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今日も異世界ライフを満喫中  作者: ツヴァイ
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ユーリは、ウィリアムが白鹿亭を訪ねて来てから1週間後に王宮に行きたいと連絡した。


 ユーリはいつものモノクロのコーディネートの洋服に大きなバスケットを持っている。バスケットの中身は、ウィリアム用のお菓子、今回はシフォンケーキと魔道室長のフィー用に胡桃入りのクッキーが入っている。


「じゃあ、行ってくるね」


 白鹿亭の勝手口から表通りへと出て、王城目指して歩く。今日も王都の大通りは賑わっている。野菜を売る人、宝石を売る人、肉を売る人、武器や武具を売る人とそれを見て回る人など様々な人が行き交う。人混みを縫うように歩いて王城前まで辿り着いた。


 騎士団長であるウィリアムが既にユーリが来る事を衛兵に伝えてあるので、名前を言えば通してくれるように話が通っているとガンツが言っていた。

 王城の門を守っている鋭い目付きの衛兵に怖々と声を掛けるとちゃんと話が通っていた。名前を言った瞬間に萎縮されて何故か敬礼されたユーリ。困惑するユーリを置き去りにして、衛兵に直ぐに城の中へと通された。


 目付きの鋭い衛兵はユーリの前を右手と右足と一緒に出して歩いている。歩きにくくないのだろうかと思いながらも話し掛けられずに長い廊下を歩く。

 暫く歩いていると騎士達が訓練する訓練場の傍を通り掛かった。

 刃を潰した剣で模擬戦をしているようだ。歩きながら、その様子を眺めていると一人の騎士と目が合った。すると、その騎士は隣の騎士に話し掛けて此方を見る。その様子に他の騎士も此方を振り返る。

 彼等の表情は様々でユーリの全身を舐めるように下卑た視線を向ける者、興味深そうに見詰めてくる者、視線を向けるが直ぐに無関心になり視線を外す者、頬を染めて熱心に見詰める者、瞠目している者、憎悪で顔を歪める者。

 多数の騎士に見詰められて居た堪れないユーリは足早にその場を離れた。


 連れてこられたのは騎士棟だった。騎士棟の中に入り、1番上にある部屋へと連れてこられた。中に入るように促されて室内へと足を踏み入れると、


「少し、お待ち下さい」


 と、言って扉を静かに閉めて出ていき、室内に一人取り残されたユーリはソファに座る。


「解せぬ」


 一言そう溢した。衛兵や騎士達の態度がおかしい。ユーリは一般市民で平民だ。なのに衛兵の態度が恭しいし、何か怖がっているような気がする。

 騎士達も品定めするような目が気になった。判断できる情報が少なくて予想する事も難しい。うむむ、と唸っていると扉がノックされてウィリアムが入って来た。


「こんにちは、ユーリ。よく来てくれました」


 ニコニコしているウィリアムの手には引き摺られるフィーが居た。熱心に何かの本を読んでいるようだが、ユーリからは見えない。


「こんにちは、ウィルさん」


 ユーリはソファから立ち上がるとペコリとお辞儀した。


「ん?この声は…」


 ユーリの声を聞いて本から視線を上げたフィー。彼が赤紫色の瞳をユーリに向けると嬉しそうに笑う。


「やあ、看板娘さんじゃないか」


 いつも食堂にいる無表情の彼が笑っている事に少なからずユーリは、ビックリしていた。

 綺麗なフィーが笑ったらどんなに綺麗だろうと何度思った事か知れない。

 料理を待っている彼は無表情で料理を食べている時も難しそうな顔をするばかりでこんなに笑う姿を見たのは初めてだった。

 美形が笑うとこんなに破壊力があるのかと納得するユーリ。


「あ、お二人にお菓子を持ってきたので、よければ食べて下さい」


 思い出したようにバスケットから皿を取り出して、二人の前に用意していく。ユーリが用意してくれているので、二人はソファに座って待つ。


「ウィルさんには、シフォンケーキです」


 皿に切り分けたシフォンケーキを乗せて、生クリームを横に添える。その甘い匂いにウィリアムが目を輝かせている。

 整った容姿のウィリアムの憧れのヒーローに会った時の子供のような反応にユーリの頬が綻ぶ。


「フィーさんには、こっちの甘さ控えめの胡桃入りのクッキーを焼いてきました」


 胡桃の香ばしい匂いを嗅いだフィーが興味津々でクッキーを凝視している。


「僕は甘いものがあまり得意では無いんだよ。よく分かったね」


「なんとなくです」


 フィーが食堂で食べる料理はあまり甘い味付けをしていないものばかりだったし、間違えて甘めの味付けのものを食べた時のあの、なんとも形容しがたい表情を読めない人はいないとユーリは思った。


「凄い観察眼だね」


 やはり素直に誉めてくれるのは気恥ずかしい。少し顔を赤らめつつも二人の前にお菓子を出して、持って来ていたポットからお茶をカップに注ぐ。


「うん。美味しいですね」


 幸せそうにウィリアムがシフォンケーキを頬張る横でフィーが胡桃の食感を楽しそうに噛み砕いてある。


「うん、素晴らしいね。やはり、君の料理にはバフがつくね。クッキーには状態異常回復、シフォンケーキには体力回復だね」


「バフ?」


「補助効果魔法って言えば良いのかな。簡単に言うと君の料理を食べると元気になるって事だよ。凄い事なんだよ!」


「へぇー」


 いまいち分かっていないユーリ。反面フィーは凄い興奮状態だった。そして、ウィリアムは我関せずでシフォンケーキの2つ目を食べている。


「君も知っているだろうけど、この世界…ティエラは精霊によって構成…造られて維持されているんだ。見た事無いかな?こう、…何て言うのかな?光?なんか、光ってて漂っている~…」


「魔力を持たない者には分からないと思うぞ?」


「いや、彼女は持ってるよ。それも底知れない程の莫大な量を持ってる。本人に自覚がないだけだよ」


 なんとか説明しようとするフィーの言葉で町で見かけた青い石に止まっていた光る蝶の事を思い出した。


「光る蝶?」


「それ!君には蝶に見えたんだね。見る人によって様々に形を変えるけど、それが精霊だよ」


 あの頼りなげに光る蝶が精霊なのだと言われてもフィーの話している世界を構成する精霊と結び付かない。


「精霊は色々いるのですよ。ユーリの見たのは本当に小さな力しか持たない幼子のようなものですよ」


 いつの間にかシフォンケーキを全て食べてしまったウィリアムが話に参加しだした。


「世界を維持しているのは最も力の強いものだよ。精霊にも統べる存在『王』が存在している。その王を頂点に精霊はこの世界を管理しているんだ」


 なんとなく分かったような気がするユーリは頷いた。やっと理解してくれたようだと安堵の溜め息を漏らすフィー。


「そんな尊い存在である精霊に祝福されている人しか補助効果魔法は使えないんだ。不思議とね」


 好奇心で目を煌めかせるフィーの勢いにユーリはたじろいだ。


「フィー、それは良いから。本題を」


 そもそも王宮に来たのは冷蔵庫の開発についてだった事を思い出した。フィーもそれを思い出したのか、1つ咳払いすると、


「あんたが言っていたと言う『れいぞうこ』だが、作ることは可能だよ。魔石を使えば簡単だ」


 この世界ティエラには、魔術と精霊魔法とがある。魔術は空気中に存在するウィータを消費して術を使う。そして、ウィータが長い年月を掛けて凝り固まって出来たのが魔石だ。魔石は、とても貴重で高価だ。持っているのは身分の高い者やお金持ちの者位だ。主に魔石は、燃料として使われている。光を灯したり、水を出すのにも使っている。


 魔石があれば、お風呂が格段に進化するのだと一瞬浮かれたが、貴重で価格が高い事を理由に断念したユーリ。だから、ガンツやナンシーは魔石という存在を知っていたが、言わなかったのだろうと思った。


 更に精霊魔法は、自分の中の魔力を精霊に渡す事で発動できる。これがなかなか難しい。まず、精霊とコンタクトを取る方法が無いし、取れたとしても気に入られるか分からない。精霊魔法は使い手がほとんどいない古代魔法だと言われている。


「あの…私、精霊石を持ってますけど?これって使えないんですか?」


ポケットから取り出した青い石を見せる。


「は?…はあ?……はあああああぁぁぁぁ!!!!」


 精霊石は精霊の多い場所にしか無い。しかし、精霊が多い場所と言うのは此方の世界では無い。


 次元が違うのだ。ここの世界と平行したもう1つの世界にいる。

 つまり精霊石はこちらではなく、あちらから何らかの形で突発的にやって来たものだ。魔石よりも余程に価値が高く、貴重だ。下手をすれば至宝。

 そんなものをユーリは持っているのだ。驚かれるのは無理無いことだった。


「あんたは!僕が!どれだけ!」


 取り乱すフィー。ユーリの肩を掴み激しく揺さぶる。そんなフィーの様子に最初こそ取り乱していたが、フィーの方が余程に取り乱すので、冷静になれた。自分よりも取り乱す姿を見ると逆に冷静になれると言うのは本当の事だったのか、と考えているユーリ。


「落ち着け」


 一言そう言うとウィリアムはフィーの首もとへ手刀を決める。フィーは、うっと言って気絶した。


「少ししたら起きるからそのままにしておきましょう」


 にっこりと笑うウィリアム。なんとなくここに来るまでの目付きの鋭い衛兵の態度に合点が言った気がした。






読んでいただき、ありがとうございます。

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