第18話 借金のプロ
「んっ……そこっ……ああっ……いいっ……もっと突いてぇ……」
「やめてください、誤解が生じます」
素人のマッサージであえぎすぎだろ、わざとやってんのか。というかなんで養ってる側がマッサージさせられてんだよ、意味分からんだろ。
「スタイルいいから肩が凝るんだよねぇ、美人も大変だぁ」
「単なる運動不足では?」
ストレッチの習慣があるかどうかでだいぶ変わるというか、ストレッチしない人は全員慢性的な凝りがあると思うんだよね。俺もサボりがちだから偉そうには言えないんだけど。
「なにぃ? バイトのシフトを増やした上に、配信も頑張ってるお姉ちゃんを捕まえて、運動不足だとぉ?」
「自主的に増やしたみたいな言い方しないでよ、強制的に増やされただけなのに」
「増えたことには変わりないじゃん。意地悪だなぁ」
努力を否定されたと感じたのか、露骨にムスッとしてらっしゃる。お姉ちゃんにしては頑張ってるってのは分かるんだけど、まともに働いてる俺からするとなぁ。
「まあまあ、徹底的にマッサージしてあげるから怒らないでよ」
「そう? じゃあマッサージさせてあげるよ」
あん?
「させてあげるって何さ、お姉ちゃんよぉ」
「嬉しいくせにぃ」
……嬉しいよ、ちくしょう。
「生殺しだっての……」
「ん? なんか言った?」
「別に?」
俺そろそろ手を出しても許されるよな? ある日突然押しかけてきて、それをすんなり受け入れて世話してんだよ? 大家さんに嫌な顔されながらも同棲の申請通したんだよ?
「ん? なんか姉ちゃん耳赤くない?」
「なんのこと? それよりマッサージに集中してよー、もうすぐ配信するんだから」
「はいはい……」
方法はさておき頑張ってるわけだし、素直にご奉仕してあげるか。なんかの間違いで成功したら俺もあやかれるし(さすがにポイ捨てされないよな? 手のひら返してこないよな?)。
姉ちゃんが将来大物になる可能性に賭けて自由に伸び伸び活動させてたわけだが、どうやらダメらしい。
「ごめん、もう一回言ってくれない?」
「ごべんなざいぃ」
「謝ってほしいわけじゃなくてだね、もう一回説明してくれって言ってんの」
「ごべぇぇん!」
ダメだ、ギャン泣きしてて話にならん、コイツは絶対大物になれねぇな。可愛さとスタイルだけが取り柄のダメ人間だもん。
「んで? 借金の総額はいくら?」
「ぐすん……同僚から六万……ちゃんと減ってて偉いでしょ? ひっく……」
それぞれに一万円ずつ返しただけでしょ? 偉くともなんともないよ。
「んで? 新たな借金は?」
「クレカのキャッシングと消費者金融が二十万円ずつ……」
なるほどなるほど、合計で四十六万ね。クレカは前から持ってたみたいだけど、消費者金融よく通ったな。多分だけど、消費者金融で借りた後にクレカでキャッシングしたんだろうな。
「……で? その借りたお金は?」
「景気づけの高級焼肉、パチスロ、高級やけ酒で見事に……」
「なんで借金してる身分で高級焼肉行くかなぁ? なんで借金してまでパチスロ打つかなぁ? なんで金失った状況で高級やけ酒するかなぁ?」
「ごべんなざぁい!」
お姉ちゃん、さすがにこればっかは笑えないわ。ちょっとした分割払いぐらいならまだしも、ガッツリとキャッシング……しかも二社だぞ?
「とりあえず泣き止んでから話聞くよ……じゃあ俺、スーパー行ってくるね……」
「っ! 捨てないでぇ! 逃げないでぇ!」
「す、捨てないって! 落ち着いてよ!」
「一人にじないでぇ!」
ダメだ、完全にパニくってる。俺が借りてるアパートなんだから、逃げるも何もないだろうに。
あっ、そう言えば女性がこの状態になってる時って、とりあえず従っておけばいいんだっけ? 迷惑かけた上に時間まで取るって最悪なんだけど、逆恨みされても怖いし、落ち着くまで一緒にいてやるか……。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
「……うん」
本当にアラサーなのか、この人は。ああもう、鼻水ズビズビじゃん……。
「ほら、ティッシュ」
「あんがと……」
「そんなに勢いよく鼻をかんだら耳に悪いよ? というかレディならもう少し控えめにだね……」
「らってぇ……涙と鼻水止まんないんだもん……」
なんだろう、男にも母性本能ってあるんだなって。
まあまあまあ、キャッシング四十万なら利息もせいぜい数千円だろうし、早めに返済すればなんとでもなるよね。
……果たして堅実に返済できるだろうか? 限度額まで借りてるからこれ以上の追加はないはずだけど、泣き疲れてそのまま寝そうになってるお姉ちゃんを見てると不安がこみ上げてくる。




