表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーストバスターズ  作者: そら
第一章 ようこそ、地獄へ
PR
23/28

22話 先輩たちの元パートナー

 学院のヘリポートへと到着したころには、既に時刻は日付を(また)いでいた。

 

 地に足を付けたときに、解放感が凄くて、例えるなら世界を救った勇者のような晴れ晴れとした気持ちだった。


 過緊張から解放されたからか、いつもより感じる風が清々しく、空に浮かぶ満点の星空が物凄く輝いて見えた。


 いつもと違う幻想的な空気感に、夢の中にいるのではないかと、逆に不安になってしまう。


「反町先輩、一つお願いしてもいいですか?」


「およ? お願いとな?」


「はい。夢なのか現実なのかはっきりさせたくて。だから、私の頬をつねってもらえませんか? 自分でつねるより、他人にやられる方が、よりリアルを感じれて、区別がつきやすい気がして」


「なるほど~ いいよ」


 反町先輩は私の右のほっぺたを掴むとぎゅっとつねった。


 細い針で刺されたようなピリピリとした感覚が走り、私は反射的に目を閉じてしまった。


「どう、区別ついた?」


 反町先輩にそう尋ねられて、私は閉じていた目を開ける。


 そこは目を閉じたときの景色と全く変わらず、頬の痛みも健在であった。

 

 それは、夢ではないことを明確に示唆していた。


 ――よかった。夢じゃない。私、ちゃんと初任務を無事に終えれたんだ。


「はい。ちゃんと現実でした」


「それは何より」


「すみません、変なお願いをしてお手数をおかけしました」


「いいよいいよ。私も神崎さんのほっぺたの感触を堪能出来て嬉しかったから。ふふ、ぷにぷにして気持ちよかった~」


 反町先輩は私のほっぺたの弾力を再現するように、人差し指と親指をアルファベットのCのような形のまま、互いの指を近づけたり遠ざけたりさせる。


 口頭で感触を伝えられるだけでも恥ずかしいのに、視覚情報まで付け加えられると、もう顔を覆うしかなかった。


「も、もう、やめてください。恥ずかしいですから!」


「そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃん。私は褒めてるんだよ?」


「褒めてくださるのはありがたいですが、こう、何と言うか、ともかく恥ずかしんです!」


「ん。渚、神崎さんを辱めるのはやめて。可哀そうでしょう?」


 私の、あまりにも羞恥に悶える姿に、臼井先輩は目に余る言動だと判断し反町先輩を注意。


 反町先輩はその言葉を受けて「ごめんごめん」と反省の色も見えない謝罪をする。


「さて、改めて今日は初任務お疲れ神崎さん。明日は休養日だから、ちゃんと英気を養って疲れを取ってね」


「はい。今日は大変お世話になりました」


「ん。じゃあ、私たちは寮に戻るけど、神崎さんはどうする? 一緒に帰る? それともどこか寄りたいところがあれば、このまま解散するけど」


「あ、じゃあご一緒してもいいですか? 初任務だったので、精神的にも身体的にも疲労困憊で」


「ん。了解。じゃあ一緒に戻ろうか。渚もそれでいい?」


「もちろん。じゃあ、三人で戻ろうか!」


 そうして、もう少しだけ先輩たちと一緒になることになった。




              *





 ヘリポートを後にした私達一行は、寮への道のりを進んでいた。


「あの、先輩たちに一つ尋ねてもいいですか?」


 親睦会の時は、先輩たちと初対面で緊張していたのと、反町先輩が場をかき乱したこともあって、あまり会話という会話が出来ずじまいだった。


 しかし任務を経た今、多少は打ち解けたので、残りわずかではあるが、少しでも先輩たちのことを知りたいなと思い、私は質問する。


「お? 何々?」


「ん?」


 私の質問に興味津々な先輩たち。


「お二方とも、白雪先輩とパートナーを組んでましたよね?」


「およ? 知ってたんだ」


「ん」


 私の質問に逡巡することなく答えを明かす二人。


「はい。SNSを(さかのぼ)っていたときに、雫さんと一緒に映っているのを目にしたものですから」


「なるほどねえ。それで?」


「あ、はい。えっと、ど、どうして、パートナーをやめたのかなって思いまして」

 

 私は二人が初任務のパートナーとなる連絡を貰ったときに、添付された顔写真を見て、すぐにわかった。


 ――二人はかつて雫さんのパートナーだったのだと。


 私の質問に反町先輩はちらっとだけ臼井先輩を見つめてから、


「ん~ごめんだけど、その話は《《今》》は出来ないかな~」


 反町先輩は人差し指を顎に添えながら、答えた。


「そ、そうですよね。すみません……」


 さすがに、出会って間もない後輩に気軽に話せる内容ではないらしい。


 気にはなる。


 だが、無理に聞き出したいわけでもない。ただ少し興味本位で尋ねてみただけだ。本人たちが話したくないのなら、それ以上踏み込むべきではないだろう。


 ……もちろん、気にはなるが。


「ん。別に話しても――」


「光ちゃああああん!!」


 前方から私の名前を叫びながら土煙を上げて猛ダッシュで駆けてくるのは、凜ちゃんだった。


 土煙の出所からして、寮からなのは明白。

 

 ――私の今の地点から寮までの距離は約百メートルあるはずなのに、私の姿を視認できるなんて、どんだけ視力がいいの?

 

 凜ちゃんの人体の不思議さに目を向けている間にも、土煙がこちらに向かってきて、私との距離残り十メートル付近で、凜ちゃんは大きくジャンプ。


 十分すぎる速度と踏み込みにより、優位にその距離を縮めていき――







「おわっ!」


 飛び込む凜ちゃんのあまりにも勢いに私は耐えきれず尻もちをつくも、腕はしっかりと凜ちゃんを包み込む。


「うわああああん! ひがりぢゃん無事でよがっだよおおお!」


 凜ちゃんは私のお腹に顔を押し当てながら、喉がはち切れんばかりに泣きわめく。


 朝食時に、凜ちゃんに私のことは気にせず、ちゃんと英気を養って自分の時間を謳歌(おうか)してと伝えた。


 凜ちゃんの初任務は私の任務の次の日。


 ちゃんと身体を労わって任務に臨んで欲しいし、それに――縁起悪いけど、もしかしたら命を落とす可能性もある。


 その時に、あのときあれやっとけばよかったなあなどと、悔いがあれば筆舌に尽くしがたいやるせなさが襲い掛かるだろう。


 だから私は任務に万全の体調で臨んで欲しいのと、そんなやるせない気持ちになってほしくなくて、友達としてのお願いではなく、ご主人様の立場を利用して命令した。


 友達としての立場なら、凜ちゃんのことだ。


 きっと、私のために何もかもを犠牲にして、立ち入り禁止区域のヘリポートまで見送った後、私が帰還するその時まで、ずっとそこにいるに違いない。


 行きの時に凜ちゃんの姿が無かったことから、きっと私の命令を遂行して、自分の時間を謳歌したのだと思う。


 今私にしがみつく凜ちゃんの後ろ髪は跳ねている。


 一度ベッドで入眠を試みたのだろう。


 でも、私のことが気になって寝付けなくなり、結果的にその衝動が抑えられなくなり、こうして、寮を飛び出してきたのだろうと思う。


 本音を言えば、最後の最後まで私のことなんか気にせず英気を養ってほしかったけど、でもまあ、酷ながら、私の命令を忠実に行動を起こしてくれたのだ。


 ここで、注意などと言ったことを伝えるのは無粋だ。


 それに、凜ちゃんの私の想う気持ちをないがしろにはできない。


「ありがとう。私は無事だよ」


 私は右手で凜ちゃんの頭の優しく撫でる。


 撫でることに凜ちゃんの強張った身体は安心を得て脱力していく。


 凜ちゃんはもう泣きわめくことなく、「えへへ~」と恍惚した声を上げながら――


   




 最終的にはすーすーと夢の世界へと旅立った。


「凄い。あれだけ泣きわめいていたのに、もう寝ちゃってる~。あはは~可愛い、赤ちゃんみたい」


「ん。体格に似合わず凄い胸。こんな大きい胸初めて見た。一度、もみもみしてみたい……」


 腕の中で眠る凜ちゃんに二者二様の反応を示した。


 特に臼井先輩の反応は完全に変態チックで、言動もそうだけど、見つめる先が凜ちゃんの胸部に集中しており、興奮しているのか、眼差しが凄くキラキラしていた。


 ついでに、よだれも垂れていた。


 ――臼井先輩はひょっとして、ひょっとすると。ひょっとするのか?


「はーちゃんの変態性に神崎さんが引いてるよ~」


「ん!? 待って、聞いて神崎さん。私は決して変態なんかじゃなく……」


 顔を真っ赤にしながら臼井先輩は必死に私に弁明をする。


「ごめんね。神崎さん。でもはーちゃんも悪気があって変態言動をしたわけじゃないの。はーちゃんってクッション性のある弾力に満ちたものが好きで目がないの。ぬいぐるみももちろんだけど、特に女性の胸とかお尻だとか――」


「んー!! 渚ストオオオオオップ!!!」


 臼井先輩は反町先輩の言動をかき消すが如く両腕を左右に大きく振りながら大声を叫び、反町先輩のこれ以上の言動をストップさせる。


 臼井先輩の初めて聞く絶叫に驚いたけど、それ以上に、その大音声を眠る凜ちゃんの鼓膜を盛大に震わせたせいで、凜ちゃんは眠りから覚める赤ちゃんみたいに「ううう……!」と顔をしかめ、うめき声を上げる。


 せっかく凜ちゃんは英気を養っているのに、ここで変に中途覚醒させて、いざベッドいんした時に寝付けなかったら明日の凜ちゃんの任務に支障が出てしまう。


「臼井先輩、凜ちゃん寝てますから! 静かにお願いします」


「ん! ごめん」


 私の注意を受けた臼井先輩は、すぐさま両手で口を塞ぐ。


 私は止めていた右手を動かして凜ちゃんの頭を撫でると、しかめっ面は穏やかな表情になり、うめき声は、爽やかな寝息に変わり、私はホッと一息。


「はーちゃん、だめだよ~ 大声出しちゃ」


「ん……! 渚、覚えとけ……!」


 臼井先輩は腹の底から煮えたぎるような憎悪を全身全霊で反町先輩にぶつける。

 

 それを受けた反町先輩はどこ吹く風と言った様子で受け流していた。


「じゃあ神崎さん、この子がまた起きちゃわないように早く寮に帰ろっか」


 反町先輩はそう言って右手を差し出し、尻もちを着く私を立たせてくれた。


 こうして、私達三人は眠る凜ちゃんの様子を微笑ましく観察しながら、しかし、起こさない程度の声量で会話し、寮までの道のりを楽しんだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ