見守る人(2)
(1)から少し先のお話。
パーシーがエルフィードとシャレルに笑いながら、ハーヴェイのことを全部ばらしてから数ヶ月後。
また見守りの仕事が巡ってきたパーシーは、事前にエルフィードにその旨を伝えていた。
今度来る時は前もって連絡してくれ、とエルフィードに言われていたからだ。
そしてその時、パーシーはエルフィードからある報告を受け、ハーヴェイに、と手土産を渡された。
ハーヴェイの反応が楽しみで、パーシーは手土産が入った籠を手に、急ぎ足で城へと戻った。
「これ、二人からのお礼だそうです」
エルフィードたちが住む地方で取れる有名な茶葉とそれに合う焼き菓子。
それを手にパーシーが帰ってきた。
「…お礼?」
報告を受けるだけだと思っていたハーヴェイは、パーシーから受け取った小さな籠を顔を顰めながら見た。
小さな籠には、茶葉の缶が二つと、焼き菓子の包みが一つ…そして手紙が入っていた。
「ええ。お礼だそうです。心強いと申してました」
「…秘密裏に、と言ったと思うのだが」
「ああ、すみません。ばれました」
ばれた、というより、ばらしたパーシーは悪びれもせず、笑顔で答えた。
ハーヴェイはそんな目の前の部下に、体の力が全て抜け切るような…そんな脱力感に襲われた。
「…手紙には何と書いてあったのかな」
「知りません。宛名はクラーク隊長なので、読んでません」
どこか楽しそうに答えるパーシーに、ハーヴェイは頭も痛くなってきた。
ばれたというより、ばらしたんだろうな。
手紙まで来るなんて、そうに決まっている。
きっと、手紙には多少の恨み言も書かれているのだろう。
苦労した話も、許せないという言葉もあるかもしれない。
覚悟を決め、恐る恐るハーヴェイは手紙を開いた。
だが…
そこには恨み言など、どこにも書かれていなかった。
幸せに過ごしていること、色々とあったけれど、いいきっかけになったということ。
あの時、シャレルを引き取ることを提案してくれたことを、感謝しているとも。
そして、来年には家族が増えるということも。
「…子供が出来たのか」
「みたいですね。まだシャレル嬢のお腹は目だってませんでしたが」
いつか、生まれた子供に会いに来て欲しい、という最後の言葉に、ハーヴェイは涙が出そうになった。
「シャレル嬢は、今が一番幸せだと言ってましたよ。もちろん、エルフィードも」
「そう、か…」
溢れてきそうな涙を堪え、ハーヴェイは手紙を机に置いた。
来年の春、
二人の子供に会いに行こう。
両手で抱えきれないぐらいのお祝いを持って。
そう言えば、結婚の祝いもまだだった。
馬車に積み込めないぐらい、たくさんのお祝いを持って行こう。
野花が咲き始める頃、ハーヴェイは二人の元を訪れた。
まずは謝罪を、と述べるハーヴェイに、エルフィードは首を横に振った。
謝ることなんて何も無い、と。
「ハーヴェイ、俺たちの子供だよ。抱いてあげてくれ」
エルフィードの手から渡された小さな赤子を抱いた時、ハーヴェイは何とも言えない気持ちになった。
自分の子を抱いた時にも感動したが、それ以外にも色んな感情がこみ上げてくる。
「…可愛いな」
「エルによく似てるの。髪も目の色も。とっても可愛いのよ」
微笑みながらシャレルは、ハーヴェイの腕の中で大人しくしている小さな子の頬を撫でた。
「おめでとう」
その言葉に、エルフィードとシャレルは満面の笑みを見せた。
「ありがとう、ハーヴェイ」
自分が二人を苦しめたと思っていた。
何もかもを失わせたのは、自分だと思っていた。
だが、幸せそうな二人は何も恨んでいたりしなかったし、何も失っていなかった。
それでも…こんな風に微笑みながら、自分を迎え入れてくれるとは…思っていなかった。
ハーヴェイはそんな二人に、心が洗われるような気持ちになった。
エルフィードの幸せの為…そう言って、シャレルを王太子妃にしようとしていたが…
本当の幸せは身分など関係無かったのだ。
「君たちの幸せを…これからも見守り続けるよ」
ずっと二人と、その子供たちの幸せを見守り続けよう。
償いでは無く、愛情の表れとして。
ハーヴェイは腕の中の小さな赤子に柔らかく微笑みかけた。
反省して、仲直り?です。




