65
現状全く動けないでいる俺からしたら信じられないことだが、綾崎には神月の毒が効かないらしい。
さすがはムクロよりも長くこの施設にいるだけはあるということか。というより、以前会った時の口ぶりからすると、こいつはマリアにも直接会った経験があるようだった。それにも関わらず今も生きているという時点で、こいつの毒耐性が桁外れていることに疑いの余地はない。
少しだけ、綾崎に対する印象を改める。チャラくてうざいだけの面倒な奴かと思っていたが、案外この施設においては切り札的存在となるかもしれない。
それはともかく毒が効かないのなら話は早い。俺は背後にいるであろう綾崎に向け声をかけた。
「おい綾崎。毒が効かねえってんならさっさと神月をぶん殴って、俺たちをこの状態から解放してくれ」
「うーん、どうしようかなあ」
「はあ!?」
普通に肯定の返事が返ってくると思いきや、なぜか渋るような反応。思いっきり首を後ろに動かそうとし、やはり動かず苛々だけがより募る。
俺はさらに大きな声で綾崎に言った。
「ふざけてんなら承知しねえぞ! まさか俺たちを裏切って神月の味方するわけじゃねえよな!」
「裏切るも何も仲間だったわけじゃないじゃんよう。それにそのおっさんをぶん殴ったからって二人の毒が解除される保証なんてないし。何より、ちょーっとばかし気になることがあんのよねい」
スタスタスタと足音を立てながら、綾崎が近づいてくる。
そして俺と南方の間を通り抜け、神月の目前に足を運んだ。
あまりにもあっさりとパーソナルスペースまではいられ、流石の神月も驚いた様子で一歩下がる。綾崎は特に追おうとはせず、まじまじと神月の顔に視線を飛ばした。
それから不思議そうに首を曲げ「不思議だねい」と声を漏らした。
「やっぱり馬鹿にも操られてるようにも見えないねえ。その上あの芥川キュンの毒に耐え、不完全ながらもムクロちゃんの毒まで習得した。こんなに優秀な男をよこすなんて、今回は一体どういうつもりやら。もしかして、俺っちの手も借りなきゃいけないほど厄介な事件でも起きちまったのかいな」
神月は眉間に皺をよせ、小さく頷いた。
「察しが良くて助かる。隔離していた『毒草』が一斉に蜂起した。今はまだ何とか食い止めているが、これから先は分からない。悪いが手を貸してくれ」




