第二話 三度目の追放
「レイン、お前をこのパーティーから追放する。」
その一言は、あまりにも突然だった。
魔王領へと続く《黒霧の大迷宮》。
攻略拠点として設営された野営地に、重苦しい空気が流れる。
焚き火を囲む五人の視線が、一人の青年へと向けられていた。
後衛――レイン・アーク。
彼は黙ってリーダーの言葉を聞いていた。
「……理由を聞いてもいいですか。」
勇者カイルは腕を組み、冷たく言い放つ。
「理由?」
「決まっているだろう。」
「お前は無能だからだ。」
その場にいた誰も反論しない。
聖女は目を伏せ、大魔導士は興味もなさそうに魔導書を閉じた。
盾役だけが少しだけ申し訳なさそうな表情を見せたが、それでも口を開くことはなかった。
レインは静かに息を吐く。
「私は後衛です。」
「攻撃は最初から期待されていません。」
「支援なら――」
「その支援が弱い。」
勇者が言葉を遮る。
「お前の支援魔法はDランク程度だ。」
「攻撃もできない。」
「防御もD止まり。」
「レベルも三十。」
「これ以上、伸びる見込みもない。」
ギルドで鑑定されたステータスを、勇者は紙ごとレインへ投げた。
【名前】レイン・アーク
【職業】後衛
【レベル】30
【ランク】D
攻撃:E
防御:D
支援:D
誰が見ても平凡。
いや、平凡以下。
荷物持ちとしては優秀でも、戦力としては失格。
それが、この世界の評価だった。
「この前のワイバーン戦だってそうだ。」
勇者が続ける。
「お前は何をした?」
レインは答える。
「支援魔法を維持しながら、負傷者を後方へ運びました。」
「予備の武器も届けました。」
「回復薬の管理も――」
「だから、それが雑用だと言っている!」
勇者の怒鳴り声が野営地に響く。
「俺たちが欲しいのは戦力だ!」
「料理人でも荷物持ちでもない!」
「戦える仲間だ!」
沈黙が流れる。
レインは反論できなかった。
確かに、自分は一匹の魔物すら倒せない。
攻撃魔法は使えない。
剣も振れない。
防御もDランクが限界。
だから荷物を持ち、料理を作り、野営を整え、装備を管理してきた。
それが自分にできる唯一の役割だった。
勇者は革袋を放り投げる。
「報酬だ。」
「今まで世話になった。」
金貨が数枚、地面に散らばった。
「ここから先は危険だ。」
「お前は街へ戻れ。」
「……今日限りで終わりだ。」
レインは散らばった金貨を拾い集めた。
怒りはなかった。
悲しみも、もう薄れていた。
――これで三度目か。
最初のパーティーでは、
「戦えない後衛はいらない。」
二つ目のパーティーでは、
「成長しない寄生虫。」
そして三つ目。
「無能者。」
どこへ行っても同じだった。
レインは荷物を背負い直す。
最後に仲間たちへ向かって頭を下げた。
「短い間でしたが、お世話になりました。」
誰も返事はしない。
背を向けたレインは、一人で迷宮を後にした。
その背中を見送りながら、勇者は吐き捨てる。
「これで報酬も増える。」
「荷物持ちが一人減っただけだ。」
誰も、その言葉を否定しなかった。
しかし――。
その瞬間から誰も気付かないまま、パーティーは最も重要な存在を失っていた。
レイン自身も、まだ知らない。
自分がいなくなった瞬間、仲間たちにかかっていた支援が静かに消え始めていたことを。
そして、その力こそが世界最強のパーティーを生み出す、本当の才能だったことを。
レインは夕暮れの街道を一人歩く。
行く当てもない。
帰る場所もない。
ただ一つだけ思った。
「もう……冒険者は終わりにしよう。」
だが、その決意は翌日、一人の少女との出会いによって大きく変わることになる。




