ネトゲは戦争に入りますか?その九
「……我が『義理の』妹よ。言いたいことはわかるか?」
アースガルズの黄金に包まれたヴァルハラの玉座。そこに居るのは三人の少女である。
一人は玉座で足を組んで優越感に満ちたような表情をしているオーディンである。片目の眼帯が少女でありながら威厳のようなものを与えている。
「誓いは絶対です。アースガルズに住む者は破ることが出来ません。同時に証明に他ならない。最高神オーディンは一度も対象の男がヴァルハラに相応しいと思わなかった……まったく、賭けにもならないほどに」
右手をポケットへと隠した少女はテュールである。敗者を警戒しているのか、首を跳ねよと命令されるのを待っているのか、彼女は左手を腰の剣に当てていた。
「くそ……何故だ……お前ら、本当に神か……? あれだけのものを見て、何故そう平然としてられるんだ……!」
最後に二人の前に両手両足を縛られたロキがいる。ロキはこの数ヶ月風呂にも入っていないように汚れていて、いつもよりも隈が深く髪もぐしゃぐしゃだった。
「我が『義理』の妹よ。分かっているのだろう。どれだけいい話にしてお涙頂戴モードにしたところで、敗北を乞うような行為で勝利を得られるものか。同情を誘いついヴァルハラの戦士にしてやりたいと思わせようとする作戦を見破れぬとでも?」
「でも、少しくらい思ったんじゃないのか! そうだろ、な、引き分けと行こうぜ! なら最高神の威厳も守られるだろ、な、そうだろ?」
「誓いは絶対だ。そして勝利の報酬、分かっておろうな?」
「ひ……ちょ、ちょっと待て……な、待とうな、な?」
悪心の顔は恐怖に歪む。薄いシャツは全身から溢れた汗に濡れて透けるほどだ。しかし縄で縛られているのだから見えるのは肩だけだ。その点、運営には優しい。
「さて、今より一日私の言うことを聴いてもらおうか。ともかく、ロキを私の寝室へと運べ。フリッグの準備はよいな……さあ、覚悟せよ、我が『義理』の妹よ……」
もしもこの部屋に脚を踏み入れた者が居たとしたならば、部屋の主は狂人か異常者かメルヘラーだと思うのが妥当だろう。誰もがまずオーディンの寝室であるとは思わないはずだ。
まずメイド服を初めとしたコスチュームが多量に並んでいる。そのサイズは一定で、人目で部屋の主のものだと分かるだろう。また、多量の本棚に入れられた絵画や本やアルバム、CDなどのディスク、それに石版などの太古のものは、もはや何やら時代背景さえわからない。他にも小道具やら試験管やら武器やらが沢山整頓されている。
その一箇所を、部屋の主であるオーディンは凝視している。その少女を見て初めてコスチュームが部屋の主の為のものではないとわかるのだろう。オーディンはあの脚がよく見える格好のままだった。そして……涎を垂らしている。
「お……おい、もう、その……い、いいだろ、十分だろ……な?」
最高神が凝視するものは、鏡の前でもじもじと身を屈めながら、恥ずかしそうにオーディンから視線を逸らしている。彼女の黒髪は真っ直ぐと梳かされて綺麗な光の弧を頭蓋にそるように描いている。頭にはカチューシャまでかぶせてある。服はひらひらが沢山ついた黒と白のメイド服だった。いや、メイド服というには下が短すぎる。でも大丈夫、黒のタイツがさらりと伸びているので、肌色は少ない。よもや目の隈も無いこの少女が治癒を施すルーンを与えられた悪神ロキであると誰が気づこうか。
「…………んん………」
オーディンは軽く唸った。もしやロキは、それが飽きたことの証明ではないかと思った。いや、そう思いたかったのだろう。
「そ、そうだ……なあ、じゃあ、終わりに……」
「んひょおああああああああああああああああ!! かああああああわああああああああああいいいいいいいいんひやああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおんぐおおおおおおおおおおおおおおお!」
何てことだ! 突然オーディンは奇声を発してロキに抱きついたではないか! しかしこれ以上先に進むことはない! あくまで抱きつくだけならば、合法なのだ!
「ちょ、ちょ、おい、だからやめ!」
「本物の妹じゃないからせええええええええええええええふ! 義理の妹だからおおおおおおけえええええええええええええ! すうううううううばあああああらあああああしいいいいいいいいちいいいいいいいいえええええええええあああああああああああ!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「ろきたあああああああああああああああああああああああん! うわああああああああああああああああああああああああああ!」
この日、ヴァルハラにはオーディンの雄々しい叫びとロキの悲鳴が響いた。その事実を知る者は頭を痛め、事実を知らぬエインヘリアル達は悪神さえも支配するオーディンに更なる忠義を胸に刻んだ。
今回はこれでラストです
短編にしては長すぎませんかね




