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ウィリアムの言葉通りに少ししたら首もとを擦りながらフィーが復活した。
「それはとても貴重な物だよ。信用出来ない者に見せると殺されて奪われるよ。僕だって、喉から手が出るほどに欲しい。だから安易に教えない方が良いよ」
フィーが検証したい実験にはどうしても精霊石が必要で八方手を尽くして探したが、幻である精霊石は結局見つからず、その実験は中止になった。
魔石がウィータが凝縮して出来るが、精霊石は石に精霊の力が宿る。
一見希少価値が高いのは魔石に思うかもしれないが精霊石の石は、そこらにあるものではなく精霊界に存在するもので構成された石だ。普通の石とは違う。精霊界の物は精霊の力が宿りやすいという特性がある。それは、精霊の力がより強く宿るという。
その分、魔石よりも高威力の魔術を発揮する。
「はい、ごめんなさい」
「なんだ?どうして、彼女が落ち込んでるんだ?」
声のした方を見るとフィーと一緒に食堂に来ていた金の髪に深い青い瞳の美青年が扉にもたれ掛かっていた。
「…誰?」
「殿下!?」
二人が驚いて立ち上がる。
「殿下?」
こてんと首を傾げて端整な顔立ちの青年を見上げる。すると青年は今まで見た事がない程に蕩けるような笑顔をユーリに向けた。
その笑顔を見たユーリの頬が引き攣り、笑顔の射線上に居たウィリアムとフィーは、驚いた表情をしている。
「食堂によく行っていたんだけど、名乗ってなかったね。私はケントルム王国第一王子アーサーと言う。一応、王太子をやってるよ」
にっこりと笑ったアーサーに対してウィリアムとフィーは未だに驚いた表情のまま固まっている。そんな二人の態度にユーリは不信感が湧いてきた。
「何故、殿下がこちらに?」
固まっていた二人だったが、ウィリアムの硬直がやっと溶けた。
「うん?彼女が来ていると聞いたからだよ」
「……」
「僕は情報を漏らしてないからね!」
慌てて手と首を全力で横に振りだすフィー。その勢いに首が取れてしまわないか心配するユーリ。
「そうだよ。フィーは漏らしてない」
その言葉で3人は瞬時に察した。王子という高い身分の彼には私兵である諜報員が多くいる。その誰かがアーサーに情報をもたらしたのだろうと。
「それで、フィーさん冷蔵庫なんですが…」
「うん。取り合えず、僕の方で1回サンプルを作ってみるよ」
アーサーの存在を脇に置いて、王宮に来た本来の目的の話をしていく。
サンプルの大きさを大体と細かい所を話し合う。
「冷却するだけだと一点だけが冷たくなるだけなので、風を循環させるように…」
二人が話し出すとアーサーは、しょんぼりと落胆したようにソファに座る。
「ああ、そうだね。だったら、…」
アーサーはユーリとフィーの話し合いをじっと見ている。ユーリがたまにちらりとアーサーを見ると嬉しそうにぱっと晴れやかに笑う。
ユーリはその笑顔に若干引く。そんな様子のユーリだったが、アーサーは気にせずに1人ニコニコと嬉しそうにしている。
「ユーリ、そろそろ帰らなくて大丈夫ですか?」
ウィリアムの言葉でユーリは顔を上げた。窓から指す太陽の光が大分傾いている。
急いで帰り支度しているユーリに事も無げにアーサーが声を掛ける。
「泊まって行かないのか?」
その言葉で固まる3人。なんで王宮に止まらないといけないのかと疑問符を浮かべるユーリに流石にそれは…と考えるウィリアム、遂にとち狂ったとフィーも呆気に取られる。
「………いえ、帰ります。失礼します」
その言葉で唇を尖られせていじけるアーサー。
「……いつでも、おいで……………嫁に(ボソッ)」
その小さく呟いた言葉にぎょっとしたウィリアムとフィーはアーサーを凝視するが、本人はあっけらかんとしている。ユーリには幸か不幸か、聞こえていなかった。
「遠慮します」
バスケットを持ち、部屋を出ようとする。ウィリアムが扉を開けてくれたのでお礼を言ってから部屋を出た。
長い廊下を歩いていると騎士や衛兵の視線がユーリを見てから後ろの方へと移動していく。
「送っていくのは紳士の嗜みだよね」
良い笑顔のアーサーが早足にユーリへと近付く。ウィリアムとフィーがなんとも言えない表情でユーリを見た。
上機嫌でユーリの横を歩くアーサーにユーリは、そっと小さく嘆息した。
ユーリは彼の態度に辟易していた。元々ユーリは、強引な人や自信家が苦手だ。
ティエラに来る前のユーリの周りには、彼女に振り向いて欲しくて、自分を誇張する男性や自分を良く見せようと嘯く男性がひっきりなしだった。それでもユーリに振り向いてもらえなくて、相手がしびれを切らせて強引に交際を迫る事が何度も起こり、ユーリは強引な人や自信家などが苦手になり、男性不信になっていった。
だから好意が見え隠れするアーサーの強引な行動に余計に嫌われ、ユーリが固執し内側に籠ってしまう一方なのを気付いていなかった。
長い廊下を抜けて城近くまで4人は来ていた。衛兵の鋭い目付きの男性は休憩に入ったのかいなかった。
「では、失礼します」
別れの挨拶を告げるとアーサーが何か声をかけようと口を開いたのでウィリアムとフィーが急いで塞いだ。これ以上、この国の失態を晒してはならないと感じたからだ。
もがもが言って暴れているアーサーを横目にペコリとお辞儀をしたユーリは、ガンツやナンシーやアンリが待っている白鹿亭に帰る為に足早に立ち去った。
読んでいただき、ありがとうございます。
王子の一方通行な思い。




