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14、浴衣さらい
私は大学時代、三味線を習っていた。長唄の三味線である。
三味線は“糸巻三年”などと言い、糸を巻く、つまり調弦(音を合わせること)が難しい。
調弦ができなければ弾くことはできない。
ちなみに、演奏中でも弦(糸)は容赦なく伸びるので、調弦が必要である。
三味線の糸は絹糸でできていて、その糸に米の粉をまぶしてある。そんななので、わりと簡単に切れる。
一番細い糸はいつ切れても良いように替えを持っていて、演奏中にサッと変えられるテクニックが必要。
とはいえ、素人にそんな芸当はできない。
ということで、私は三味線のおさらい会(発表会)に出ることになった。
七夕の頃に、浴衣を着て行う「浴衣ざらい」というものだ。
なんて風流なんだ!
と、喜んでいたけれど、着慣れない浴衣。
なんてったって、足が開かない。
自分たちの演奏が終わって、お玄人さんの演奏の間、控室でヒマにしていても、浴衣を着ているため、背筋を伸ばしていないとならない。だって、その恰好が一番ラクだから。
お玄人さんの演奏よりも、自分の足が開かなかったことしか覚えていないくらい、浴衣ざらいは辛かった。




