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亡国の王女の初恋  作者: 日野森
番外編
52/55

見守る人(2)

(1)から少し先のお話。


パーシーがエルフィードとシャレルに笑いながら、ハーヴェイのことを全部ばらしてから数ヶ月後。



また見守りの仕事が巡ってきたパーシーは、事前にエルフィードにその旨を伝えていた。

今度来る時は前もって連絡してくれ、とエルフィードに言われていたからだ。


そしてその時、パーシーはエルフィードからある報告を受け、ハーヴェイに、と手土産を渡された。

ハーヴェイの反応が楽しみで、パーシーは手土産が入った籠を手に、急ぎ足で城へと戻った。






「これ、二人からのお礼だそうです」


エルフィードたちが住む地方で取れる有名な茶葉とそれに合う焼き菓子。

それを手にパーシーが帰ってきた。


「…お礼?」


報告を受けるだけだと思っていたハーヴェイは、パーシーから受け取った小さな籠を顔を顰めながら見た。

小さな籠には、茶葉の缶が二つと、焼き菓子の包みが一つ…そして手紙が入っていた。


「ええ。お礼だそうです。心強いと申してました」

「…秘密裏に、と言ったと思うのだが」

「ああ、すみません。ばれました」


ばれた、というより、ばらしたパーシーは悪びれもせず、笑顔で答えた。

ハーヴェイはそんな目の前の部下に、体の力が全て抜け切るような…そんな脱力感に襲われた。


「…手紙には何と書いてあったのかな」

「知りません。宛名はクラーク隊長なので、読んでません」


どこか楽しそうに答えるパーシーに、ハーヴェイは頭も痛くなってきた。

ばれたというより、ばらしたんだろうな。

手紙まで来るなんて、そうに決まっている。


きっと、手紙には多少の恨み言も書かれているのだろう。

苦労した話も、許せないという言葉もあるかもしれない。

覚悟を決め、恐る恐るハーヴェイは手紙を開いた。


だが…

そこには恨み言など、どこにも書かれていなかった。


幸せに過ごしていること、色々とあったけれど、いいきっかけになったということ。

あの時、シャレルを引き取ることを提案してくれたことを、感謝しているとも。


そして、来年には家族が増えるということも。


「…子供が出来たのか」

「みたいですね。まだシャレル嬢のお腹は目だってませんでしたが」


いつか、生まれた子供に会いに来て欲しい、という最後の言葉に、ハーヴェイは涙が出そうになった。


「シャレル嬢は、今が一番幸せだと言ってましたよ。もちろん、エルフィードも」

「そう、か…」


溢れてきそうな涙を堪え、ハーヴェイは手紙を机に置いた。


来年の春、

二人の子供に会いに行こう。


両手で抱えきれないぐらいのお祝いを持って。

そう言えば、結婚の祝いもまだだった。

馬車に積み込めないぐらい、たくさんのお祝いを持って行こう。











野花が咲き始める頃、ハーヴェイは二人の元を訪れた。


まずは謝罪を、と述べるハーヴェイに、エルフィードは首を横に振った。

謝ることなんて何も無い、と。


「ハーヴェイ、俺たちの子供だよ。抱いてあげてくれ」


エルフィードの手から渡された小さな赤子を抱いた時、ハーヴェイは何とも言えない気持ちになった。

自分の子を抱いた時にも感動したが、それ以外にも色んな感情がこみ上げてくる。


「…可愛いな」

「エルによく似てるの。髪も目の色も。とっても可愛いのよ」


微笑みながらシャレルは、ハーヴェイの腕の中で大人しくしている小さな子の頬を撫でた。


「おめでとう」


その言葉に、エルフィードとシャレルは満面の笑みを見せた。


「ありがとう、ハーヴェイ」


自分が二人を苦しめたと思っていた。

何もかもを失わせたのは、自分だと思っていた。

だが、幸せそうな二人は何も恨んでいたりしなかったし、何も失っていなかった。


それでも…こんな風に微笑みながら、自分を迎え入れてくれるとは…思っていなかった。

ハーヴェイはそんな二人に、心が洗われるような気持ちになった。

エルフィードの幸せの為…そう言って、シャレルを王太子妃にしようとしていたが…

本当の幸せは身分など関係無かったのだ。



「君たちの幸せを…これからも見守り続けるよ」



ずっと二人と、その子供たちの幸せを見守り続けよう。

償いでは無く、愛情の表れとして。


ハーヴェイは腕の中の小さな赤子に柔らかく微笑みかけた。



反省して、仲直り?です。


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