第20話 別れさせ屋
お姉ちゃんの食費が著しく減ったというか、不思議なことにほぼゼロ円になった件について。
「パン屋さんのパンって、コンビニとかスーパーとはダンチなんだねぇ」
「へぇ? この辺にパン屋さんってあったっけ?」
「職場の近くだよー。同僚の男の子がパン屋さんの常連で、私とシフトが被った時は毎回買ってきてくれるんだぁ。飲み物もセットで買ってきてくれるし、今の若い子って気が利くよねー。あっ、私も若いんだけどね」
年下に毎回毎回昼飯奢ってもらって、恥ずかしくないんか? ちなみに朝飯は、リスナーから贈られた栄養食を食べてるから無料だよ。
「で、仕事終わりに夕食までご馳走になると」
「そうだね、端数ぐらいは私も出すけど」
うわぁ……数十円出すだけでイーブン感出そうとしてやがる。奢られ方が上手いんだよな。高級店に行って一円も出さずに『男は全額奢って当たり前』とかほざく女よりも、安い店で端数だけ出す女性の方がトータル的に多く奢られるんだよね。
「コツとしては普段の日常会話でさりげなく好きなものを聞いて、プレゼントしてあげることだね」
「プレゼントだぁ? 姉ちゃんにそんな金あんの?」
「大事なのは〝些細なことを覚えてくれていた〟ってところなんだよ。だから甘い物好きな子には『甘い物好きだったよね?』って言いながら、安いチョコをあげるの」
なーるほど、たしかに言われてみたら、男性相手ならそれで充分かもしれん。女性は金額を見てくるから『は? どうせならゴディバぐらい買って来いよ、チロルチョコとか舐めてんのか』ってなるかもしれんけど、男性はプレゼントという行為自体を見るもんな(少々偏見が入ってるかもしれんが)。
「数十円のチョコが数百円の牛丼になるんだから、錬金術だよね」
「チョイスがこれまたうまいなぁ……」
「サイゼリヤで喜ぶ系女子ですから」
誇張抜きで喜んでるってのが強みよね。愛想笑いじゃなくて、本当の笑顔を見せてくれるもん。なんで借金持ちのニートになったんだろうね、男の扱い上手いのに。
「奢る側も喜んでるみたいだから別にいいんだけど、ほどほどにしときなよ? 特に借金はダメだからね」
「いやいや、借金を堅実且つ誠実に返したからこそ、逆に好感度が上がったんだよ」
「そっか……」
手切れ金に手をつけといてよく言うよ。姉ちゃんのための金だから別にいいんだけど、なくなってから大騒ぎしてもしらんよ? 俺は一円単位で正確に帳簿つけてんだからな。
「じゃあ明日も晩御飯食べてくるからね」
「ほどほどにね……」
刺されないといいんだけど……。
「変な女にビンタざれだぁ! わだじ全然悪ぐないのにぃ!」
「……同僚の彼女さん?」
「うん……なんかちょっかいかけてると勘違いされて……酷いよね……」
ビンタで済んでよかったじゃん、訴訟までいかなくて(さすがに一緒に飯食ったくらいで有罪にはならんだろうけど)。
「痛かったねぇ、よしよし」
「んっ……」
ほっぺた柔らかいな、アンタ。胸も大概柔らかかったけど、ほっぺためっちゃ伸びるじゃん。
「タカるリスクが理解できてよかったじゃん、いわば勉強料だよ」
「許せないよぉ……なんであんな、おかちめんこに……」
おかちめんこって何? 後で調べてみようかな、覚えてたら。
「んで、同僚は大丈夫だったの? 修羅場になったんだよね?」
「思い切りお股を蹴り上げられてたよ」
まあ……半分ぐらい浮気だもんな、身体的な接触はなかったとしても下心は少なからずあるわけだし。というか彼女いるなら、こんな変な女に奢らないで、彼女さんにプレゼントでもしてあげなよ。完全に自業自得だね、男として同情するけど。
「同僚にもごめんなさいしないとダメだね、それは」
「なんで? 私を守ってくれなかったんだよ?」
「それは痛くて動けなかっただけでは?」
「いや、痛いのは知ってるけど、男だよ? 女の子が叩かれてるところを見逃すってありえなくない? っていうか彼女の躾ぐらいしてほしいよ、人様を叩くなんて」
あれ、もしかして同僚にヘイト向かってる? 自業自得とはいえ、完全に被害者なのに。
「ちなみにその場で彼女に捨てられたよ。自分以外の女と遊んだ上に、お仕置きされてガチ泣きしたから蛙化したんだって」
蛙化……なんだっけ、恋愛感情が冷める的な意味だっけ? ミソジニーだのなんだの、最近変な言葉が増えすぎて良く分からんよ。とりあえず姉ちゃんが逆キューピットだってことは分かったよ、俺も姉ちゃんのせいで恋人作れなくなったし。
「なんていうかその、大丈夫? 今後の人間関係とか」
「何が? 残念なことに彼女さんいなくなったし、これからは心置きなく奢ってくれるはずだよ。ビンタされた分のお詫びっていうか、引け目もあるだろうし」
……本気で言ってる? 同僚から敵視されてもおかしくないと思うんだけど。
「そうかな、よそよそしくなりそうなもんだけど」
「大丈夫だって、慰めてあげたから。頭よしよししながら『痛かったよね? 立てるかな? 頑張れ男の子ー、立ち上がったらカッコいいぞー』って」
煽ってない? というかそれだけ喋れるぐらい冷静だったのに、さっきあんなにギャン泣きしてたの? あれかな、家についた瞬間に怒りとか悲しみがこみ上げてきたのかな?
言うまでもないが、お姉ちゃんは職場でさらに浮くことになったらしい。男性はほとんど普段通りに接してくれてるらいしけど、女性社員からは彼女持ちに手を出すヤバい女認定されてるらしい。
白眼視がつらいのかシフトも再び減ったし、これもうそろそろ飛ぶな……。どうすんだよ、四十万ぐらい借金あんのに。




