18、合唱ならではの緊張感
合唱は、独唱と違って複数人で歌うため、私たち声楽家にとってはかなり気楽である。
とはいえ、独唱とは違った緊張感がある。
特にN響との共演では、一流の舞台にふさわしく、全員が心を合わせて歌わなければならない。また歌う以外の時も合唱に緊張が強いられる。
ベートーベンの交響曲第九番は4楽章まであって、合唱は4楽章目にしかない。
3楽章までは出番がない。
出番がないのに、最初から座って待っているのだ。
1楽章から3楽章まで微動だにせず座って待っている私たち。しかし、どうしても音楽を聴いていると反応してしまう。
第2楽章で、ティンパニーが「ダン、ドドン!」と鳴らすところで、合唱が全員ティンパニーを見るらしい。
指揮者に「ティンパニーを見ないで」と言われて何かすごく可笑しかった。
そしてゆったりと流れる第3楽章。
眠い。
私たちは、目を開けたまま眠るという技を覚えた。
座って待っている間、合唱は目も顔も、手も動かしてはいけない。
しかし、私は一番後ろの段で、背中に風がスース―と流れるところに座っていた。
気が付くと鼻水が出ている・・・
鼻の下を拭きたい。しかし、手を上げてはいけない。
こうなったら、吸うしかない。とはいえ、ズっと音をさせるわけにもいかない。
第3楽章は静かな音楽が流れている。ゆっくりゆっくりと音をさせないように鼻水を啜ろうと努力する私。しかし、表情も変えられない。
音が大きくなる一瞬で「ズ!」と吸うまで、鼻息にすら気をつかったのだった。




