ネトゲは戦争に入りますか?その八
丁度秀樹とロキが出会ってから三ヶ月になる。思えばあっという間の三ヶ月だった。終わって見れば全てが夢であったようだ。
秀樹の前には既にロキの姿は無い。ロキは、もうログインさえしていない。彼女を見るには過去の動画を見るしかない。しかし彼女の声を聴くことはもう不可能だ。
ロキが抜けてからクランのメンバーは一気に減った。彼女の知り合いを含めて抜けて、更に課金アイテムを利用だけしていたようなメンバーが抜けて、クランのレアアイテムを十分手に入れた者が抜けていった。それでも20人程度のメンバーは最後まで残っていた。
クランの解散式を行う場所は、秀樹の希望によりイズンのリンゴ農園になった。当然狩りをしている者もいたが、その邪魔にならないようにMAPの隅でスクリーンショットを皆と取ったり雑談を秀樹は楽しんだ。
「しかし驚いたよ。まさかスーパーニートオブニートの隊長が就職なんて」
茶化すように猫の太陽は言った。
「まあ、働いたら負けだと思ってたけど、そろそろ働くのもいいかなって」
「いいとは思いますよ……ああ、でも仕事辞めたい。引きこもりたい。実況動画とかで暮らしたい」
しみじみとしたような花崎京二郎の声がした。社会人疲れに飲み込まれないようにと秀樹は少し心配して、そんなことを自分が心配する立場じゃないなと苦笑した。
「だが、よりにもよって農園でやらなくてもいいだろうに。さっきからポップしてるし」
蜂はアクティブにプレイヤーを攻撃してくる。そして配置されている数も多い。それだけではなく若干暗い背景は何かイベントをするには不向きであるに違いない。
「いや、ここ以外ありえない。『名古屋県民市民団体』の伝説はここから始まったんだ。だから、終わりもここじゃないと駄目なんだ」
「ロキさんと出会ったのがここなんだっけ……だけど、肝心のロキさんは……」
言いにくそうに、まるでタブーに触れるようにネコビはロキの名前を口にした。もしや当然の反応だったのだろうが、だがまるで秀樹には彼らのようなロキへのネガティブな感情はまったく無い。
「いいんだよ。ロキさんはそういう人だから。それこそが副隊長のロキさんなんだ。だけどな、このクランは俺が隊長でロキさんが副隊長じゃないと駄目なんだ。だから今日で解散して、また新しく作り直すんだ」
「そう隊長に言われたら仕方ありません」
くれくらまんじゅうはため息混じりに言った。
解散して新しく掲げた『愛知市民県民団体』というクラン名を眺めながら、秀樹は一人アースガルズの街を眺めた。落ち着かないような落ち着くような、変な感情だった。もしや明日就職の面接を受けるからなのかもしれない。まだ対人をには少しばかり不安がある。それでもこのアースガルズには、不思議と秀樹に勇気を与え落ち着かせるような力があった。
勇気の先に見るのは、あの彼女の姿に違いない。だからもう、秀樹には恐れることは許されない。
それはまさに、ヴァルハラを思い戦場をかける戦士のような高揚感のようなものだった。確かにこれから秀樹は戦に向かうのだ。そしてひと時の勝利を勝ち取り、先に待つ日々の戦いに身を投じなければならない。不安は無いわけではない。だが踏み出すことが出来る。
ともかく解散祝いに贈られて来たアイテムを整理しようと思い、秀樹は宅配便へと向かうと、様々なプレゼント用の包装や冗談じみたアイテムの山に紛れて一つのアイテムが秀樹の目に留まった。
ヴァルハラの紋章が一つ。それはチュートリアルを終えたアースガルズのキャラに配られる基本的なアイテムだ。その送り主の名を見て秀樹は手を止めた。
『やっぱり、お前はヴァルハラに相応しいと思う』
たったそれだけの言葉が書かれたメッセージと、ロキという名前を見た秀樹は、もう一度ロキに会いたいと感じ、だから自分の一歩を踏み出そうと決意した。




