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33.天獄

「……で、どこに向かってるの? ……私達」


 眼の前に居る、天使を肩に担いだ大天使”に語りかける。彼女──ミカエルに助けてもらったのは良いものの、あの後私達は廃墟と化した天界の街を彷徨っていた。

 周囲には、建物だったモノが散乱し、瓦礫の山を作り上げている。だが、そこに放たれたであろう火は、確かにミカエルの言う通り、燃え広がってはいないようだ。


「あぁ? 天使が避難してる場所があるンだよ。ガブのヤツが守ってるはずなんだが」


 どうやら生き延びた天使も居るらしく、少し肩の荷が下りたような気もする。


「拠点、ってところ?」

「そんなに大層なモンじゃねえな。ガレキを使って隠しちゃいるが、それだけだ」


 そんなことを言っているミカエルは、さっきから”ここでもない”とか”あっちでもない”とか独り言を喋っている。私に聞こえているのだから独り言ではないかもしれない……というのはさておいて。


「だがまぁ、お前らの傷ぐらいは治せるだろうよ。着いたらガブに傷を診てもらえ」

「……分かった」


 会話が終わる。私達の声が消え、瓦礫まみれの地面を踏む音と、パチパチ、という火花が散る音。火を抑える……とは言っていたが、燃えているのは燃えているのだろうか?

 不思議に思って火に少しだけ指をかざすと、先端に熱が伝ってきたので、すぐに手を引っ込めた。


「何やってんだか。火傷しても知らねえぞ」

「これ、あなたが抑えているわけじゃないの?」


 少しだけ後ろを振り向いた彼女に問うと、歩きながら答えてくれた。私もそれに彼女の背中を追うように、それについて行く。


「オレは火を消したわけじゃねェ。燃えている火を自分の火に”置き換えた”だけだ」


 ミカエルは、歩みを進めながら続ける。

 

「ベリアルの悪魔共が放った火を”オレの火”に変えて制御してる」

「……天界に来た時には、街中に燃え盛る火が見えていたんだけど」


 訝しげに疑問を重ねる私が癪に障ったのか、彼女は立ち止まった。

 

「お前……オレが四大天使って知らねェのか?」

「い、いや……そういうわけじゃ」


 必死に否定する。ただ、否定しきれない部分もある。天使界の天使がすべて集まるこの広大な街。それを襲う火を、すべて制御しているなんて、いくら四大天使とはいえ──。

 

「四大天使だからだろーがよ。それぐらいできなきゃ天界も守れねえだろ……って」


 ミカエルが目を細める──と同時に、私の目にも”それ”の姿が入ってきた。私達の周囲を取り囲む”黒い影”。

 拳を握り、魔法陣を展開する。大天使もドロシーを抱えながら、背中の大剣を構えた。それを待っていたかのように、”影”も各々武器を取り出して構えている。

 

「……チッ。やるしかねェか」


 と、ミカエルが言った瞬間だった。影の姿が消えた。死んだのでも、倒れたのでもない。”消えた”。そうとしか表現しようがない。

 私達の周囲を取り囲んでいた、何百という影がいた跡もない。そこにあるのは瓦礫だけ。

 

「……一体何が……」


 そうして”大天使”の方を見ると、そこに居たのはミカエルと、彼女の後ろに隠れるように、もうひとりの小さな天使がそこに居た。


「全く。ボクに感謝の言葉もなしかい? ミカエル?」

「誰だッ……て」


 剣を構え、勢いよく振り向いた彼女は、拍子抜けしたと言いたげな顔で得物を収めた。

 

「何だよ、ラファエルじゃねぇか。たくッ」

「……仮にも命の恩人に対しする態度がソレとはね」


 ラファエルは呆れた顔をして、手に持っていた小型の端末をポケットにしまう。

 

「ふーん。君が天束エイン?」

「え、えぇ」


 小さな大天使は、怪しむ、というより単に不思議そうに私をジロジロと観察している。「面白いなぁ」と呟きながら、手に身に着けたグローブを触ったり。

 と、ひとしきり見終わると、彼女は、ドロシーを降ろして壁により掛かるミカエルを小突いた。

 

「……余計なマネしやがって。オレ一人でもやれた」

「こんなところでやり合って、集まってきた悪魔に殺されちゃ世話ないね……行くよ」


 ラファエルはミカエルの言葉にそう返すと、小型の端末を取り出した。グリッド上の画面──どうやら周辺の地図を見ているようだ。


「大体、テメェがなんでここに……」

「ガブに呼ばれたからだよ。君たちを探してほしい、ってね」



「ガブリエルが君を呼んでる。来てくれるよね? ……天束エイン?」



 少女が目を覚ましたのは、暗い部屋。外の光も入らないような場所に、彼女は居た。記憶の中に残るのは、自分が緋色の髪を持つ天使に抱えられたこと。

 アンジュ・ド・ルミエール。ミカエルに攫われた彼女は、天界のある場所で目を覚ました。天使長棟。その”最上階”で。

 

「ここは……」


 だが、彼女の視界に入ってきたのは暗闇ではなかった。それは、天使の影。体格からして、おそらく男だろう。

 ”それ”は、アンジュが覚醒したことに気づいたのか、地べたに座る彼女へ近づき、屈んだ。

 

「……”餌”としては十分、か」

「え……さ?」


 彼女は、男の周囲に漂う、おぞましい気配に圧倒されていた。

 

「見習い天使、お前のおかげで天束エインは”こちら”へ来た。感謝するぞ」

「なに……を」


 感謝という言葉を告げる顔は、悪意に満ちた表情をしていた。

 

「気に病むことはねえさ。お前のせいで天束エインが死ぬ。それだけの話だ」


 男は、言いたいことを言い終えると、アンジュの前で立ち上がると、そのまま部屋の”影”へ、すぅっと消えていく。

 

「エイ……ンさん……に……げ」


 彼女のかすかな声は、そのまま闇に消える。

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