12、ブレスレット
私はあまり左目が見えない。4年ほど前に手術をする前はほとんど見えなかった。
その頃、幼稚園児だったМ君は、私の目が悪いことがとても気になったらしい。
「そっち側からだと先生、見えないのだよ」とか
「影になって見えない」とか言っていたせいかもしれない。
右目もあまりよくないことも手伝って、少しでも暗いと楽譜が見えなかった。
「小さい電気スタンドでも付けようかと思ってるんです」
と、M君のママと話していたのを覚えていたらしい。
あるレッスンの日に、M君がブレスレット(?)をしてきた。太さ1センチ程のチューブ状になっているものだった。
「きのう、おまつりで買ったの」
と、言って見せてくれた。
「かわいいね」
と言うと、M君のリュックからもうひとつ出して(新品)
「せんせいにこれ、あげるよ」
と、くれた。
「パキってやるとひかるんだよ」
「光るの?」
ああ、夜店でよくあるよね。
「これがあれば、よくみえるよ」
彼は私の目が見えないことを、ずっと心配してくれていたらしい。お祭りで、光るコレを見つけたときに、私のことを思い出してくれたのだろう。そしてわざわざ、私の分を買って来てくれたのだ。
思わず感激してしまった。
ありがたく、それをいただき、M君の言うとおりパキっとやって、手首に付けた。
ぼんやりと光るそれに照らされて、その日はとてもよく楽譜が見えた。




