわけがない。パッケージや題名に惑わされてはならない。内容はいつものブラギで、いつものように美しい言葉で黄金に輝くアースガルズや神々を謳っているに違いない……そうだな、そうだろ?」
カシャリという音と共にミズガルズ製のパソコンにディスクが投入される。そして『創造~冒険物語製作ゲーム~』を起動して、ブラギのCDを読み込ませる……
どでかく、あのCDディスクの表紙が現れる。すぐにゲーム終了を押したい葛藤と戦いながらトールはゲームスタートを押す。
まず画面には、黒を背景にイベントのブラギをデフォルメにしたようなキャラがぽつんと立っていた。それからスクロールが画面の下から流れ始める。
『この神々の国《最も神聖なる地~アースガルズ~》で少女の闇を理解する者は存在しない。彼女の生い立ちは高貴で崇高で悲劇的な夜闇の憂いのようだ。
神々が生まれる前、ギンヌンガ・ガプの深遠が生まれた時《終焉にして始祖の瞬間》より前の高貴なる種族のたった一人の生き残りが少女である。幾億年の時間を孤独に生きた少女は自らに降りかかる呪いの苦しみに耐えながら、謳い出す』
それからデフォルメのブラギが語りだす。
『深遠なる漆黒の聖地《終焉のサンクチュアリ》アースガルズの桃源郷は
大きな胸に与えられた実よりも甘美で柔らかく
かの国で語られる夏場の水着から露出する女子の肌より白く~だが谷間のように闇色の~
最高神《絶対的な存在》のスカートの下は世界の果ての滝よりも深い
最も深き†ダークネス†に漂うのは少女のパジャマよりもゆるりとするパンツ《純潔の証明》
世界樹の根さえも堕とす絶望は
古《いにしえ~少女の種族が繁栄し時代》を朧に映す
たった一人サクリファイスとして現世に蘇りし存在《少女》は
今宵も血液よりも鮮明な真紅の絨毯の上でブラジャーと嘆き狂う……』
「痛てええええええええええええええええええええええええええ!!!! んじゃこりゃああああああああああああああ!」
ついに耐え切れなくなったトールは床に倒れ頭を抱えてグルグルと部屋中を転げ回った。その叫びはビルスキルニルの宮殿全てに響き渡り、大地を揺らし、そこに住まう農民の魂がトールの額に何かが当たったのだと確信するほどだった。
「痛てえ……酷すぎる……何だ、ギンウンガ・ガプより前って、たった一人サクリファイスって……それに、何故ブラジャーと嘆き狂うんだあああああああああああ!」
もう一度叫ぶと、トールは落ち着きを取り戻す。そして瞳を閉じて落ち着くと、またパソコンの前に座った。
「落ち着け……痛いのが妹君の創った詩なものか……そうだ、これはロキの奴が創ったのだ……そうだ、そうだ……ならば先には、妹君の創った輝かしい詩が待っている筈だ……」
『少女《神々にして悲劇的な始祖のキラル》は流す雫《絶対的に冷たい悲しみ》にビギニを濡らし
闇夜に狂う月《狂気を映し出す美しい万華鏡》の紅い光に照らされ……」
「痛てえええええええええええええええええええ!」
その夜にトールの叫びが止むことは無かった。いや、他の神々の家からも続々と叫びが響き渡った。悶える神々によりミズガルズの中南米辺りは酷い台風と雷雨に見舞われ、何百億ドルもの損失を人類は被ることとなった。それでもトールは翌日まで続くその文章を読み終わり、エンドロールを見たとき、くたびれた瞳でパソコンの前に倒れて呟いた。
「何故……こうなるまで、放っておいたんだ……」




