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37.反攻作戦

 厳かな雰囲気。天界にある街──が鏡写しに複製された場所の中心。その周囲には、感覚が空いて四本の”棟”が立ち並び、その中でも一つ、とびきり手の込んだ作りの”天使長棟”が威容を放っている。

 天界の中心。本来なら、大天使以外は立ち入ることすら禁じられている……のだが。


「……まるで他人事のようですね。エインフィールド……いえ、天束エイン」

「は、はは」


 眼の前の円卓には、四大天使が勢揃い……といったところ。今まで感覚が麻痺していたけれど、天界を統べる四大天使とこんな近い距離に居るなんて、気が休まらない感じはする。


「ったく。じゃあ何で来てるんだかねェ」

「……ボクが呼んだ。天界の命運を背負わせるのに、知らせないのはフェアじゃないしね」

「……勝手なヤツだぜ、全くよ」


 椅子に深く腰掛け、デバイスを弄りながら喋るラファエルと、背もたれに腕を置くミカエル。その反対の、行儀よく座る二人のうち、ガブリエルが口を開いた。


「……エイン。あなたには私達の提案を拒否する権利が──」


 その発言は、ウリエルの咳払いによって遮られる。どことなく重苦しい空気が流れている。いや、大天使が感情を出さないというのは、今までのあれこれからも分かっている。


「……単刀直入に頼むわよ。私に何を”背負わせる”気だったの?」

 

 静寂が流れる。部屋の中に入ってくるのは、外の天使たちが忙しくする声だけだった、が。それを破ったのはウリエルだった。


「──エインフィールド。あなたにベリアルを任せたいのです」


 出されたのは、神妙な空気にはあまり似合わない、言ってしまえばそれほど特殊でもない提案。しかしまぁ、わざわざこんなところに呼ばれた時点で、真意は違う。


「私に”任せる”というのは、援軍は期待できない。そう解釈しても?」

「えぇ。そうです」


 再び静寂の時が流れる。


「……やっぱりやめましょう、こんなこと!」


 青髪の大天使が発言した。勢い余って、席から立ち上がっている。


「既に裁定は下されました。ガブリエル。私達にできるのは、それを遵守することのみ」

「……なっ」


「……はッ」


 頭の後ろで手を組み、円卓を見つめているミカエルが割り込んでくる。


「下らねェな。オレはもう行くぜ」


 緋色の髪を持つ天使は椅子から立ち上がった。ラファエルは、我関せずといった具合で何も言葉を発さない。ガブリエルは、ミカエルの圧に押されて座っている。


「いつまで神サマの人形をやってんだか」

「……世界の存続。それが神のご意思です。それが間違っているとは思いませんが」

「そうじゃねェよ」


「やり方ってモンを少しは考えろっつーの。石頭天使」


 ミカエルが去っていく。鎧の軋む音。彼女のケープの下からだろう。彼女も既に、戦いの準備を終え、その時を待っている、というわけだ。少しして、ウリエルが息を吐く。


「心配しなくていいよ。仲が悪くても作戦は作戦さ」

「……どういう意味?」

「ミカエルは使命に感情を持ち込まないってことだよ。ね……ウリエル」


 興味なさげなラファエルがそう言った。


「……授かりし命は、エインフィールド……天束エインと、ベリアルを邂逅させよ、という趣旨のものでした」

「ウリエル……それって」


 少し黙っていた青髪の大天使が、何かを思い出したように、神妙な面持ちになってウリエルへ問う。そんな彼女の顔を見たウリエルは、目を閉じて頷いた。


「あの方は……黄泉から帰ってきた貴女を、輪廻を破壊するものとして……”敵”として見ています。生命の循環を破壊する、ある種の敵性存在として」


 ドロシーに斬られた、あの時のことだろう。私は黒居に魔導を用いて、命を助けられた。しかしそれは、死ぬべき者が死ななかった、ということでもある。

 いや──ある種の予感はしていた。私だって天使の端くれだ。生と死の循環の重要性は理解している。それが、侵されてはならない聖域だ、ということもまた──。



「──ならばこそ、我が行かなければならないな」


 部屋の中の人間が、一斉に声のした方を向く。もちろん、自分自身も例外ではなく。そこには、ゴシック装束に身を包み、フリルの付いた真っ黒な傘を差す戦乙女の姿。


「……どなたですか?」

「そうだな、我は──漆黒の断罪者、ドロシー・フォン・ヴァルキュリア。戦乙女部隊所属の見習いヴァルキュリア、といったところだ」

「では……貴女が」


 戦乙女は、厨二病全開の挨拶をした。が、それは彼女が、以前のような状態に戻っている証明でもあった。何があったかは分からないが、どうやら、吹っ切れたらしい。


「確かに、良い目をしています」

「何だ? 我の瞳を覗いても、見えるのは真紅の”邪気眼”だけだぞ?」

「え? え、えぇ、そうですか……そうですね」


 前言撤回。吹っ切れすぎだろう。何だその目を押さえる躍動的なポーズは。ウリエルもちゃっかり納得した雰囲気を醸し出しているし。


「……話は聞いた。案ずることはない。ベリアルなど、我と大魔道士エインで十分だ」

「……ですが」


 人に変な二つ名をつけるのはやめてほしいのだけれど。


「我は決めたのだ。必ず友を救う。そしてベリアルを倒す。誰に決められたことでも、ない」

「ただ我の、──”覚悟”に、よって」

「覚……悟」


 ウリエルが口を開けて驚いている。無理もない。私もそうだから。ガブリエル同様で驚いていた。戦乙女がこちらへ顔を向ける。


「──行こう、盟友よ」

「反撃の、始まりだ」

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