表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の誓い  作者: はいり
4/4

4.王妃との出会い

王国祭から二ヶ月ほど経った。

あれからオーディアナは、しょっちゅうとは言わないものの、今までよりも小さなパーティーや、お茶会に出席するようになっていた。

それには父であるランコート公爵も大喜びだった。

もちろんオーディアナが父を油断させるための作戦だったが……


そんなある日、ランコート公爵は出掛けようと、玄関でコートを着ていた。

するとオーディアナが階段を下りてきて


「父様、出かけるの? 」


と尋ねた。

ランコート公爵


「オーディアナ、王と謁見だ。城に行ったくるよ」


と言った。

オーディアナはすかさず、


「王城に行くの!? 私もついていきたいわ! 」


と言った。

公爵は娘の言葉に喜び、準備してくるように言った。



「お嬢様、嬉しそうですね」


部屋で仕度を整えていると、侍女が言った。


「そんなことないわよ。」


オーディアナは侍女をみて答える。

侍女はニコニコしながら


「お城に会いたい方でもいらっしゃるんじゃないですか? でなきゃお嬢様が城に行きたいなんておっしゃるわけがないかと……」


と言うので、オーディアナはびっくりして、


「深読みしすぎよ。ただ、私はランコート家を直に継ぐし、そうなったら公爵家だから王城に通うことも多くなるでしょ。慣れておくべきかなって……。王や王妃とも顔を合わせておくのも礼儀だし」


と動揺を隠しながら言った。



公爵とオーディアナは馬車の中にいた。

娘の申し出がよほど嬉しかったのか、公爵は上機嫌で娘に話している。


「お前もこれから陛下たちと話す機会も増えるだろう。まぁ結婚してしまえば仕事で王城に行くこともないが、王妃の茶会などにも呼ばれるようになるだろうしな! 今からでも城に行って、慣れるとよい」


オーディアナは父に微笑み、


「そうですね」


と答えた。



二人を乗せた馬車が王城につくと、王が直々に出迎えてくれた。


「ランコート公爵! 待っていたぞ! おっ? オーディアナも一緒ではないか」


王は陽気に言う。


「わざわざお出迎え、ありがとうございます陛下。オーディアナが行きたいと言ったもので」

と公爵は答えると、


「エリザベスが相手をするぞ、おぃお前! 彼女を王妃のとこへ案内しろ! 」


と王は言い、立っていた使用人に命令した。


「ありがとうございます陛下」


オーディアナは王に笑顔でお礼を述べた。



オーディアナは使用人に連れられ、王妃がいる部屋まで案内されていた。


――あぁ……陛下と父様が話しているあいだに捜したかったのに……――


オーディアナは、使用人についていきながら、困っていた。

本当は、父と王が話しているあいだに、騎士団の練習場を捜し、グリーディオを見つけようと思っていたのだ。



使用人がドアをノックすると、中から女性の声が聞こえてきた。


「はい、なんですか」


「エリザベス王妃、お客様でございます! 陛下のご命令でお連れいたしました」


使用人が答えると、ドアが開き、中から綺麗な女性が出てきた。


「今日はお茶会ないはずだったけど……」


と言いながら使用人を見る。

使用人はすぐに脇にどき、オーディアナを前に出した。


「突然申し訳ありません、王妃。オーディアナ・ランコートです」


とオーディアナが言うと、王妃はにっこり笑い、


「あらっ! あなたがオーディアナ嬢ね! 」


と言い、使用人を下がらせた。

そして、


「お庭にでもいきましょ! 」


と言って、歩き出した。



オーディアナが連れられてきたのは城の中庭で、そこには色とりどりのはなが植えられていた。

その中に可愛らしい白い丸テーブルと椅子があり、二人はそこに座った。

しばらくすると紅茶とお菓子が運ばれてきた。

使用人たちが下がると、王妃はオーディアナに話しかけた。


「私ね、あなたに会ってみたかったのよ」


オーディアナはいきなり言われてびっくりした。


「えっ!? でもあのいきなり来てしまって……」


と俯くと、王妃はにこにこしながら言った。


「えぇ、びっくりしましたわ。でも気にしないで下さいな。」

「あの…なぜ私に? 」


オーディアナは戸惑って聞いた。


「公爵からあなたのこと聞いてたのよ。パーティーにもお茶会にもろくに参加しない不思議なお嬢様だって! それに、ロゼリアに似てるって聞いて……」


「―っ!!!」


オーディアナは急に出てきた名前に目を見開いた。


――ロゼリア……母様の名前! ――


オーディアナはぐいっと身を乗り出して王妃に尋ねた。


「母様をご存知なんですか!? 」


王妃はクスクスと笑い、


「本当に似てるわ。顔だけじゃなくて性格まで! えぇ、あなたのお母様……ロゼリアとは友達だったの」


と言った。

しかし、途端にオーディアナは黙り込み、大人しくなってしまった。

王妃がどうしたのかしらと、オーディアナを覗きこむと、オーディアナは難しそうな顔をしている。

王妃はオーディアナが何を考えているのかすぐにわかった。


「私とロゼリアはね、幼なじみみたいなものだったの。それこそ自分が貴族の令嬢だって理解する前からね。確かに令嬢どうしって、表面的な付き合いばかりだけど、私たちは違ったわよ。パーティーから一緒に脱走したこともあったわ……この前のあなたみたいにね」


王妃はオーディアナににっこり笑いかける。

その笑顔はオーディアナに、歳はオーディアナの母と同じくらいなのだから、そこそこいってるはずなのに、まるで同い年の友達と話しているような気にさせた。

しかし、オーディアナは今言われた言葉に戸惑った。


「あっ……それは、なんのことか私……」


王妃は戸惑うオーディアナを見て、より一層大きな笑みを浮かべ、


「警備のこと考えなおさなきゃいけないわねぇ。でもあの身のこなし、すごかったわぁ―! 誰と行ったの? 」


と言う。

どうやら同伴者は誰だかばれていないようだ。


――隠しきれない――


オーディアナはそう思った。


「あの、父様に言いますか? 」


オーディアナが恐る恐る聞くと、返ってきた答えは意外なものだった。


「いいえ、言わないわ。あなたの気持ちわかるもの。言ったでしょ、私も昔あなたのお母様とパーティーを抜け出してたって」


オーディアナは安心のあまりに、力が抜けてしまった。


「はぁ―、よかった……でもどうして知ってるんですか? 」


王妃は少し悩んだ後、


「それはね、私の秘密のお部屋から見てたの」


とオーディアナに微笑む。

オーディアナは首を傾げて聞き返す。


「秘密の部屋? って……」


王妃は笑顔のまま


「ぅふふ、とっても眺めが良いのよ。あなたのお母様は来たことがあるわ。いつか、機会があったらあなたも入れてあげるわ」


と答えた。

オーディアナは気になってしょうがなかったが、今は諦めることにした。

しかし王妃は諦めないようだ。


「でっ? どなたと街に行ったのかしら? 」


と笑顔で聞いてくる。

オーディアナはとびっきりの笑顔で、


「秘密です」


と答える。

王妃は諦められないようで、


「あらひどいわ! ぅーん……じゃあ当てたら答えてくれるかしら? 」


と聞く。

まるで中学生が好きな人のあてあいっこをしているようだ。

オーディアナはクスクス笑い、


「当たったら、ですからね。王妃様には絶対にわからないですよ」


と言った。



二人が中庭で話していると、廊下を誰かが歩いてきた。

それはフィークスだった。

フィークスは中庭にいる王妃とオーディアナに気がつき、二人のもとにやってきた。


「王妃様、お久しぶりですわ。」


ドレスの裾をつまみ挨拶する。王妃はにっこり笑い、


「あら…コルコット伯爵の、ほんと、お久しぶりですわ」


と言った。

しかしオーディアナはその笑顔に違和感を覚えた。

しかし考えている暇もなく、フィークスに声をかけられた。


「あなたも久しぶりじゃない、オーディアナ! あなたが王城にいるなんて、雪でも降るのかしら? 」


オーディアナは笑って、


「久しぶりね、フィークス。そんなことないわよ、まったくあなたってば! 」


と答えた。

しかしオーディアナは疑問だった。

例え伯爵家といえど、王城に簡単には入れない。

オーディアナは由緒正しき公爵家で、頭首である父が王の下に仕えているうえ、王の相談役のような立場にいるため、今日だって城にいれてもらえた。

しかしフィークスは、伯爵家の人間、しかもコルコット家は昔お金で爵位を買った、いわゆる成金貴族だった。

王国祭にぎりぎり王城に入れてもらえるくらいのものだったのだ。

しかしその疑問はすぐに解けた。


「フィークス嬢……だったわね、また何か持っていらしたの? 」


――………あぁっ! コルコット家って確か貿易関係だったな。王に貢ぎ物持ってきたのか――

オーディアナは王妃の言葉で思い出した。

しかし、オーディアナはその時気がついた。

王妃は笑っているがその言葉には、微かに、今まで話していたからこそやっと気がつくくらいに、刺々しいものがあった。


「外国から珍しいワインが入ったそうなんです。」


フィークスはそれには気がつかず、笑顔のまま話す。


「まぁ、素敵ね。それでまたお父様と一緒に城に来て下さったのね」


と笑顔を崩さず言う。

二人は淡々としたやり取りをしていた。

それは、今さっきまでオーディアナとしていたような和やかなものではなく、

何となく気の張ったようなやり取りだった。



「あっ、そうだわ! 私騎士団の練習場を見たかったんでしたわ。見学してもよろしいですか王妃? 」


とフィークスは尋ねた。

それに王妃が答える前に、オーディアナが反応した。


「騎士団の練習場へ行くの!? 」


王妃は驚いて言った。


「あなた剣に興味が? 」


オーディアナはすかさず答える。


「えぇ! 私もみたいわ! 」


目を輝かせるオーディアナを見て、王妃はにっこり笑い、


「なら練習場に行きましょうか! 」


と言った。



三人は隊員たちが剣の稽古をする、練習場に来ていた。


「ジェラード! 」


王妃は練習場にいた、いかにも強そうな王妃と同じくらいの歳と思われる男性に声をかけた。


「エリザベス……様!? 」


ジェラードと呼ばれた男性はとても驚いた様子で近づいてきた。


「あなたがここに来るなんて珍しい! 」


王妃はにっこりと微笑む。

すると、王妃の後ろにいたフィークスが前に一歩出て言った。


「こんにちは、総隊長。練習見てもよろしいですか? 」


オーディアナはフィークスの図々しさに驚き、焦った。

王妃と話している間に割り込むなんて無礼にも程がある。

オーディアナはとっさにフィークスの腕を掴んでしまった。


「ちょっと、フィークス! 」


しかしフィークスは平然としたまま、

何?

といった顔でオーディアナを見た。

すると、ジェラードがオーディアナを見て、王妃にたずねた。


「エリザベス様、この方は……」


王妃は嬉しそうに答える。


「やっぱりわかったわね! 似てるでしょう? 性格までそっくりなのよ! 」


オーディアナは首を傾げた。

そんなオーディアナを見て王妃は、


「紹介するわ、この方は宮廷騎士団総隊長のジェラードよ。ジェラードはね、私の幼なじみなの。つまり、あなたのお母様の幼なじみでもあるのよ」


と言った。


――あっ、だからさっき一瞬呼び捨てに……――


そして王妃は、ジェラードに向き直り、


「ランコート公爵家の令嬢オーディアナよ。」


ジェラードはにっこり笑い、


「あなたがあのロゼリアの娘さんか! よく似てるなぁ」


と言った。

オーディアナは少し照れて、


「ありがとうございます」


と応えた。

そして急にジェラードは、


「今隊員たちが稽古してますよ、見ても対して面白くはないでしょうが……こっちです」


と言いながら、三人を案内した。



そこでは隊員たちが剣の打ち合いをしていた。


『キンッ! ガチンッ! 』


「これは第二、第三小隊です」


ジェラードは三人に説明する。

フィークスはキョロキョロしていたが、


「あら、今日は第一小隊いないのね」


とあからさまにがっかりした様子で言った。


「久しぶりに来たわ。懐かしい」


王妃は昔を思い出すように言う。


「昔はね、あなたのお母様とよく見に来てたのよ」


「そういえばよく見に来てたな。ロゼリアは剣持って稽古に参加してた」


王妃とジェラードは笑いながら話す。

オーディアナは聞いたことのない母の話しに興味津々だった。


「母様も剣が好きだったのね! 」


そんなオーディアナにジェラードが聞いた。


「あなたも剣がお好きなのですか? 」


オーディアナはにっこり笑い、


「パーティーよりもずっと好きだわ」


と言った。


そんなことを話していると、休憩に入ったのか隊員たちが暑そうに、外へ行く。


「私、行ってきてもいいですか? 」


オーディアナが王妃とジェラードに聞くと、

二人が頷いてくれたので、外へ行ってみることにした。


隊員たちはみんな地面に座り込み、汗を拭いたり水を飲んだりしていた。

オーディアナは先程打ち合いをしていた中で、特に強かった隊員に話しかけたけた。


「はじめまして」


話しかけられた隊員は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニカッと笑い、


「こりゃ、びっくりだな! 王妃と一緒にいたお嬢様じゃないですか。」


と言った。

そしてその隣にいたもう一人の隊員が


「しっかし、なんでお嬢様がこんな汗くさいところに? 」


と尋ねた。

オーディアナはクスクス笑い、


「あなたたちの剣をみたの、素晴らしかった! 私、オーディアナです」


と自己紹介し右手を差し出した。


「嬉しいな。俺はガラッド、第二小隊の副隊長です」


と言いながら、ガラッドはオーディアナと握手をした。

そしてガラッドの左隣にいる隊員のほうをむいて、握手をもとめた。


「俺はロナウドといいます」



オーディアナはにっこり笑って二人に尋ねた。


「あなたたちは誰に剣を習ったの? いつから剣をもってるの? 」


「俺達ですか? 家でも一応剣は習ってましたよ。あの頃は自分が一番強いって思いこんで、意気揚々とここに乗り込んできたら……」


とロナウドが答える。

それに続けて、


「総隊長にこてんぱんにやられて、俺達はずたぼろ。そんで、入隊してから先輩とか総隊長にシバかれながら練習してました」


とガラッドが言った。


――家でもか、下級貴族の出かな――


騎士団に入隊を志願する者は多いが、それは狭き門。

選ばれた者しか入隊は許可されない。

貴族であろうが平民であろうが、剣の才があるもののみが入隊出来るのだ。

たとえ総隊長にこてんぱんにされたと言っても、ここにいる隊員たちの剣のうではみな確かだろう。


「もし、あたしがここにきたら剣を教えてもらえるかしら? 」


オーディアナが尋ねると二人は、

えっ!!!??

っと言い、声を揃えて


「「いやいやいやだめです!!! 」」


と叫んだ。

オーディアナはため息をつき、


「やっぱり迷惑か―」


と呟く。

二人は慌てて付け加える。


「「違います違います!! 」」


ガラッドは少し困った様子で説明する。


「お嬢様にはちょっとキツすぎるだろうし……」


ロナウドが

それに、

と付け足す。


「女性なんだから、なにもこんなとこで練習しなくても……家で軽く習うのじゃだめなんですか? 」


オーディアナは

うぅっ

と顔を引き攣らせた。


――もちろん家では習ってるけど、雇ってる先生が私より弱いんだもの―!! ――


オーディアナが頭を抱えていると、後ろから声が聞こえてきた。


「はははっ、ほんとにやることまでロゼリアと同じだなぁ」


「「ジェラード隊長! 」」


ガラッドとロナウドが声を合わせて言った。


「そろそろ中に戻れ」


ジェラードが二人に言う。


「あっ……! せっかくの休憩を邪魔してごめんなさい」


中に戻ろうとする二人に、オーディアナは慌てて謝った。

二人は、

とんでもない、また来てくれ

と言い、練習場に戻って行った。

オーディアナは羨ましそうに練習場のほうを見詰めたままでいる。

すると、ジェラードが


「剣の練習がしたいそうですね」


と言った。


「家に呼んでる先生じゃもうつまらないです。試合してもすぐに勝っちゃうし……ここなら強い人がいっぱいいるし、邪魔するつもりはないんですよ。でも見てるだけでも勉強になると思って……」


オーディアナは肩を竦めながら答える。

すると練習場のほうから、クスクス笑いながら


「あらっ! すごくいいと思うわ。教えてあげたら? 」


と言い、やってきた。


「エリザベス様……そうは言うが、彼女のことを考えろ。男だらけの中で練習させるのか? それに体力だって……」


とジェラードは言う。

しかし王妃は、


「別に大丈夫じゃないかしら? オーディアナが練習にくるときは私も見学にくるつもりよ? それに隊員じゃないんだし、疲れたら休めばいいじゃない、まぁそこは大丈夫そうだけど! 」


と言い、意味ありげにオーディアナをみる。


――そりゃあね、バルコニー跳び移って、木に飛びついて、柵乗り越えるのが余裕で出来んですからね……――


オーディアナも意味ありげに王妃を見詰めかえす。

ジェラードは悩みながら、


「ぅーん……父上がなんておっしゃるか……」


と言うと、王妃は嬉しそうに


「それは大丈夫よ! 夫から話してもらうわ。それにこの子が城に通うのには大賛成なはずだし! 私も会いたいもの! 」


と答える。

オーディアナは悩むジェラードを見て、


「あっ……でも私、そんなわがまま言うつもりじゃなかったんです。隊員さんたちに混じってなんて、迷惑ですよね……気にしないでください」


と躊躇いがちに言った。


「いやいや、そういうわけじゃないさ。むしろ歓迎さ! あなたがくれば、隊員たちの士気も上がりますし、何より人に教えるのは、良い勉強になる。ただあなたが屋敷でやっているような、良い環境ではないですよ? 剣術のほうは保証しますが」


ジェラードは慌てて答える。

そんな様子をみて、王妃は


「あら決まりじゃない! 」


と嬉しそうに手をパチンと顔の前で合わせる。


「まぁ……ランコート公爵の反応しだいってとこですね」


ジェラードはオーディアナに微笑む。


「ほんとですか! 」


オーディアナは満遍の笑みを浮かべ、喜んだ。




三人が練習場に戻ると、隊員たちは再び剣の練習を始めていた。

オーディアナは練習場の端っこにぽつんとつまらなそうに立っている、場違いな格好をした少女が視界に入った。


「フィークス! そんなとこにいたのね」


オーディアナはニコニコしながらフィークスのそばに行く。


「オーディアナ、どこ行ってたのよ? はぁ―、つまんない」


フィークスは少し不機嫌そうな顔をして言う。


「外で隊員さんたちとおしゃべりしてたのよ。なぜ? あなたが来たいって言ったんじゃない」


オーディアナは首を傾げる。


「そーだけど、剣の練習みても楽しくはないわ。第一小隊は勤務中みたいだし」


フィークスはため息をつきながら言う。


「そう? 楽しいじゃない、見るよりやるほうが楽しいけどね。もしかして誰か会いたい人でもいるとか?? 」


オーディアナはニヤリとしながら聞くと、


「やだ、オーディアナ! 」


と顔を赤くして叫んだ。


――あらら、図星? まぁあたしも人のこと言えないけどね――


「誰なのよ―教えてくれたっていいじゃない? 」


オーディアナが聞くと、


「いやよ、あなたにとられちゃうかもしれないわ! 」


とフィークスは笑って答えた。

すると、王妃とジェラードがやってきて、


「そろそろもどりましょうか」


と王妃が言った。




三人はジェラードに挨拶をして練習場を去った。

歩いていると、フィークスが思いだしたように言った。


「そーいえば、あなたがネックレス付けてるなんて珍しいわね? でもそれ、まるで平民が付けてるやつみたいだわ」


オーディアナは両手をネックレスの上にあて、


「確かにね、珍しいかも。これは特別よ。それに、あんな宝石付けまくったごちゃごちゃしたのは付けたくない」


と答えた。

フィークスは肩を竦め、


「街でだって、今は飾りがたくさん付いた、派手なのが流行ってるって聞いたわよ? まぁ、平民が貴族のまね事なんてやるべきじゃないと思うわ」


と言う。

オーディアナは眉間に皺をよせた。

フィークスの最後の言葉が嫌だったのだ。

ほとんどの貴族が、貴族という身分に誇りをもち、平民を見下す社会。

オーディアナはそれが気にくわなかった。


――昔はそんなこと言わなかったのに……最近のフィークスは変わってしまった。小さな頃は一緒に街にでて遊んだじゃない! ――


しかし、フィークスに言い返せず、オーディアナは俯いた。

そんな二人のやり取りを見ていた王妃が、


「でも、綺麗な石ね、あなたと瞳と同じ深緑」


と言った。

オーディアナは嬉しくて、


「ありがとうございます。いただいたんです」


とはにかんだ。

王妃が、

ふふっ

と微笑んでいると突然、


「フィークス! 」


という男性の声が聞こえた。

呼ばれたフィークスは男性を見ると、


「お父様! 謁見は終わったのですか? 」


と言った。

男性は三人に近づいてくると、


「これはこれは、エリザベス王妃! お久しぶりです」


と男性は挨拶した。

王妃は、


「お久しぶりですわ、コルコット伯爵」


と挨拶をする。

オーディアナも久しぶりにあったフィークスの父に挨拶した。


「お久しぶりです、コルコット伯爵」


コルコット伯爵はオーディアナを見ると、


「おぉっ! オーディアナ嬢! 久しいな、最近はあまり見かけなかったな」


と言った。

するとフィークスは伯爵に、


「お父様、疲れましたわ。かえりましょう? 」


と言った。

伯爵は娘にせがまれ、


「そうだな、それでは王妃、失礼します」


と言い、二人はさっさと帰ってしまった。

後に残された王妃とオーディアナは、ポカンと立っていたが、顔を見合わせると、二人ともクスクスと笑い始めた。


「なんだか不思議な親子ですね」


オーディアナが言うと、


「ほんと、嵐みたいだわ」


と王妃が返した。

オーディアナは疑問に思っていたことを聞いた。


「王妃は、あの二人が苦手みたいですね? 」


王妃はびっくりした様子で、


「……私、そんなに分かりやすい態度だったかしら」


と尋ねる。

オーディアナは真剣な顔で、


「いえ、ただほんの少し、違和感っていうか……ごめんなさい! 変なこと言ってしまって」


と言った。

王妃はクスリと笑い、


「いいえ、ほんとのことだわ……ただ、私や夫の目を、いえ、国王と王妃としての私達の目を気にして、機嫌をとられているのが私は嫌なのよ。あなたのお友達にこんなこと言ってしまってごめんなさい」


俯いて言った。

オーディアナは辛そうな顔をしながら、


「私も、そういうのは嫌いですよ。最近のフィークスは……昔は、一緒に街に抜け出して、誰とでも遊んだのに」


と王妃に言った。


「……なんだか暗くなってしまったわね、ごめんなさい。そういえば! 」


と王妃はニコニコしながら言うと、オーディアナの顔を覗き込んだ。


「えっ? 」


オーディアナが首を捻ると、


「誰から貰ったのかしら―? もしかして、騎士団員の方? 」


と言いながら、オーディアナのネックレスを指差す。

オーディアナは戸惑って、


「あっ、あの王妃それは……」


としどろもどろすると、


「そんな焦らなくてもいいわよ。誰かに言うつもりはないわ」

と王妃は微笑んだ。



――……母様がいるってこんな感じなのかな――



オーディアナは王妃の微笑む顔を見詰めかえしながらふと思った。


「さあ、かえりましょう」


王妃はオーディアナに手を差し出した。

オーディアナはニッコリ笑い、その手を握った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ