第37日 それぞれ進む宇宙人。
ワープにより、白い建物の並ぶ国(名前は分からない)に落ちた俺、七実空人とシキブさんは宿探しをしていた。宿自体はあるに決まっていると思うのだが、人が全然見当たらない。聞くことさえできない。
静かなこの場所は小学生の頃、肝試しで行った家から徒歩15分のお墓に似ている。決していい沈黙ではない。できるならだれでもいいから大声を出してほしい。
「人が全くいないですね・・・」
シキブさんも少し怪訝に思っているみたいだ。
国に人がいないというのはなかなかない事態なのだろうか。
「家にこもってるとかじゃないんすかね?」
「家ってこの白い建物、ですか・・・」
まわりを見る。
白い建物。汚れがない純度100の白。家だけではない、道も白なのだ。植物がなく、緑がない。唯一白以外にあるのは空の青と海の青だけ。
死後の世界に迷い込んだみたいだ・・・これで人がいればよかったんだがいないとあっちゃ不気味に思うしかない。
「国には国の特色があるのですよ」
シキブさんは語りだした。
「地球に憲法や法律があるように国ごとにも決められていることがあるのです。私が見てきた国ではじゃんけんで全てが決まる国とかもありました」
「な、なんすかそれ・・・」
突拍子もないというか、それは国として成り立っているのだろうか。
「だから誰もいないというのが普通である国の可能性も否定はできないのですが・・・さすがに誰もいないとなると国としては成り立たないと思います」
「ていうことはやはり家にこもっているか、たまたま今、いないだけか」
「たぶんそれが一番可能性的に大きいでしょうね」
適当に当てもなく歩きながら話し続ける。人がいないとかそういう感じじゃないんだよな。人の気配がないのだ。人が住んでいる気配が。
「少しあれな話ですが・・・」
シキブさんは少し嫌そうな顔をしてある可能性について話しだす。
「人がいないのが普通なのではなくて、人がいなくなってしまった、という可能性はあるにはあります」
「人がいなくなってしまった・・・?」
ここに住んでいる人々の意思とは関係なく、いなくならざるを得なくなった状況ってことだよな・・・。人がこの場に入れなくなる・・・人がいなくなる理由っていうのは・・・。
「えーと、引っ越しとか。あとは・・・避難?」
人がいなくなるで思い出した光景は避難訓練の光景であった。小学生の頃、どうしてもトイレに行きたくて指示を無視し、トイレに行った時。戻った俺が見たものは誰もいない学校であった。誰もいない学校はすごく不気味で俺は走って避難先のグラウンドに行ったのを覚えている。
「はい。地球に住んでいるとなかなか信じられないことかもしれませんが、星間での戦争というのは珍しくありません。さらに言えば国間の戦争も珍しくないのです」
さらに、とまた言葉を重ねる。
「星対国、というのも十分にありえるのです。確実に星側が勝ちますが、それでもしなければならない戦争があるのです。姫様からのメールによれば、生きている国もこの星にはあるみたいなので恐らく、避難の可能性を考えれば星対国か国対国の戦争の影響かもしれません」
「それでこんなに無人なのか・・・」
しかし見たところ家などには傷1つない。ここを襲われる前に避難したということか。
「それかすでに間に合わなかった場合。家を傷つけなくてもいいぐらいに負けていた場合。それも考えた方がいいかもしれません」
「それって・・・すでにここの住人は死んでいるってことですか?」
「・・・・・はい」
なんだかあまり気分のいい話ではなくなってきたな。しかし歩くのはやめない。止まることは許されない。このままじゃいつ地球に帰れるか分からないんだから。
悲しいことではあるが今一番重要なのは俺達の遭難。他のことに気持ちを割いている余裕はない。
「せめてこの国が星のどの位置にあるのかということか、宇宙船の場所さえ分かればいいんですが」
「それは1度体を休めてからにしましょう。宿もあるはずですよ。1人ぐらい人がいるかもしれませんし、家にこもってる可能性もあるんですから」
「・・・・・そうですね。やはりあなたはすごい。さすが姫様の友達といいますか。悪い方向は考えないようにしましょう」
俺は笑ってその言葉に答える。
姫様の友達・・・ねぇ・・・。
〇
「あぁぁあああああああああああ・・・・・ぐすん・・・少し落ち着いた・・・」
「そ、そう・・・それはよかった・・・」
「はは・・・」
ひたすら励まし続けて1時間ぐらいは経っただろうか。未だにカフェの外テーブルで喚いていたノウンさんを落ちつかせることができた。
姫岡くんも結構疲労している。ここからさらに宿探しってなかなか辛いものがある。
もうあたりは暗くなり、夜っぽさがでてきている。先ほどからノウンさんが泣いていたせいで変な注目を浴びていたあたしたちはその場からとりあえず離れることにした。
「ごめんなさい・・・私、落ち込んじゃうと際限なくって・・・どこでもあんな感じになっちゃうんだ・・・」
可愛らしい外見で胸も大きいのに性格的に残念というかネガティブすぎる人だ。
「あの、ノウンさん。そう言えばなんでハルンさんを止めようとしたんですか?」
姫岡くんが先ほどから気になっていた質問をした。
そう、あたしたちには何がなんだかわからない話だったのだ。あたし達だけじゃなく、一番近いはずの白木くんまでキョトンとしていた。
「姫様がまだ言っていないのなら私から言う資格はありません。それに私もまだ曖昧な感じなの。正解ではない、けれど正解に近い、みたいな」
というふうに誤魔化すのである。
でもこれは誤魔化すといよりはあたし達のことを考えた上でのことのような気がするので責める気にもならない。今はそれでいいとしよう。
「ノウンさん、それより今は宿を探しましょう。ここらへんにホテルとかないんですか?」
「ホテル・・・ちょっと待っててね・・・」
むむむと言うとうーん・・・と唸りだす。なんだか何かをレーダーで探しているみたいだ。
「あ、近くにホテル発見」
そのセリフであたしと姫岡くんは安堵した。
「あの、それとノウンさん、あたし達今お金持ってないんだけど・・・」
「それなら大丈夫。私が持ってるし、慰めてもらったお礼だよ。それにこのお金も私が稼いだりしたものじゃないから変に気を遣う必要もなし」
あたしと姫岡くんは頭を下げてお礼を言った。なんか完全に敵、という感じなのかと思ったらそうでもないらしい。少なくとも敵意は感じない。でも最初から敵意はあまり感じないんだよね、ノウンさん。失敗しまくってるからあたしが油断してるのかな。
「よし、じゃあ行こうか」
すごいドヤ顔で自信満々にあたし達をリードするノウンさん。落ち込みシーンをまるまるなかったことにしようとしているのではないだろうかというぐらいの変わり身。
ちなみにその後、ホテルに着くまでに道に迷ったことは言うまでもない。これノウンさんまた落ち込むんじゃないだろうか・・・。
〇
「ではどっちだ!」
バトルインシップという国に着いた俺とワン太は宿の場所を探すために通行人であったお姉さんとバトルしていた。
この国はなんでもかんでもバトル、勝負で決めるという国らしく、俺達もその規則に従ってお姉さんとのバトル『サイコロシャッフル』をしていた。
こちらが勝った際得られるのは宿の場所。しかし負けても失う物は何もないという賭け事にしてはやけに簡単で易しいものとなっている。
「・・・・・・」
ワン太はお姉さんの握りこぶしをじっと見つめる。
『サイコロシャッフル』とは2つの手のうちどちらにサイコロが入っているかを当てる簡単なゲームだ。なんでもかんでもバトルで決めるというから少し驚いたものの、こういうのもバトルというらしい。
「・・・・・」
ワン太は静かに迷いなく1つの手を指さした。
「なっ・・・・・正解よ」
お姉さんが手を開くとそこにはサイコロが。この勝負はどうやら俺らの勝ちらしい。
「ワン太・・・お前よく当てたな」
「簡単です。彼女は勝負を楽しんでいると言っていました。ならほとんどの確率でイカサマはないと判断できます。イカサマは純粋な勝負を濁らすことになりますから」
ワン太は説明を続ける。
「だったら簡単です。人間意識しないで何かを握って握りこぶしを作ると親指の位置が少しだけ上に移動するのです。もしお姉さんがこの人間の癖を理解して、あえて逆側の拳の親指の位置を変えていたのなら私の負けでした」
「なるほどね・・・」
お姉さんもその説明を聞いて納得する。
「してやられたわ。でも、イカサマをしなかったのは私にそんな技能がなかったから。イカサマ自身はこの国では純粋な勝負を濁すものではなく、軽いスパイスを加えるものとして認められているの。でもイカサマを好む人もまたあまりいないわ。だからこそ気をつけなさい」
そう言うと丁寧に紙に宿までの地図を書いてくれた上に説明までしてくれた。バトルとか勝負とか物騒だと思っていたがいい人たちばかりなのかもしれない。
俺らはお礼を言うと、その宿屋目指して歩き出した。
「それにしても驚いたな・・・こんな国が世の中にあるなんて・・・」
「私も初めてですよ・・・はやくホテルかなんかを見つけないと・・・もう眠いです」
ワン太はあくびをする。口を手で押さえるあたりやはりお姫様っぽくはあるが、それぐらい結構普通か。俺はあまり意識したことないからなぁ・・・。
「というか、お前さっきよく見破れたな」
「いえ、あれは昔小さい頃に教えてもらったものでして・・・シキブとかもこのような勝負好きだったりするんですよ。バズーカは特に好きですが」
昔を思い出しているのかワン太の顔には笑顔が浮かんでいた。
「へー・・・てっきり行儀が悪いとかでそういうのは禁止さえているんだとばかり思っていたよ」
「遊びですからね。勝ち負けさえも競わない。マジックや手品みたいなものです」
割とこの国の入り口から近かったのかホテルがもう見えてきた。それを見ると一気に疲れがあふれてくる。トイレしたいときに家の目の前に来た瞬間がピークになる、みたいなものだろうか。例えが少し最悪ではあるのだが。
俺とワン太は知らないうちに小走りになっていた。
授業して、昼飯から何も食べていないからな・・・。それにもう夜だ。色々あったし早く寝たい。その思いがどんどん募る。
ようやくホテルの前に着き、中に入る。料金はフリーと書いてあったがタダ?無料?ホテルなのに?
「ワン太・・・」
「はい、何かあやしいですね・・・」
そう言いつつ、ロビーの受付へ。中は国と同じようにハイテクっぽさというか近未来っぽさがある場所であった。しかし地球のホテルと大差ない。これならすぐに慣れそうだ。
「あの、すいません部屋とか空いてますかね」
今度は俺の番だと言わんばかりにロビーの人に俺が話しかける。予約とか必要だったらどうしようかと思ったら受付の人がにっこりと笑う。綺麗な女の人であった。
「はい、空いております」
「じゃあ2人お願いします」
「分かりました」
あれ?意外と普通?無難な対応に拍子抜けする俺達。カタカタと機械を受付の人がいじり終えると遠くの方でウィーンという機械的な動きが聞こえる。
受付の前方5メートルか何メートルかは分からないが先に何やら板みたいなのが壁際に立てられていた。そして俺に渡されたのは祭の射的で使われるような大きめのエアガン。
「見えますか?あちらの板には数字が書かれています。0から10まで。0が一番大きくて数も多いですが、10は小さくて一番数が少ないです」
「え、えぇと・・・」
「あれは人数です。一撃。一発だけ撃って当たった板に書かれていた数字分の人数が泊まれます」
「あ、あの・・・」
いや、え?また勝負?ホテルに泊まるのにまた勝負しなきゃいけないの?
俺が当てるべきは2の数字の書いてある板。・・・・・2でさえもすごく小さいんだが。
「もし外すか0を撃ったらここに泊まることはできません。大金を払えば泊まることはできますが・・・あまりおすすめはしませんよ。他のところに行った方がいいと思いますが、ここからだと歩いて1時間ぐらいはかかりますね」
その間も営業スマイルで笑う受付の人。完全になめられている。たぶん大人でもこれをクリアした人はいないのだろう。だってもはやこれは運だ。撃った弾がたまたま当たるぐらいしか勝てる要素が見当たらない。さらに数字によるだなんて勝てる可能性はさらに少なくなる。
「当ホテルはこの国で一番難しい勝負だと有名なのです。ではかっこいい彼氏さん。彼女さんにかっこいいところを見せれるように頑張ってください」
「お、俺・・・?」
もう俺がやることになっている・・・しかも彼氏って・・・。
ワン太を見ると照れながらも期待する眼差しで見ていた。いや、サイコロシャッフルと違ってこれ見破るとかないだろ・・・それに射的なんか苦手だぞ・・・。
しかもなぜかギャラリーができている。子供の挑戦者は初めてらしい・・・。もう高校3年生って微妙な時期ではあるのだが。
「それでは『ジャッジメントサバイバル』・・・スタート!」
少しずつですが進んではいます。宿とるのって見知らぬ土地ならすごく大変だと思うんですよ・・・しかも違う星。
ではまた次回。




