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天穹白騎譚ナイツ&ビースト-死神の少女-  作者: ムロ☆キング
3章 アメイジング・グレイス・アース
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1話 ソード・オブ・グレイトブラッド

 ———テレシア連邦へ宣戦布告がされた二時間後。クルセイダとスレイが引き渡される数時間前———。


 聖サングリア帝国が誇る、帝都ノルンブルム。その中央で燦然と輝きを放ち続ける黄金宮殿こそ、我らが朽ちぬ意志、気高き伝統……帝国の、揺るがぬ覚悟の象徴である。


 右の手のひらで、立てかけた剣の柄頭を撫でる。鷲の頭部を模した彫刻の凹凸を確かめながら、玉座の背にもたれた。


 突如として現れた謁見者。薄い赤茶色の布地を何枚か巻いただけの、見すぼらしい格好をした僧侶は、深紅の絨毯の上で胡坐をかいたまま座っている。男は、素足だった。


「では、余の真意を問うためだけに『聖域』を離れ、供も連れずに遠路はるばるやってきたと? ヴァーン大導師ともあろう御方が」


「だから、そう言っておるだろう。お前さんがしかけた策は、どこを見据えているのか。それを直接問いただす為に、やってきたのだ。……徒に国を奪う者が人類を導く王になるなど、おこがましいとは思わんか」


「まったく思わぬ。混沌の底に沈む人類を浚いあげ、光を齎す為には避けて通れぬ犠牲よ。人の道を説かれるのであれば、連邦にこそ向かわれるべきではないか? 国力でも兵力でも、いかなる面で我が帝国に劣るにもかかわらず、無謀にも抗う道を選んだあの国に。まったく度し難いものだ。大人しく、属国となる道を選べばいいというのに」


「ふん、傲慢な男だな。もっとも、そうでなければ皇帝などなれはしまいが。仮に世界の統一が成ったとして、黒霧災害現象フォグ・カラミティはどうするつもりだ? あれは星が抱えた病そのもの。しかも、とびっきりの大病だぞ」


「内に溜まる膿であれば、出し切るまでのこと。その為の力を我らは手にしている」


「……あのような方法では荒魂あらみたまを鎮めることはできん。根源を断ち切らねばいつまで続くぞ」


「聖者の葉に刻まれた光輝く文字。天地開闢の創生譚か。……実に下らぬ。失礼だが大導師よ。そのような人心を惑わす言葉こそ、真実を覆い隠し、脅威に立ち向かう力を削ぐ罪深いもの。我々が信ずるものは、堆積した歴史と誇りで充分よ」


「……血の精神か。独裁者の思考よな。まぁ、それもよかろう。伝承を託すに値する者は、やはり違ったということだ」


「はたして、そのような者が現れますかな。希望だけを抱き、機を逸した人間がこれまで何人いたか。余が果たさんとしているのは、覇者の務め。……いい加減認められよ、大導師。そなたらの導きは、もはや不要なのだ」


 腕組みをしていた手を解き、膝につきながらゆっくりと立ち上がる。剃り上げた褐色肌の頭をひと撫でしたあと、片方の眉を上げて奇妙な表情をつくった。


「……調和の器は既に目覚めた。我々は導き、また導かれればいいだけなのさ。そんなに肩ひじ張らず、大いなる流れに身を任せれば良い……」


「……用件は、以上ですかな? では賓客用の部屋へ案内させましょう。長旅でさぞお疲れのはずだ。心を尽くした歓待でもてなす故、ゆるりと休まれよ」


 逆手で剣の柄を握り、鞘先で床を打つ。高い天井に響くその音を合図に、壁際に控えていた兵士がヴァーンの元へと歩み寄り、王の間から連れ出していく。


 両開きの分厚い石造りの扉の向こう、その後ろ姿が見えなくなってから「敗北者め」と吐き捨てる。


「なにを言いにきたのかと思えば、あれでは負けた言い訳ではないか。大導師という肩書も、存外暇らしい」


 カツ、と右の背後から軍靴の跫音に、半分だけ顔を向けた。天幕から姿を現したのは、鉄仮面をした女将軍。原型機アーキタイプジェヌヴを駆るパイロット。


「どうだ? テレシア連邦の者どもは。退屈しのぎ程度にはなりそうか?」


「恐れながら陛下。あの程度ではまったく。南部戦線などは、レンファの大隊だけで事足りてしまいそうです。わたくしの出る幕もなく、戦は決するでしょう」


「なに? それほどか。パイロットの技量差か、第四世代機との性能差か。いずれにせよ、これでは面白みのない戦となってしまうな」


「ええ、命のやり取りは血沸き肉躍る、熱を帯びた営み。このように冷めたものではありませんもの」


 覗き穴以外は装飾すらない、その冷たく無機質な仮面の下、快楽を待ちわびる表情がたしかに浮かぶ。


「そう意味では、面白そうな報告がありました。先の海上プラント攻略のおり、連邦の者たちではない、共和国の部隊もビーストの対応に当たっておりました。その時に、例の白いアーキタイプが発見されたそうですわ」


「ほう。たしか半年ほど前、貴様が撃墜したと報告があったはずだが。仕留め損ねたのか」


「まさか。あれほど甘美な時間を過ごしたのですから、きっちり止めを刺しております。それに積み込まれていた動力炉を奪い、持ち帰ったのです。お忘れですか?」


 そのどこからか強奪してきたという、新技術の動力炉が第四世代機の完成に大きく貢献したのだった。帝国が誇る技術者たちには、神より賜った奇跡の産物とまで称する者が多くいた。


 表現は気に入らないが、人類の手で創り出されたものに違いはない。であれば、我が覇道に大いに役立たせるまでのこと。


 そうやって、帝国は現在の強靭な覇権国家としての姿を得たのだ。


「はたして、どのようにして運用できたのか。そして、誰を乗り手としているのか。とても気になりますわね。あの機体はジェヌヴ同様、乗り手を選ぶ特別なもの。他の兵器ドールズとは違いますから」


「……兵器は兵器。それ以上でなく、以下でもない。あまり下らぬ価値観を持つことは、余が許さぬ。例え、貴様であろうともな」


「まぁ、怖い。しかし、これもまたお忘れなきよう。陛下と私の間には、守られなくてはならない契約がある。私のお願いには、快く応じていただくという契約が」


 まるで蛇のような双眸が、暗闇からこちらを睨めつけている。蠱惑的で他者の心に悪戯に波立たせる声色は、身体の芯を冷たく捉えて離さない。


「……分かった。貴様の好きにするがいい。連邦に協力していたのだから、共和国政府子飼いの小鳥どもであろう? まったく、籠のなかで大人しく鳴いておれば、貴様という狩人に見つかることもなかろうに。哀れみすら感じさせることよ」


「ありがとうございます、陛下。楽しみにしていますね」


 そう言って、女将軍の気配が天幕の影に消えた。


 ひとつ鼻を鳴らし、玉座から立ち上がる。鞘先で強く床を打ち、「宰相を呼べ」という己の声が木霊した。


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