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つつがなく 〜湯灌にまつわる二十の小話〜  作者: 藤紫


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15/20

15話目『宝毛』


施行中には、ご遺族様へ細かな確認を行うことがございます。

洗体台の上の故人様の首筋に光るものが見えました。所謂、宝毛です。


『失礼いたします。故人様のお首元に宝毛がございますが、いかがいたしましょうか』

『宝毛……ですか?それって……?』

『福毛とも申しますが、体の一部に一本だけ長く生えてくる白い毛のことで、幸せになるとか願いが叶う等と言われております。』


私は、宝毛の説明をさせていただきました。


すると、お孫さんが


『ああ、おじいちゃんの首のヤツね。前にしがみついた時抜けちゃって、おじいちゃん、固まっちゃったんだよ。』


と笑いながら、喪主様におっしゃられました。


『一般的にはどうするものなのでしょうか?』


と喪主様は困り顔をなされています。


『剃ってしまわれる方もいらっしゃいますが、大事にされていたなら、そのままにされたほうがよいかと思いますよ』


するとお孫さん、


『大事なものなのって聞いたら、『また生えてくるからいいさ』って言ってた。』

『また生えてくるからさ』

『……剃っちゃっていいんじゃない?』


だそうでございます。

それを聞いた喪主様は笑いをこらえながら、


『いやいや、生えてきたら怖いよ』

『それじゃあ、そのままにしてください』


とおっしゃられました。


お孫さんはキョトンとされていましたが、お部屋の空気が少し軽くなったような気がいたします。


『それにしても、そんな細かい所まで気にしていただけるんですね。ありがとうございます。』

『いえいえ、大事にされていらっしゃるものはそれぞれでございますから。その思いを少しでも汲むことができましたのなら私共も嬉しく思います。』


とお答えしながらもつつがなく施行を進めます。


『丁寧に対応してくださって、ありがとうございました』


頭をお下げになる喪主様に、こちらも頭を下げながら


(宝毛を下手に剃ってクレームが来たら、始末書モンだから、ヘタは打てんのよ)


などと思っておりました。


『毛一本でこんな変わるもんなんだねぇ』


助手席の先輩はそんなふうにこぼします。


人にはそれぞれ譲れないものがございます。

宝毛が大事な方もいらっしゃるでしょうし、うちの部長なら宝毛より頭頂部の毛のほうが大事でしょう。

そんなことを考えながら、今日も湯灌車を走らせるのでした。





それでは、次の斎場へ参ります……

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