表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

第4章:仕組まれたカウントダウン


ジェイク・マーサーの自宅から、全世界へ向けた生配信が開始された。


開始からわずか数分で、同時視聴者数は瞬く間に5万人を突破していく。


『ヘイヘイヘイ! 待たせたなルーザーども! 今日の配信はいつもと一味違うぜ!』


画面の中のジェイクは、すでにかなりのアルコールが入っているのか、顔を赤くして大声で笑っている。


その手には、案の定、黒光りするアサルトライフル『AR-15』が握られていた。


【マジで銃持ってるじゃん!】

【JAKE IS CRAZY!!】

【これBANされないか?】


コメント欄が爆発的な速度で流れ始める。


その興奮の波を、ジェイクは脳内麻薬のように貪っていた。


だが、彼がカメラに向かって銃を自慢しているその瞬間。


太平洋を隔てた日本の暗い自室で、真の指がキーボードを叩き、真の復讐劇プログラムが『本番』へと移行した。


「――作戦ミッション、コード『スワッティング・オートメーション』。実行」


真のPCから、アメリカのロサンゼルス市警察(LAPD)の緊急通報指令室ディスパッチへ向けて、不可視のデータ群が射出された。


真が構築したAIは、まず現地の通信網をハッキングし、ジェイクの自宅にほど近い一般家庭の固定回線を踏み台にしてIPアドレスを偽装。


そこから、警察の緊急通報用チャットシステムと、音声通報ラインを同時にジャックした。


『タ、スケテ! 夫が、夫が銃を乱射しようとしてるの!』


通報ラインに響き渡ったのは、恐怖に引き裂かれたアメリカ人女性の悲鳴。


ジェイクの過去の動画からサンプリングした「クリスの恋人の声」をベースに、AIが喉の震え、息遣い、バックに流れる「ジェイクの配信の怒号」までをリアルタイムで完全合成したフェイク音声だ。


さらに、警察の指令室のモニターに、一つのリンクが弾き出される。


『夫がネットに投稿した犯行声明動画』と題されたそのデータを開いた警察官は、息を呑んだ。


そこに映っていたのは、暗い部屋でAR-15を構え、


『今から街に出て、突撃してサムライどもをぶち殺してやる!』


と狂気的な笑みを浮かせて叫ぶジェイクの姿だった。


――もちろん、これもフェイク動画ディープフェイクだ。


ジェイクが日本で悠人を脅した際の音声から「サムライ」という単語を抽出し、過去の別動画の銃の映像と、AIによって合成された唇の動き(リップシンク)を寸分の狂いもなく融合させたもの。


どれほど高度な鑑識であっても、数分や数十分の目視では、これが人工的に作られたものだとは決して見抜けない。


「直近で発生したロサンゼルス近郊の銃乱射事件のデータを学習させ、現在の警察の警戒レベルは『最高』」


真は淡々と画面を見つめる。


「さらに通報音声に意図的なノイズを混ぜることで、現場の焦燥感を煽る」


指令室のログが書き換わっていく。


【重大テロ案件と断定。容疑者は自動小銃を保持。精神的に錯乱状態。SWATの緊急出動を要請】


アメリカという国家が持つ最強の暴力装置(SWAT)が、真の書いたコード一つで、ジェイクという一人のクズを圧殺するために起動した瞬間だった。



何も知らないジェイクのスタジオでは、コメント欄の様子が目に見えて変化し始めていた。


【おい、ジェイク、お前の住所がリークされてるぞ!】

【ガチで警察に通報した奴がいるっぽい】

【外からサイレンの音がする!】

【STOP JAKE!! IT'S REAL!!】


不穏な空気を感じ取ったクリスが、青ざめた顔でスマホをジェイクに見せる。


だが、泥酔し、AIボットに「無敵の男」と煽られ続けたジェイクの脳は、すでにまともな危機感を失っていた。


「あ? サイレン? ハハハ、お前ら最高だな!」


ジェイクは大笑いする。


「リスナーの誰かが配信用にサイレンの音でも流してんのか? それとも、またいつものドッキリ(スワッティング)かよ!」


ジェイクはカメラに向かってAR-15を突き出し、これ見よがしにチャージングハンドルを引いた。


ガチャン、と。


本物の金属音がスタジオに響く。


「おい見ろよ! コメント欄で『SWATが来るぞ』って騒いでる! 同接が9万を超えた! お前ら最高だな、もっと盛り上がれ!」


狂ったように笑うジェイク。


その直後。


スタジオの防音壁を透過して、本物の、現実の、地を親うような重低音のサイレンが微かに響き始めた。


それと同時に、遮光カーテンの隙間から、無数の「赤いドット(レーザーサイト)」の光が差し込む。


赤い光は、ジェイクの胸元を不気味に照射し始めた。


ジェイクはまだ、それをリスナーが仕掛けた配信用の演出だと思い込んで、下品に笑い続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ