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魔法もスキルもない50歳、腕型PC一台で異世界をハックする。~疲れやすいおじさんは効率重視で成り上がる~  作者: ぱすた屋さん
【第4章】管理者権限の奪還(ルート・アクセス・ウォー) ~偽りの神と虹色の反逆者~

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幕間:祝杯のピザと、海の向こうのパケット



 「リリース・パーティー」という文化がある。



 死に物狂いのデスマーチを終え、納品という名の戦場を生き残ったエンジニアたちが、ピザを囲み、炭酸飲料で乾杯する。それは単なる食事ではない。共有した「不具合(地獄)」を笑い飛ばし、自分たちの脳細胞を「通常稼働」へとクールダウンさせるための、神聖な儀式だ。

 

 王都ルミナス。

 神の支配を離れ、数万人の意志によってレンダリングされ始めた新しい夜の街は、これまでにないほど深い、紺青色の静寂に包まれていた。

 俺たちは、大聖堂のバルコニーへと続く特等席に集まっていた。


「……よし。……全員、揃ったな」


 俺は、机の真ん中に置かれた巨大な円形の「報酬」を指差した。

 

 王都一の料理人が、俺の『要件定義』を完璧に再現した一品。

 薄く、パリッとした生地ベースの上に、高彩度なトマトソースと、驚くほど伸縮性の高いモッツァレラ。そして、バジルの緑が鮮烈なコントラストを描いている。以前の世界での記憶を辿り、俺が指定した「最高の資産アセット」の塊だ。


「……これが、サトウさんの世界の『ピザ』ですか!……すごく美味しそう。……魔力の香りが……いえ、小麦とチーズの香りが、情報の奔流みたい!」


 エリナが、目を輝かせて身を乗り出す。

 彼女の装備は、夜の街に溶け込むような深いシアンのラインを纏いながらも、その瞳だけは、彼女自身の高揚を反映してマゼンタの光を強く放っていた。

 

 傍らでは、フェンリルが巨大な体を丸めて、私たちの「ヒーター」代わりになっていた。

 メンテナンスを終えた彼の毛並みは、星明かりを反射して、まるで磨き抜かれた真珠のような透明感のある輝きを放っている。以前のような、どこか刺々しい伝説の獣の威圧感はない。今の彼は、この平穏な風景の一部として、完璧に最適化(最適化)されていた。


「……グル……、……ワフッ」


「……わかってる、フェンリル。……お前のは、特大の肉乗せだ」


 俺はフェンリルの前に、特注の厚切り肉が乗ったピザを差し出した。

 伝説の巨狼が、はしたなくも尻尾をバタンバタンと床に叩きつけながら、幸せそうに頬張り始める。その音を聞きながら、俺は冷えた飲み物を口にした。


「……乾杯。……やっと、……完遂(完了)だ」


「「「乾杯!!」」」


 マルチェロや、他の神殿関係者たちの笑い声が、夜の空気の中に溶けていく。

 

 ふと、視界の端で空を見上げた。

 かつては「管理者の瞳」が睨んでいた空。

 今は、誰かに押し付けられたルールではなく、住人たちの多様な想いが、まるで筆跡の鋭いアートのように、あるいは水滴が光を透過させるような繊細なタッチで、無数の星々を描き出している。

 

 


「……サトウさん。……何を考えているんですか?」


 エリナが、チーズを口に運びながら、不思議そうに俺を見た。


「……いや。……あの少年のことを、少しな」


 管理者の少年。

 この世界を「ゴミ箱」から救うために、一人で孤独にサーバーを維持し続けていた、あの悲しき管理官。

 彼にとっては、この「変化し続ける世界」こそが、最も恐れていたカオス(不具合)だったのかもしれない。


「……俺も、……かつては同じだったからな。……一人でシステムを守り続けることが、……一番の正解だと思い込んでいた時期があった」


「……でも、今は違いますよね?」


 エリナが、確信に満ちた瞳で俺を見つめる。

 

「……ええ。……オープンソースの思想は、……『完璧』じゃない代わりに、……『成長』し続ける。……一人の神様が描く完璧な一枚絵より、……何万人ものヘタクソな描き手が、……喧嘩しながら塗り重ねるこのキャンバスの方が、……ずっと解像度が高くて、……美しいよ」


 俺は、最後の一切れを口に放り込んだ。

 

 

 ――ピピピ。

 

 その時、俺の左腕で、不意にデバイス『Link』が鳴った。

 

 それは警告エラーではない。

 以前の「管理者」からのアクセスでもない。

 

「……相棒。……何だ、今のパルスは」


『……報告。……現在、王都から南西へ三千キロ。……「未踏大陸」と定義されている領域から、……定期的な信号ビーコンを受信しました。

 ……プロトコル:未知。……しかし、その周波数は……明らかに、……このルミナスとは異なる「別のサーバー」からの接続要求ハンドシェイクです』


 俺の網膜上に、おぼろげな世界地図が展開された。

 俺たちが今まで「世界」だと思っていたこの大陸の、さらにその先。

 

 そこには、俺たちの常識とは異なる、別の色彩、別の法則、別の「仕様」を持った広大なネットワークが、……呼吸するように信号を送り続けていた。


「……フレンド申請、か。……あるいは、……他のシステムによる、……『市場調査マーケットリサーチ』かな」


 俺は苦笑した。

 

 世界がオープンソース化し、閉ざされた殻を破ったことで、外の世界との「境界ファイアウォール」が消え、新しいネットワーク・リンクが繋がり始めたのだ。

 

 一息つく暇もない。

 エンジニアの宿命というやつだ。

 一つのスプリントが終われば、すぐさま次なるロードマップが提示される。

 

 だが、今の俺には。

 

「……サトウさん! ……また、何か見つけたんですね?」


 エリナが、期待と少しの不安を込めて、俺の顔を覗き込む。

 フェンリルもまた、耳をぴんと立てて、南西の空を睨みつけていた。


「……ああ。……次は、……もう少し広い舞台で仕事をすることになりそうだ。……王都だけでなく、……この世界そのものを『ネットワーク』で繋ぐぞ、エリナ」


「……はい、喜んで!!……あ、でもサトウさん……」


「……なんだ?」


「……ネットワーク作りを始める前に、……明日の午前中は『有給』って、……マニュアルに書いておきましたから。……一緒に、街の新しいデザインを見に行きませんか?」


 エリナが、いたずらっぽく笑ってマニュアルを掲げた。

 俺が書いた「例外処理」のページに、彼女自身の可愛い文字で『サトウさんとのお出かけ(優先順位:最高)』と書き加えられている。


「……参ったな。……俺のマニュアルを、……勝手にアップデートするなよ」


 俺は溜息をつき、だが同時に、自分でも驚くほど穏やかな気持ちで、空の向こうの「未知のパケット」を想った。

 

 くたびれたおじさんの監査記録。

 第4章は、こうして祝杯のチーズの香りと、少女のわがままと、新たな世界への接続要求と共に、静かに幕を下ろした。

 

 


幕間の完結編をお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

 第4章の終わり。それは一つの戦いの終結であると同時に、世界が「閉じた箱」から「開かれたネットワーク」へと変貌した瞬間でもありました。

 佐藤さんがずっと求めていた「ピザ」を通じた仲間たちとの絆、そしてエリナの不器用な「有給申請」という名のデートの誘い……。

 

今回のお話はここまでです。

次章作成はまだ未定ですが(プロットだけはあります…)

他作品の様子見ながら少しづつ描いていきます。


最後までお付き合い本当にありがとうございました!


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