24、自分で選んだ曲
発表会の曲を選ぶとき、私はあまり高望みをしないで、いつも弾いている教本の2~3曲先のものを選ぶことが多い。
お教室によっては、発表会用の長い曲を渡すところもあるけれど、私はあまりそれをしない。
とはいえ、生徒さんがそういった曲を選ぶこともある。
人気のアニメや、流行った映画の主題歌など、どうしても弾きたいという子もいるからだ。
「この曲はまだ難しいから、先生が簡単に直してあげるよ」
と、編曲してあげることも多い。
ところが、その編曲すらも嫌だと言って、やりたい曲を押し通した子がいた。
当時4年生だったМ君は、まだ手が小さくて曲を選ぶのに苦労した。よく練習する子だったので指は動くのだけど、オクターブのある曲ができない。
ところが彼はオクターブのある曲を選んだ。
レベル的には問題ないけれど、オクターブが届かないと途端に簡単に聞こえてしまう曲だった。
しかし、子どもの手に無理はさせられない。
オクターブの上の音だけを弾くように指示し、譜読みをした。
しばらくすると、手が開くようになってきて、ゆっくり弾けばオクターブが届くところが出てきた。
しかし、オクターブで速く弾くのはまた技術がいる。
ゆっくり、しっかり練習を重ねて、発表会では随分とカッコよく弾けるようになった。
自分で選び、やりきったМ君はとても嬉しそうだった。
きっと彼は、その曲をずっと忘れないと思う。
男子のピアノのお稽古は色んな意味で手がかかるが、彼には素晴らしい男気を見せてもらった。




