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あなたの声が聞きたくて~間違い電話~
「やってしまった」
彼はそう思った。
「またか」
彼女はそう思った。
気まずい沈黙の後、最初に口を開いたのは彼女。
彼女にとっては日常茶飯事だったから。
経験上、相手が今どんな気持ちでいるのかがわかるから。
その器の広さに、彼は感激した。
そして、声しか知らない彼女に恋をした。
一目惚れに近いのかもしれない。
ただの感動だったのかもしれない。
でも彼はその日から、彼女の事しか考えられなくなった。
何度も話すうちに、彼女もまた、恋に落ちた。
初めて言われたクサイ台詞が心に残ったから。
あれほど嫌いだった電話を取る事が楽しくなったから。
彼は今日も電話する。
最初は決まってこう言う。
「あなたの声が聞きたくて」
彼女はくすっと笑った後、機械アナウンスのように言う。
「こちらは佐伯です。
佐久間にお掛けの方は、電話番号をお確かめの上、
再度掛け直してください」
もう何十回と聞いた台詞に彼は笑う。
何十回と言った台詞に彼女も笑う。
1本の間違い電話から始まった2人の恋は、
今日も1本の電話で繋がる。




