020 その頃、あの町では……
セリア達が後にした、あの町。
そこで、少々騒ぎが起きていた。
「セリアはどうした?」
「試験に合格して、お祝いに数日間の休みを取るのは分かる。妹とふたりで、今まで色々と苦労して頑張ってきたのだからな……。
でも、そろそろ仕事を始める頃だろう。
前にいたパーティには裏切られて除名になったそうだから、まずは次に所属するパーティを探すはずだよな?」
……そう。
セリアの真面目さ、魔法の精度等を知る者は、ある程度いた。
ただ、養成しているパーティから引き抜くのはマナー違反であることと、セリアの魔力量の少なさから、敢えて横から手出ししようとするパーティはいなかっただけである。
それが、セリアには全く非のない形でパーティから除名され、そしてその魔力量が平均を大きく上回ることが確認された。
……それは、欲しい。
戦力としては勿論であるが、若くて気立ての良い美少女なのである。魔術師がいないパーティとか、恋人がいない男所帯のパーティとかが、他のパーティに取られてなるものかと、依頼も受けずに朝から晩までギルドの飲食コーナーに居座ってセリアが現れるのを待っていたのである。
相手の家へ押し掛けて、というのはルール違反であり、引く手数多のセリアの心証を悪くするのは下策であるため、皆、じっと我慢してセリアが現れるのを待っていたわけである。
そして、さすがに皆そろそろ痺れを切らして、ギルド職員にそう訊ねたのであるが、職員達も首を傾げるばかり。
……その時、ひとりの受付嬢がハンター達の方を向き、爆弾発言を行った。
「セリアさんなら、数日前に町を出られましたよ。
拠点を他の町に移されるとのことで……」
「「「「「「ななな、何だとおおぉ〜〜!!」」」」」」
愕然。呆然。
「ななな、なぜ! どうして!!」
「いえ、個人的なことを根掘り葉掘り聞いたりはしませんので……。
ただ、御本人の意思だとしか……」
「どこだ! どこへ行った!!」
「未定とのことです。どこか良い町を探して腰を落ち着ける、とのことで……。
まあ、もし行き先を知っていたとしても、御本人の許可もなくそれを教えたりはしませんが。
今回は本当に知らないので、町を出られたということ自体はお教えしても問題はないかと……」
「「「「「「……」」」」」」
皆、ハンター試験の経緯は知っている。セリアが所属していたパーティによる裏切り行為も、領主の庶子との関係も……。
それらを承知で、それでもセリアを自分達のパーティに招きたいと考えていたのであるが、言われてみれば、セリアが良い思い出のない、そして敵が多いと判断したこの町に居続けなければならない理由などない。
しかも、両親も既に亡いとなれば、尚更である。
「「「「「「…………」」」」」」
セリアは、この町を捨てた。
それだけは、皆がはっきりと理解したのであった……。
* *
「セリアというハンターを呼んでもらいたい!」
「はぁ……」
アポも取らずいきなり押し掛けて来た男に、困惑するギルドマスター。
しかし、邪険に扱うわけにはいかない。
相手は魔術師ギルドの副ギルド長であり、町の有力者である。
そして、魔術師の一部は魔術師ギルドとハンターギルドを掛け持ちしており、両ギルドは良き関係を維持しなければならないのである。
「別に、その者を引き渡せとか言っているわけではない。
ただ、その者の魔力量が急に増大したという噂を耳にしたため、事情を聞き、場合によっては研究に協力をお願いしようと考えているだけなのだ。
ハンターをやっておる魔術師の大半は我が魔術師ギルドにも加入しておるが、その者は若いことと貧乏であること、そして今までは見習いであり正規のハンターではなかったこともあり、魔術師ギルドには加入しておらぬのだ。
なので筋を通し、ハンターギルドを通しての口利きをお願いするわけである」
「はぁ……」
更に困惑を深める、ギルドマスター。
確かに実技試験の時のセリアは、平均をかなり上回る魔力量を示していた。
しかし、見習いに過ぎないセリアのことをあまり詳しくは知らなかったギルドマスターは、それまでセリアの魔力量が平均の半分程度であったことを知らなかった。
なので、魔術師ギルドがセリアに食い付く理由にピンと来なかったのである。
だが、魔術師ギルドの副ギルド長はおかしな人物ではないし、研究者としても立派な業績を上げている。
なので、セリアを呼び、顔合わせをさせることには、特に問題はない。
その場に自分も立ち会えば、セリアに何かを強要されることもないであろう。
「……分かりました。
今から自宅に連絡させますが、少し時間がかかるかと。不在であるかもしれませんし……。
後日、日を改めて日時の設定を……」
「いや、待たせていただく」
「は?」
「遣いの者が戻るまで、ここで待たせていただく。不在であったなら仕方ないが、可能であれば、出来る限り早く会いたいのだ」
「は、はぁ……」
* *
そしてその後、セリアが町を出たこと、行き先が分からないこと、そしてそれに至る経緯を知り、怒りを爆発させた魔術師ギルドとハンターギルドの関係が悪化した。
両者の間で板挟みとなった両方のギルドに所属する魔術師達が困惑し、魔術師ギルドのみに所属する研究者肌の者達はハンターギルドと、そして本人には直接の責任はないものの、その息子が原因であるため領主にも強い怒りを覚えていた。
別に、ひとりの魔術師の少女に対する仕打ちに怒ったわけではない。
研究者タイプの魔術師の多くは、他人のことにはあまり興味は抱かないものである。
……しかし、画期的な発見……魔力量の急激な増大という現象と、それを研究することによって自分の魔力量を激増させることができる可能性を、そしてその大発見により自分の名が魔術史に刻まれるという機会を潰されたということに対する怒りと怨みは激しかった。
いくらハンター登録を行ったのがこの町であっても、普通の住民達とは違い、ハンターは拠点変更届けを出せば、もうこの町に縛られることはない。
そしてその地を離れれば、領主にもその者をどうこうする権限はない。
ハンターは、流れ者扱いなのである。
ある町に定住していても、いつどこかへ行ってしまうか分からない、根無し草。
なので、Bランク以上の者を除き、社会的な信用はとても低い。
しかも、セリアは両親を失い、他の親族もいない上、信頼していたパーティ仲間にも、幼馴染みにも裏切られた。
……もう、この町には何のしがらみもなく、二度と戻ってくることはないであろう。
そして、その魔力増大の謎が解かれ魔法史に名を残すことになるのは、この町の魔術師達ではなく、セリアが新たな拠点にした町の魔術師達となる。
せっかくの一世一代のチャンスを、馬鹿なハンター達のせいで潰され、台無しにされた。
その怒りが鎮まり、魔術師ギルドとハンターギルドの関係が修復されるのは、かなり先のことになりそうであった……。




