9、かゆい子
何かに取り組むとき、集中するまで時間がかかる子は多い。
そして、どういうわけか、集中する過程で、身体や頭がかゆくなる子がいる。
それまで、かゆいなんて微塵も感じないほど、普通におしゃべりしていたのに、いざピアノを弾こうとすると、かゆくなる。
始めてしまえばそんなにかゆくないのに、はじめようとするその一歩目がどうもかゆいらしい。
なんなんだろう?
だけど、かゆいというならしょうがない。
思う存分身体を掻きむしってもらって、気が済んだらピアノを弾く。
一度弾きだしたら、少しかゆくなっても我慢してもらう。それは鉄則。そうすると、いつの間にかピアノに集中していてかゆみは忘れる。
だから、とにかくピアノを弾きはじめるまでは、私は辛抱して待つことにしている。
ウチの生徒さんにも数人は、かゆくなる子がいる。
「はい、じゃ弾こうか」と言うと急に
「かゆい~」
と、始まる。
そしてボリボリと掻きはじめる。
ボリボリ・ボリボリ・ボリボリ・・・
ボリボリは、背中から始まって、お腹に周り、腕に行き、頭を経由して、背中に戻ってくる。
そして、いかにも届かなそうなところを掻きにくそうに掻く。
掻きにくそうだな、と思って
「掻いてあげようか?」
というと、みんな笑って、ピアノを弾きはじめる。
だけど、1人だけ
「うん」
と、言う子がいる。
私は掻くのがすっごく上手いので、すぐに満足してくださる。




