第24話 やっぱり、この流れ。
東の窓から差し込む柔らかな朝日――――
いまだベッドで寝ているディセルネを起こそうと、ヤーナが女神の頬を舐めた。
『おい、ディセルネ、起きろ。みんなとっくに起きてるぞ』
掛け物から覗く小さな鼻は、スピスピと小さな寝息を立てている。
ヤーナは掛け布団の端を咥えると、足元へ向かって引っ張った。
「……ん、ヤーナかぇ?」
半分だけ開いた目を擦りながら、ヤーナに持っていかれた掛け布団を手繰り寄せはじめるディセルネ。
『もう寝るんじゃないぞ。ほら、朝ごはんだ。行くぞ』
ディセルネの体にフワフワの頭を押し付けて、必死に起こそうとするヤーナ。
「わかった、わかった。もう起きるぞよ。
こら、押すでない……、
うわぁ‼︎
おっ、落ちるぅ」
ディセルネの小さな体がベッドの端へと追いやられ、上半身が床めがけて傾いだ――その時。
スッと伸ばされた逞しい腕。
「おはよう、ディセルネちゃん。危なかったね、ベッドから転げ落ちるところだったよ」
間一髪でレオンに受け止められたディセルネ。
「レオン……、ありがとう、なのじゃ」
「ディセルネちゃんは、寝相がわるいんだね。まぁ、子どもって寝てる時はよく動くって言うし、そんなもんなのかな?」
ディセルネを抱えたレオンは、ダイニングへと足を向けた。
「妾の寝相がわるいんじゃなくて、ヤーナが押したから落ちそうになったのじゃ。それに妾は幼子ではないぞよ」
「あはは!そうだった、ディセルネちゃんは子どもじゃないね。
……このくらいの歳の子どもって、子ども扱いされるのが嫌な年頃か?」
「レオン、心の声が口から吐き出されておるぞよ。それに、何度も言うとるがのぅ……幼子ではないと」
口を尖らせて抗議するディセルネの頭を、レオンは宥めるかのように撫でる。
「はいはい、そうだった、そうだった。ごめん、ごめん」
「レオン、其方全く信じとらんし、ごめんとも思うとらんのじゃないのかぇ?」
「そんなことないよ」
「それじゃ、なぜ其方の口の端はピクピクしとるのじゃ?
笑いを堪えとるのが、妾にもわかるぞよ」
賑やかなディセルネとレオンに、エプロン姿のマルタから声がかかる。
「おはよう、ディセルネちゃん。よく眠れたかい?」
「マルタおばちゃん、おはようなのじゃ。快眠じゃ」
ディセルネの返事に、すかさずレオンが返した。
「快眠を通り越して、爆睡だよね。ベッドから落ちるくらいに」
ぷぅっと頬を膨らませたディセルネが、レオンを見上げて一言。
「妾、意地悪を言う者とは、仲ようなれんかもしれんぞよ?」
「うわぁぁ!
ごめん、ごめん。揶揄いすぎた。本当にごめんなさい」
慌てたレオンがディセルネの両脇に手を添え、彼の目の前に持ち上げる。
『良かったな、ディセルネ。“高い高い”だぁ』
両足をプラプラさせながら、ディセルネはチラリとヤーナに視線を向けた。
『其方も妾を揶揄うて……。それより、助けてくれんかのう?』
『いや、クマには勝てん。諦めろ、ディセルネ』
ディセルネがヤーナと念話を交わしていると、さらに焦った様子でレオンが話しかけてくる。
「ねぇ、ディセルネちゃん。こっち見てよ。もう口きいてくれない?」
「……レオン、妾は地面に足をつけたいんじゃが。いつまでも足が宙ぶらりんじゃ、心許のうて」
さっとディセルネを床に下ろすと、勢いよく膝をついて両手を組んだレオン。
まるで祈りを捧げるかのようなポーズで、ディセルネを見つめる彼。
「レオン、何をしておるのじゃ?妾は神じゃが、今祈られてものぅ」
眉を八の字にしたディセルネは、首を傾げた。
「ディセルネちゃんに許して欲しくて、懺悔してるところ。
……あぁ、今度は“神様ごっこ”か。よし、わかった。その遊びもやろう!」
「妾も冗談じゃよ。そもそも、怒ってなぞおらん。
……ん⁇
“神様ごっこ”とな?
あぁ、もうよい。幼子でも、“ごっこ遊び”でも」
はぁっとため息を吐いたディセルネに、ヤーナが言う。
『何か、前もこんな場面あったよな』




